真っ暗なリビング。ソファにいる兄と弟。
 兄はリラックスした様子で座っていて、弟はだらだらと寝転がって兄の膝へ頭を置いている。兄の手が弟の手を握り締めるとすぐにすり抜け、また握られては逃げる。


「映画に集中できねーんですけど」


 非難を大いに込めた言葉に、弟を見下ろす。
 見下ろしてくる兄の顔。画面の光がくっきりした顔立ちの明暗を分ける。影を持つ様子も素敵だ。きゅんとはするものの、そう簡単に表したりしない。唇を突き出し、ふいと目を逸らして画面を見る。
 会話は英語、字幕を読んだり聞き取ったり、少し目を離すと話が読めなくなってしまう。兄のように言語に堪能ではないからだ。


「なあ、なんでこの人怒ってんの」
「会話聞いてなかったの」
「直のせいで右から左だった」
「僕のことで頭がいっぱいで? 嬉しいな」
「ちげーし。邪魔されて何一つ頭に入ってこなかったの! ばーか」
「あっちの人の一言がよくなかったせいで怒ってるんだ。確かに、配慮が足りない一言だったように思うね」
「なんて言ったの」
「……お兄ちゃんの口から弟に言うのは憚られるなあ」


 笑う兄。ふーん、と流す弟。とりあえず話の流れがわかればそれでいい。
 邪魔をするとそろそろ猫ぱんちよろしく手が出されそうだったので、おとなしく髪を撫でるに留めた。赤い髪はさきほど風呂に入って丁寧に洗って乾かしてあげたので、指通りよくいい香りがする。
 画面を見つめながら時々親指の爪をがりがりするので、口元から手をそっと離す。無意識らしく、そうされても気が逸れる様子はなかった。ごくまれに爪を噛んだり指の関節を噛んだりする弟の癖はなかなか完全に治らない。不安なのか、愛着不全なのか。ひとりでいるときはあまりやらないようなのに、自分がいるとするのはどういうことか。
 ふぅ、と小さく息を吐いた。
 自分が弟の不安の種なのか。一生懸命愛を注いでいるつもりなのにだめなのだろうか。


「……直」
「何かな」
「なんで急に人の尻揉んでんの」
「小さくてかわいいなって」


 手のひらが尻の肉を揉みしだく。つい先ほど手を出さないと決めたばかりだったのに、ついうっかりやってしまった。
 睨み付けてきた弟の目は鋭くて、でもきょろきょろとよく動いて素直でとても可愛らしい。兄の欲目かもしれないけれど。尻を揉みながら頬に口付ける。

 さて、愛していることを教えなければ。身体で。


「映画見てんですけど」


 不機嫌そうな声。


「もうすぐ終わるでしょ」
「ラストが大事に決まってんだろ」
「大丈夫。このラストはすごく単純、今はもう想像がついてるんじゃないかな。鈴彦くんは賢いから」


 尻の間に指を押し込む。びゃっと変な声を出す。きっと心の中では、風呂から出てすぐ寝間着を穿かなかったことを後悔しているだろう。こんな無防備にボクサーパンツ一枚と白いTシャツ姿なんて、触る側からしたらどうぞどうぞと言われているようなもの。と、最低な言い訳を考えながら手を這わせる。

 起き上がろうとしたのに、首元を押さえられて中途半端なうつ伏せで止められた。腰だけを上げるような状態。太腿に頬を寄せて、じたばたもがく弟を見る兄の目はもはや、兄のそれではなく。
 上半身を折り曲げて、可愛い弟の耳元で囁いた。


「さっき、お尻の中、きれいにしたよね」


 右足の裾から忍び込んだ長い指が、秘密の場所に容赦なく入り込んだ。


 エンドロールが流れ、メインメニュー画面で繰り返し、同じ音楽が聞こえてくる。けれどそれを聞いているのは誰もいない。
 ソファの上に放置された、蓋が開けられたままの潤滑剤。ぬるぬるとした液体をこれでもかといれられたそこは盛んに水音をたてる。


「おっきくなったね、鈴彦くん。ちょっと重い」


 膝にのせた身体を激しく振り立てるでもなく、鈴彦の尻を両手で支えてたまに揺らす。湿った白いTシャツの端を銜えさせられて、ぎちりと睨んでくる吊り目。鈴彦の首にキスをして、手を尻から胸に移した。親指でぐりぐり、嫌がらせかと思うほどに押しつぶす。突起を刺激されて溢れた涎がますますシャツを濡らす。


「身体も、こんなにすけべになっちゃって」


 もぐもぐ、何か言ったらしかったが、喘ぎに変わった。腰を揺らして、鈴彦が好む場所を押し潰したからだ。


「僕がいない間、どうしてるのかな。人を悦ばせてくれるすけべな身体、誰かに使わせてるの?」


 抱きしめて、揺さぶりながら、答えを求めず問いかける。
 だらしなく足を開いて淫らに鳴く弟、で、恋人。警戒心は人一倍なので、誰かに容易く触れさせることはないとわかっている。それでもついつい虐めるようなことを口にしてしまう。可愛がりたいのに、貶める。


「鈴彦くん、可愛いね。大好き」


 きゅう、と、そこが締まる。足も腕も兄を、恋人を抱く。
 素直だ。


「やらしい鈴彦くんが、好きだよ」


 テーブルに、鈴彦の背中を押し付ける。太腿を押し広げ、腰を振るう。緩んだ口からシャツの端はすでに逃げ出していて、恥ずかしいのか腕で顔を隠すみたいにしながら、隠れていない口元からひっきりなしに掠れた喘ぎ声が押し出されていた。
 しっかりしたテーブルは軋まない。
 ゆさゆさ、揺れるだけ。


「なおし、なおしぃ、っ」
「鈴彦くん」


 より深く入り込み、上半身を重ね合わせるようにして、鈴彦の口元を見つめた。ゆさ、ゆさ。はぁ、ぁっ、と声が徐々に息に変わる。腰骨の辺りが跳ね、腹筋がびく、びくと蠢いた。


「や、やだ、やだぁ」
「何が、嫌なの」
「出ちゃう、から、」
「可愛いから大丈夫。なんでも、好きなだけ出して。それとも飲んでほしい?」
「ばか、や、でちゃ、」
「出して。可愛いとこ、見せて」


 キスをして、腹に擦れる硬いものから何が出るのか、観察するべく身体を起こす。艶かしくくねる腰、手が伸びかけたので、両手首を掴んでそれを止めた。更にがつがつ、腰を振る。


「なん、なんでみてんの、ばか、みるな」
「可愛いから」
「ばか、ふざけ、ぁ、」


 押し付けられて、好きな場所を抉られて。
 見開かれた強気な目。とろんと快楽に溶け、涙で一杯になったそれは、暗い室内で画面の明かりを受けて美しい。
 ひくひく、中も入口も、締め付ける。
 鈴彦のそれは小刻みに震えて、しかし何も零すことはなかった。開かれたままの足が激しく揺れ、ふあ、ぁ、と、息と声を忙しなく発する。


「気持ちいいね、鈴彦くん。気持ちいい顔、可愛い。すごく可愛い。大好き。愛してる」


 腰を揺らされると、たまらない快感が激しく突き抜ける。持続するそれに恐怖しているかのような鈴彦を優しい眼差しで見つめる直。


「ぁ、やだ、や」
「気持ちいいね、鈴彦くん」
「な、」
「たくさんしてあげる。ただ気持ちよくなってね」
「も、やだ。いい、おなかいっぱい」
「お腹いっぱい? まだ何も、あげてないよ」
「いい、って」
「だめだよ。鈴彦くんはすけべだから、たくさん気持ちよくして満足させてあげないと」


 にっこり笑う直に、鈴彦は怯えたような顔をした。




「……股関節いてぇ……」
「あんなに足開いてたらね」
「うるせぇくそやろう。色魔。ばか」
「可愛かったよ」
「ふざけんな。頭がおかしくなるかと思ったんだぞ!」
「なってないから大丈夫」

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