右京ナツ、シノプロデュースで変身する

 

お友だち(偽) ナツ
拾った子の癖は ウキョウ
佐々木さんの恋人 シノ

さんにんで女の子の格好です。





「ナツさんとウキョウさんの負けですね」


 にっこり笑うシノ。トランプを使ったカードゲームで何回勝負しても勝てない。


「約束ですから」


 そう言って可愛らしい顔を嬉しさでいっぱいにし、シノが取り出したのは様々なメイク道具。
 ナツとウキョウは顔を見合わせ、まあいいか、と呟く。それに互いに見てみたい、と思い始めている。女の子の格好をしたらどんな風になるのか。


 真っ昼間のカフェテラス、傍目には女子が三人でお茶会をしているように見える。しかしその中に、生物学上の女の子はひとりもいない。

 シノは満足げに前へ座るふたりを見た。

 元がきれいなウキョウにはクールなスモーキーメイク、ストレート黒髪ロングのウイッグをつけてもらった。ナツにはビタミンカラーで可愛らしさを狙ったメイクを施し、明るめ茶髪のボブウィッグ。ふたりともそれほど大柄ではないので、身長以外の体型は服でごまかせる。


「うう、足元が落ち着かない……」


 そわそわするナツの足元はスカート。もちろんウキョウもだが、こちらは妙に落ち着いて、ごく普通にミルフィーユなどを突いている。
 リップグロスでつやつやした唇を笑みの形にして、ちらりとナツを見る。わざと太めのアイラインを引き、強調したウキョウの視線はますます色っぽい。


「楽しまなきゃ、損だよ?」
「損って……無理だよ」
「可愛いから大丈夫ですよー」


 にこにこするシノはどこからどう見ても可愛い女の子。ウキョウはきれいで、自分はそんなに仕上がっているとは思えない。


「はー……」


 深い深い溜息をついたとき、シャリン、とシャッター音。見ればシノがスマートフォンを操作している。


「……撮った?」
「撮ってません」
「撮ったよね?」
「撮ってないです」 


 可愛らしい笑顔を浮かべながら、両手の指がめまぐるしく画面を叩いていた。絶対撮った! しかしシノは認めない。

 首を傾げながらいちごのショートケーキに華奢なフォークを刺し、口に運ぶ。


「あっ、おいしいこのケーキ!」


 一気に目がきらきら、先程までの不安そうな表情など影もなくケーキを見つめる無邪気な目。
 その様子を見て、ウキョウは心底ナツを可愛いと思う。くるくる変わる表情や、素直な感情。ありきたりな表現だけれど、太陽のように明るい子。


「ウキョウさんは、ナツさんが好きなんですか」
「ん、すき」
「加賀さん? は」
「おじさんとは別枠」
「べつわく……」
「うん」


 クールな横顔であることに変わりはないはずなのに、彩りが増えたようなウキョウの顔。
 人の顔はおもしろいな、と、シノは思う。見た目では測れない何かは確実にあって、時間が立って滲み出てくる何か。
 佐々木のおじちゃんと初めて会ったときもそうだった、などと思い返してみたりして。


「ナツさんは、ウキョウさんが好き?」


 ケーキをもぐもぐしながらウキョウを見て、ウキョウに笑いかけられて真っ赤になってシノを見た。


「うん、すき……っ」
「シノは?」
「すき」


 シノを見ても頬を赤らめた。意識するとだめなようだ。その様子にくすくす笑う。たしかにナツは、可愛い。


「なつ、今日は家に泊まるでしょ?」
「あっ、うん。お願いします」
「じゃあ、この恰好でタノシイこと、しよ?」


 肩に手を置き、耳元に囁く。その様子は元気そうな女の子に妖しげなお姉さんが囁いているような、独特の雰囲気。
 可哀想なくらいに赤くなったナツはわたわたしながらウキョウを見る。うぶな様がとても可愛い。


「た、たのしい、こと?」
「うん。タノシイこと……」


 ふたりの写真を無音カメラアプリでこっそり撮影、送信する。
 すぐに返信が来た。


「鬼島さんが仔猫ちゃんから引き離せって」


 佐々木からのメッセージ。
 くす、と笑って一文送信。


「シノもナツさん好きになっちゃったかもしれないから、鬼島のおじちゃんライバルだね」


 さてさて、大人ふたりがどんな顔で来るか。

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