ナツ
加賀(かが)
右京(うきょう)


「病み加賀」風味。
いつもの明るく穏やかな加賀はいません。多分。
「加賀とナツ、右京とナツなんて嫌だ!」
と思われるお客様にはおすすめしません。
注意です。





 夏休みの課題を教えてもらうために、ウキョウくんの家にお泊りに来た。助けてもらったおかげでほぼ全部が終って、あとは心置きなく楽しく過ごせそうだ。一緒にお風呂に入ってご飯を食べて、同じベッドで眠りについた。
 そして、ふと目を覚ました。目の前の壁に掛けられた無音の時計の針には蛍光塗料が塗られていて、暗い中でも何時かわかるようになっている。夜中二時。どうしてこんな時間に目を覚ましたのだろう。
 眠りが残ったまま、ぼんやりする頭。
 しかしそれはすぐに覚醒した。後ろから紛れも無い喘ぎ声が聞こえてきたからだ。


「あ、おじさ、だめ」
「静かにしないと、なつくんが起きちゃうよ……?」
「んっ、ぁ、あ、やだ、おじさん」


 ウキョウくんの、いつもと違う声。甘ったるくてとても色っぽい。どきどきとおれの心臓はうるさく音を起てて、起きていると気付かれないようにぎゅうっと目を閉じた。どうしよう。どうしたらいいのだろう。
 押し殺した声はずっと聞こえてきて、ベッドもわずかに動いている。後ろで何が行われているか、わからないことはない。どきどきが増していく。身体が熱い。どうしよう。


「……起きてるんだね、なつくん」


 加賀さんの声にびくっと身体が震えてしまう。するりと手が伸びてきて、甲が頬に触れた。鬼島さんとは違う体温、違う匂い。くらくらするような甘い匂いがした。


「右京、なつくんに見てもらおうか」
「ゃっ、やだ、だめ……っ」
「どうして? 右京のこの姿、とってもかわいいのに」


 加賀さんはくすくすと笑って、おれの髪を軽く引いた。ねえなつくんこっち向いて、と。一瞬迷って、でももう一度名前を呼ばれて、どうしてだろう、おれは振り返ってしまった。離れていってしまう甘い体温に惹かれたのかもしれない。
 後ろでは、加賀さんの腰の辺りをまたいでいるウキョウくんの姿があった。オレンジの、光量の抑えられたベッドライトに白い肌が照らし出されている。加賀さんの、いつものように優しい横顔も見えるけれど、半分ほど陰になっているせいか、なんだか少し怖い。加賀さんが腰を揺らすと、ウキョウくんがひくんと身体を震わせた。パジャマを着たままの加賀さんのお腹に手を突いて、甘く喘ぐ。
 色っぽく蕩けた目でこちらを見下ろしたウキョウくんが、小さな声で、みないで、と言った。どきどきはまるで耳元に心臓があるかのようにうるさい。身体が石になったよう。


「見ないでほしいの? 大好きななつくんには、何を見られてもいいんじゃない?」


 言いながら加賀さんは腰を揺らす。


「だめぇ……っ」
「だめなの? どうして? 好きなんでしょう」
「おじさん、なんかへんだよ……っ」


 恥ずかしそうに、でも気持ち良さそうに喘ぐウキョウくんから目が離せない。細い身体を揺らめかせ、華奢な肩をすぼめて震える。こちらをたまに見ては、ぎゅっと目を閉じた。こんな風に切ない表情をするウキョウくんは初めてだ。
 腰を止め、こちらを向く。
 にこ、と笑った加賀さんは、おれの身体を引き寄せた。びっくりするくらいの力強さで。


「起き上がって、なつくん」


 操られているように、その声を聞いて身体を起こす。ウキョウくんが近くていい匂いがした。


「右京、なつくんが見てるよ。……意識してるのかな。普段よりもっと中がきゅってして気持ちいい。ねえ右京、なつくんにも一緒に気持ちよくなってもらおうか」


 悪魔のような囁きに、ウキョウくんもぼんやりした目で頷いた。するりと細い腕が伸びてきて抱き寄せられて、唇同士が触れる。ちゅっちゅ、と、口の中に入り込んできた舌が音をたてた。手のひらが身体を這う。下半身には、加賀さんの手が触れてきた。


「なつは、胸がすきなんだよね……?」


 とろんとした目のウキョウくんの手が裾から入り込んで、胸を揉む。あぅ、と変な声が出てしまって、でも加賀さんの柔らかな声が「かわいいね」と言う。あったかい手で胸を弄られて、積み重ねがあって簡単に兆してしまった下半身。
 いつの間に身を起こしたのか加賀さんがおれの頬にキスをして、ズボンからそれを取り出してしまう。


「なつくんらしいね」


 くす、と笑った加賀さん。長い指を絡ませ、穏やかに刺激を与えてくる。立ち膝になってウキョウくんにしがみついて、ウキョウくんは片手でおれの胸を途切れ途切れに弄りながら片方の手で加賀さんの肩に掴まり、震えている。加賀さんのもう片方の手が、容赦なくウキョウくんのそれも扱いているからだ。おれにするよりずっと強く、少し乱暴に。


「右京はなつくんが大好きだから、なつくんの手でいかされたいのかな」
「んん……やだ」
「やなの?」


 言いながら、加賀さんの手がウキョウくんのそれから離れる。どうしたらいいかわからずにただ脱力していたおれの手に触れ、誘導する。もしかして、と思う間もなく、想像通りになった。ウキョウくんのはおれのより少し細くて、でもとっても硬い。加賀さんの手がおれの手を上から包んで動かし始めた。


「だめ、なつの、て」


 ウキョウくんは涙を零して身悶える。細い太ももと同じように、手の中で震えるそれから目が離せない。


「いつもよりたくさん零れてくるよ。俺の手なんかよりもいいみたい」
「ちがっ、ん、や、や……っ」


 とろりと溢れた白い液が、おれの手を汚した。加賀さんは「たくさん出たね」と笑って、俺の手を口元まで持ち上げ舐める。いやらしく絡む肉の感触。ぞくぞくと背中に痺れが抜ける。すべてきれいに舐め取ってから、太ももの上におれの手を置く。


「……右京、自分ばっかりよくなるのはずるいと思わない?」


 ふふと笑って、両手でウキョウくんの細い腰を掴んで持ち上げた。下りろ、ということらしい。ずるりと抜けたそれは優しそうな外見にそぐわない凶悪さで、てかてかしたコンドームに覆われて一層卑猥に見えた。
 ウキョウくんはベッドに膝をついて身を伏せ、おれのを口に収めた。加賀さんの手が後頭部を押し、ますます深く飲み込まれる。ウキョウくんが苦しそうに呻いても、目を細めているだけ。締め付けられるおれの。このままだと喉の奥で出してしまいそうだ。


「なつくんのことが大好きだから大丈夫だよね?」


 ふる、と震えるウキョウくんは加賀さんに怯えているようだった。ふふと笑う加賀さん。やっぱり今日はいつもと違ってとても怖い。やがておれは出してしまって、ウキョウくんが激しく咳き込む。その身体を優しく抱いた加賀さんはおれを見た。


「右京と仲良くしてくれてありがとう、なつくん。とっても嬉しいよ……」


 その目は全然笑っていなくて、鬼島さんの表情とは全く違う冷たさを感じた。


「さ、お風呂に行こうか。いやらしいことはもうしないから、おいで」


 逆らうことは許されない。そんな気がしたから、ウキョウくんを抱き上げた加賀さんのあとについていった。


 昼近くに目が覚め、隣ではウキョウくんが眠っていた。加賀さんの姿はどこにもになかった。
 全部が夢だったような気がする。おれの身体に変わったところもないし、ウキョウくんの顔も泣いたような感じはない。起き出してリビングを見てもしんとしており、浴室を見ても濡れていない。昨日の夜にウキョウくんと入ったままのようだ。
 夢だったのかな。



 スマートフォンの画面を見ながら、くす、と笑う加賀。隣の後輩が「どうしたんですか」と聞いてくるが謎めいた笑みを浮かべるばかり。
 その画面には、かわいらしい仔猫が二匹、絡みあっている姿がある。風呂に入ったあとでふたりだけで睦み合わせたときの写真だ。きっとふたりは夢だと思い、何も口にしないだろう。


「右京がなつくんなつくん言うからだよ」


 いつもと同じように笑う加賀。しかしその目には暗い灯りがちらちらと燻っていた。

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