遊園地へ!
『お友だち(偽)』鬼島とナツ
『有澤さんと高牧くん』有澤と満和
『佐々木さんの恋人』佐々木とシノ
六人が仲良く遊園地へ。
*
朝起きたら鬼島さんがいて、あれよあれよという間に着替えさせられご飯を食べさせられ、車に乗せられて高速道路を一時間半。
「……遊園地?」
絶叫系のスピードの速さや高さ、お化け屋敷の長さでワールドレコードを持つ、ということを売りにした有名なところ。
開園したばかりのようで人がぞろぞろ入っており、早速甲高い声と共にコースターの轟音が頭上を通り過ぎる。
それも気になったが何より、入園口隣で明らかに異彩を放っている四人に気を取られた。
「……すごい目立ってるんですが」
「そうだねえ」
休日モードの有澤さん、満和、佐々木さん、シノくん。美形に囲まれる美少女にも見えるし、美少年美少女と保護者にも見えるし、あそこに自分が混ざらなければならないことに戸惑いしか感じない。外から改めて見るとなかなか贅沢な集まりだ。
「……今日は加賀さんとウキョウくん、いないんですね」
「陵司くんはお仕事で欠席。陵司くんっていうブレーキがいないとこぞ……仔猫ちゃんがナツくんといちゃいちゃしだして鬼島さんが割を食う羽目になるから欠席させた」
「……そうですか。ちょっと寂しいな……」
「……」
ウキョウくんの代わりにばくっとハグをしてきたのはシノくんだった。
「ナツさん、今日もとってもかわいいです」
「シノちゃんのほうがずっとかわいいよ?」
甘い良い匂いに恥ずかしくなる。ひらひらふわふわした白いスカートがこんなに似合う子がいるのかと、なんだかとても新鮮な驚き。
腰に腕を回すべきか否か迷っていたら佐々木さんと目が合って、蛇的な睨みをきかされたのでそっと離れる。佐々木さんはおれを「みおろす」というよりも「みくだす」感じ。嫌な雰囲気ではないのだけれど。
「満和、大丈夫? こんなところに来て」
「うん、意外と大丈夫だと思う」
有澤さんと満和はしっかりと手を繋いでいて、その腕には同じブレスレットをしている。細い銀色の何かを編んだみたいなやつ。素材はよくわからない。
仲が良いな、と見つめていたら鬼島さんに「繋ぐ?」と聞かれたので丁寧に辞退した。
「……はっ」
「なぁにナツくん」
「今気づいたんですけど」
「うん」
「鬼島さん、今日はスーツじゃないんですね」
「え? うん。さすがに遊園地にスーツはないでしょ」
黒寄りインディゴカラーのシャンブレーシャツに黒いインナー、黒いパンツ。背が高くて体型がきれいだとぴったりはまって羨ましい。有澤さんは身体が大きくてがっちりしているから色味の強いカジュアルが似合い、佐々木さんに至ってはモデルさん並みに何でも着こなす。
満和は有澤さんの趣味なのだろう、似たような格好をしている。シノくんは言うまでもなく可愛い。
おれ、大丈夫かな?
こんな人たちと一緒に居て罰が当たったりしないかな。
「さ、入りますか」
鬼島さんはすたすたゲートへ近付いていき、スタッフと何やら話す。渡されたものを受け取り、おれたちを手招きした。
「はいフリーパス」
「え?」
「お金払ってないから、いらないよ」
有澤さんと佐々木さんに言い、ひとりひとりに配った。腕につけるタイプで腕時計のような雰囲気。鬼島さんがおれの分を、かち、と右腕に巻いてくれた。
「お金払ってないって……?」
「鬼島さんの秘密」
そう言っておれの頭を撫で、一緒にゲートをくぐった。
入ったところでパンフレットを見る。
「ナツくん、絶叫系大丈夫?」
「多分。乗ったことないですけど」
「あーりんは?」
「平気です。でも高牧くんが微妙ですね」
「佐々木は?」
「俺は無理です」
「えっ。おじちゃんだめなの!」
「佐々木、駄目なのか」
「まじで? 佐々木」
「俺にだって苦手なものくらいありますよ。今日は満和くんと平和な乗り物乗ります」
満和を見つめる佐々木さんを見て有澤さんが「てめぇフカシこくなよ。高牧くんとふたりっきりになりてぇだけだろ」と言ったら小さく舌打ちしたので、どうやらそれが目的だったらしい。
「大丈夫だと思いますけど……乗ったことがないから」
「じゃあまずは優し目なやつにチャレンジしたらどうですか」
満和の言葉を聞き、シノくんが提案した。それにより絶叫系初心者におすすめ、という、短めのアトラクションへ。
園内は人人人、待機行列があちこちにできている。これはスムーズに乗れないかもしれないな、と思っていたら鬼島さんは列に並ばず、係員に腕のパスを提示した。それで通されたのはまた違う入り口から。
ステンレスのゲートにある赤い部分に翳すと、ぴ、と機械的な音がして開いた。
一体これは何なのか。よく見ると並んでいる人たちはもう少し簡単な作りのビニール素材のようなパスをしている。
並ぶことなく入れてしまい、おれとシノくんは乗り物最前列に、後ろには有澤さん満和、鬼島さん佐々木さんと続く。
「なんか緊張するなー」
「大丈夫ですよ」
ニコニコ笑うシノくん。
「慣れてるの?」
「うん。昔よく来ましたから。父親とか兄弟とかと」
「シノくん、兄弟いるんだー」
「兄が五人います」
「大家族!」
甲高い出発音が鳴り、ゆっくり動き始める。レールが複雑に組まれ、いきなり止まったり動いたり加速したり、上がったり落ちたりを繰り返すアトラクション。腰が痛くなるレベルの急停車と急カーブにひぃひぃした。
絶叫感は無い、と思っていたら最後にしっかり落ちた。かなりの落差で。外からは見えない、組まれたレールの最奥だから向かいのレールに向かって落ちるようで怖かった。
「……ナツさん、大丈夫?」
「うん……ごめん、びっくりしただけ」
ゲートを出ると、有澤さんがぐったりしていた。「酒が……」と言う。よく聞けば今朝方まで飲み会で浴びるように飲んでいたらしい。
「それで運転してきたの?」
「なわけねぇだろ。運転手連れてきたわ……」
「満和はどうだった?」
「案外平気だった」
満和はけろっとしている。有澤さんはしばらく休むと言うのでベンチに置き去りにし、次へ。佐々木さんが満和ににじり寄るのをシノくんがガードする。
「シノちゃん、嫉妬?」
「もう……知らないっ」
ぷん、とするシノくんは文句のつけようがないくらい可愛い。隣で手を繋がれた満和が真っ赤になっていることに気づいて欲しかった。
「鬼島さん、次これですか」
「うん。中級だって」
中級というには高さが半端ではないし、並ぶところになぜかおむつが自販機で売っていた。それはつまり失禁する人がいる可能性がある、ということだろう。
「……おれ、自信ないです……」
「待っててもいいよ?」
「シノ行くー! 満和さんは?」
「行ってみようかな……」
「俺は行くよ」
「ナツくんは?」
「……い、い、行きます……」
「じゃあ鬼島さんが隣に乗ってあげるね」
結果的に言うと、白目を剥きました。落ちすぎてどこを見たらいいのかわかりませんでした。後ろでキャーキャー楽しむシノくんの声が妙に遠くに聞こえました。
「……だめだ、これ、だめだ……」
よぼよぼ降りたおれ、笑いながら支えてくれる鬼島さん、ピンピンしている満和と楽しげなシノくん、無表情の佐々木さん。
有澤さんがアトラクションの下で、待っていて気の毒そうな目でおれを見た。
「上級者向け、いくひとー!」
シノくんの声に手を上げたのは有澤さんとおれ以外。鬼島さんはこういうのが好きらしい。
「ナツくんに手ぇ出さないでよね」
と念押しし、少し離れた上級者向け、落下傾斜90度、1.8秒で172km/h という怖すぎるシロモノに向かって行った。
おれと有澤さんはパンフレットを見つめた結果、園内のほぼ中心にある足漕ぎボートへ。
「平和ですね」
笑いかけてくる有澤さん。漕いだのは最初だけで、混んでいないからぷかぷか浮いているだけ。
「有澤さん、大丈夫ですか」
「ええ、自分は大丈夫です。ナツさんは優しい」
「いえ」
精悍な顔をした有澤さんにじっと見つめられるとちょっとだけどきどきしてしまう。満和はいつもこんな気持ちなのだろうか。おれは顔に少しだけときめいてしまうけれど、満和はすべてが好きなのかな。
「あの、ナツさん、聞いてもいいですか」
「はい」
「……高牧くんから、なにか聞いていたりしませんか、ね」
困ったような顔。なにか、って? と問うと頬をかき、実は、と言う。
「高牧くんはあまり本心を打ち明けてくれないので……一緒にいることとか、どう思っているのかな、と……すみません、変なことをお聞きして」
「満和は……おれにも、あんまり。有澤さんがいい人とか、そういうのは聞かせてくれるんですけど」
「そうですか」
「どうかしました?」
「自分は鬼島さんや佐々木のようにはできないので、高牧くんにとってはいい人間ではないな、と」
「……あんまり自分について話さない満和が有澤さんについてたくさん話すのは、やっぱり好きだから、だと思います。子どもの考えですけど」
満和は有澤さんを好いているように見えるし、いつも楽しそうだ。有澤さんにはそういうことを明らかに言わないのだろう。
有澤さんは微笑んで、やっぱりナツさんは良いこだ、と頭を撫でてくれた。真っ赤になったことは言うまでもない。
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