お風呂に入っているときはゆっくりしたいので何もしないと決めている。可愛い右京と久しぶりに一緒に入って抱っこしてもくっついているだけ。


「右京は細いね。髪も、身体も、指も、全部」


 洗い立ての髪は甘いようなシャンプーの匂い。握り締めている手は自分のものよりいくらか小さく、指は小枝のようで身体は骨が浮いている場所ばかり。顔つきは一見するとそんなに痩せている感じはしないのに。
 右京はこっくり頷いて、俺の身体に寄りかかってきた。やがてゆっくり、深く息を吐く。


「おじさんとこうやってお風呂入るの、久しぶり」
「そうだね。寂しい思い、させて、ごめんね」
「うん」
「明日は午後からだから、お風呂から出たらゆっくりご飯食べていちゃいちゃしようね。してくれる?」


 頷く。俺の指に指を絡めて、ぎゅっと握った。可愛い。口が上手じゃないと本人はよく言うけれど、そういうところも、こうやって態度で示してくれるところも、とても可愛い。
 それから手を持ち上げてかぷり。がぶがぶ、二の腕の辺りを噛んで来る。あっちにいったり腕を変えたり、さまざまな場所に噛み付いては、近くを吸い上げる。

 一緒にいればいるほど心が離れる、なんて言う人もいるけれど、俺はこの子が可愛くて仕方が無い。いればいるほど、知れば知るほど、可愛くてたまらなくなる。どこまで自分を溺れさせる気なのかと思ってみたりもして。
 抱きしめると腕にちょうどいい。


「おじさんは」
「ん?」
「ぼくといられないとき、寂しい?」
「電話でも言ったけど、右京のことばっかり考えてるよ」
「……」
「やらなきゃいけないことが終って休憩してるときとか、時間がちょっと空いたときとか、ふっと右京の顔とか姿が浮かぶんだ。今何してるかな、ひとりで嫌だろうな、って」
「ぼくのこと、たくさん考えてくれてる?」
「頭がいっぱい」


 そっか、と呟くその声は、いつもと変わらないように聞こえるけれどわずかに弾んでいる。嬉しいんだ。


「可愛いね」


 お腹がとても空いている。でも、右京と一刻も早く触れ合いたいような気もする。食欲と性欲、どちらをも同時に満たすことはできないのだろうか。


「右京、お腹空いてる?」
「うん」
「……すごく?」
「うん」
「そっか……」


 ぎゅっと抱きしめ肩に口付け。お風呂ではここまで。


「俺、もう出るけど右京は?」
「ぼく、もうちょっと入ってる」
「わかった。じゃあご飯作っておくから、のぼせないようにね。出る前に声掛けて」


右京より先にお湯から出た。浴室のドアを開け、身体を拭く。すると視線を感じたので見てみると右京が上目遣いにじっとこちらを伺っていた。


「おじさん、いつ運動してるの」
「あんまりしてないけど」
「あんまりしてなくてそんな引き締まってるの?」


 自分の身体を見下ろしてみる。一般的な体型だと思うのだけれど、引き締まっていると言うのだろうか。首を傾げると右京も首を傾げ、不満そうに唇を少々尖らせた。その顔も可愛いね、と言うと、むにむに口元を動かして、けれど結局何も言わない。
 ドアを閉め、服を着て、キッチンへ。
 高校生かなにかのように高ぶる身体を、冷たい水を飲んで静める。右京がお腹が空いていると言うのだからそちらを優先しなければ。

 今日も暑かったので、豚肉を茹でて冷やして、茹で汁に味をつけてスープにし、茹でた麺を入れてラーメンにする。野菜たっぷりの。豚肉は刻んだきゅうりやレタスとおろしポン酢でサラダとして食べる。足りなかったときのためにフルーツも切ってヨーグルトと絡めて冷蔵庫へ。
 あとは麺を茹でるだけ。
 そうなったところで、キッチンの近くで音が鳴った。壁にあるインターホンの隣に浴室のパネルが設置されている。お湯を溜めたり温度を変えたり、いろいろなことができるのだが、スピーカーとマイクもあってやり取りできるようになっているのだ。音が鳴るのは、浴室でマイクが起動されたときとお湯が溜まったとき、指定の温度になったとき。今の音はマイクが起動された音。


「右京、出るー?」
「うん」
「わかったー。今行くねー」


 出てきた右京の身体を拭いてあげる。子どもじゃないのだから、と最初は違和感を覚えていたようだったが、最近はおとなしく身を任せてくれるようになった。それどころか気持ち良さそうにも見える。柔らかな白い大きなタオルに身体を包まれた右京は一層繊細そう。けれど目をとろんと溶けていて、手を止めると「もう終わり?」という風に軽く首を傾げた。
 服はゆるっとしたシャツを着せて、下は何も穿かせない。もちろん今後のため。


「髪を乾かそうね」


 眠そうになってしまった右京を洗面台の前の背の高い椅子へ座らせ、ドライヤーのスイッチを入れる。温風を当てつつ、細い髪へ指を差し入れて動かしながら乾かす。


「可愛いね、本当に」
「んー……?」
「とっても可愛い。いつも新しく好きになるんだ」
「ぼくも、おじさんが好きだよ」


 世界でいちばん。
 鏡に映った右京の口がそう動いた。声にはならず、口だけが。それに微笑むと目を開けた右京が見て、ぽっと頬を赤く染めた。


「おじさんの、その顔、ずるい」
「ずるい?」
「うん。どきどき、しちゃう」


 もっとどきどきしてほしいなぁ。
 ほわほわに柔らかな髪に冷風を当て、冷ましてスイッチを切る。頭のてっぺんにキスをすると、ちょっとだけ笑った。ああ可愛い。崩れ落ちそうなくらい、可愛い。


「右京、ご飯おいしい?」
「うん。とってもおいしい。ありがと、おじさん」
「いっぱい食べてね」
「うん」


 たくさん食べた右京は結局うとうとして、ベッドに入ってすぐ眠ってしまった。その身体を抱きしめ、寄り添って目を閉じて、満たされる。
 とても幸せそうにご飯を食べたり眠ったりしている姿を見ていたら性欲よりも、なんだろう、保護欲とでも言うのか、そんなようなものが出てきたらしい。右京は何をしていても俺を癒してくれるし、幸せにしてくれる。ありがたい存在だ。
 出会えてよかったと、いつもいつも思っている。
 世界でひとり、生涯できっとたったひとりの大切な子。今日も明日もあさっても、あえなくてもずっと愛してるよ。

戻る
----- 
誤字報告所

×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -