深夜一時半。
 仕事を終えて家へ帰るとやはりソファーへ横になっているウキョウの姿があった。眠っているらしく、目を閉じたまま動かない。
 制服はきれいにハンガーへかけられてラックに下がっているし、部屋もこころなしかきれいだ。多分学校から帰って掃除をしてくれたのだろう。

 ゆっくり静かに歩いてかばんを置き、タオルと着替えを持ってそろそろと移動。風呂場へ。

 浴槽を軽く流し、ボタンを押して適量の湯が溜まって行くのを見つめる。
 どんなに遅く帰っても風呂だけは欠かさない。きちんとつかり、しばらくじっとする。シャワーだけだったり入らないでいたりするともう悪夢に見舞われて最悪の朝を迎えるはめになるのだ。
 だから部屋を選ぶときの基準は浴槽と風通しだった。浴槽は十分な広さを保ち、脱衣場から物干し場に続く扉があって、開け放しても周りに建物が無いから誰かに見られる心配もない。浴室にも窓がある。どちらも完璧。

 浴槽の半分ほどまで湯を入れ、服を脱いで身体を洗い、浸かる。足を伸ばすと今日一日の反省会が勝手に頭の中で始まる仕様だ。
 あれこれと思いを巡らせていると、すりガラスの向こうでゆらゆら影が動いた。


「ただいま、ウキョウ」


 声をかけても返事がない。
 一瞬見てはいけないたぐいのものかとも思ったけれど、少し戸が開いて顔をのぞかせたのは間違いなくウキョウで。
 しかしその目は妙におどおどしている。


「どうしたの。なんかあった?」
「一緒に入ってもいい?」
「うん、いいけど……」


 すると服を着たまま、洗い場の椅子に座った。七分袖の黒いTシャツとぴったりした薄手のスウェットズボンという部屋着のまま。
 そこそこ筋肉のついた腕や足は確かに青年になりつつあるそれで、漂う危うい色気がたまらない。濡れた手を伸ばすと両手で掴み、中指の関節、曲がって山になっているそこへちゅっと唇で触れる。そのまま指を銜えこまれ、熱い口内の上顎と舌に挟まれて出し入れ。
 ちゅくちゅくと水音まで立てて、まるで口淫のようなそれに没頭しているウキョウの頭を、乾いたタオルで拭ってからもう片方の手で撫でてやる。
 と、上目遣いに俺を見た。


「なんかあった?」


 改めて聞く。
 ちゅ、となんだか卑猥な音をたてて指が口から抜かれた。


「……おじさん、怒ってない?」
「どうして?」
「ぼく、寝てた」
「怒ってないよ。むしろ寝てて安心した」
「返事もしなかったし」
「心配にはなったけど、イラッ、とかはなかったな」
「……ごめんなさい」
「いいよ。お風呂から上がったら一緒に寝ようね。待ってたんでしょ。あと、お掃除ありがとう」


 お礼を言うと戸惑ったように目を泳がせ、おもむろに指を銜えて歯を軽く立てる。きりきりとするがあまり痛くない。
 好きだと思うと噛みたくなる――ウキョウに噛まれているときは好きだと思われているとき。
 愛しいと思う俺はダメなんだろうか。


「ウキョウ、今日は一日何してたの。お風呂出たら寝るまで聞かせて」


 何にどう思ったのか、少しでいいから声でも聞かせてほしいと思う。不慣れならば慣れていけばいいのだし。

 ウキョウは頭を洗ってくれて身体も洗ってくれて、その甲斐甲斐しい様子にイタズラしたくなったけれどなんとか抑えて風呂を出た。


「ベッド行こう」
「でも、ベッド冷たいよ」
「ずーっと抱っこしてるから一緒においで」


 言えばおとなしくついてきて、先に寝そべった俺を見つめる。
 やがて服を脱いで下着だけになり、腕の中へ。俺の胸へウキョウの背中がくっつく。


「おじさん、あったかい」
「でしょ」


 抱きしめて話を聞いて、その間もウキョウはずっと俺の手を握りしめていた。
 次第に声が小さくなり、やがて俺の親指の付け根あたりへ唇を寄せて眠りの世界へ。
 俺もウキョウの後頭部へ鼻を擦り付ける。シャンプーとウキョウの匂いを感じ、あっという間に眠気。
 おやすみと囁いたら寝息が答えた。ような気がした。

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