雨が降っているのを床に座って眺めている右京は、窓の外に焦がれる猫のようにも見えた。しなやかで華奢な身体を俺の灰色のシャツのみで包んでいる、気位の高い猫。もっともそれは見た目だけで、中は懐っこくてとても可愛い子だ。


「外に出たいの?」


 後ろに立って頭を撫でる。こちらを仰ぎ見た右京に、温かい緑茶を手渡した。


「ううん、よく降るな、って思っただけ」


 普段より少し声が小さい。長い時間声を出し続けたせいで喉が疲れているのかもしれない。


「台風だからね」


 まだ夏にならないこの時期に上陸した台風。強い風が木々を揺らし、飽きることなく雨が降る。風に煽られて強くなり弱くなり、窓を叩いては離れる雨だれ。強い音がすると右京は驚いたように目を瞬かせていて、触れもしないのにガラスについた水滴に指を伸ばす。幼い様子のその動作が可愛い。

 ふうふうとコップから立つ湯気を二回三回吹き、少しずつお茶を飲む。ダイニングの椅子に座り、その横顔を少し離れて眺めた。
 朝からゆっくり身体を重ねてまた少し寝て、昼前に起き出してご飯を食べて、今。
 じっくりやりすぎて疲れてしまったのか、あまり動く気が起きないようだ。ぼんやりした色っぽさ漂う顔のまま、そこに座って外を眺めているだけ。
 ガラスの外には街並みが広がり、坂の下や少し離れた駅、様々な景色を見ることができる。が、今日のように天気が悪いと雲が近くて暗く、些か怖い。右京はそれが好きなようだが。

 やがて、ソファに置いてある青い毛布を引っ張って自分の身体を包み込んだ。お風呂に入ったので湯冷めしたら可哀想だ。ヒーターを点けると、ゆっくりこちらを見た。


「寒いのかと思ったんだけど」
「寒い」
「床暖房も入れた方がいいかな」
「それより、おじさん」
「ん?」
「ぎゅってして」


 首を傾げながら言う。ことばにできないような甘い気持ちがわき上がる。
 後ろから抱き締め、改めて身体を包む。くっついてみると温かいが、触れた右京の足はいささか冷えていた。そっと手のひらでさすると、ん、と、小さく声を漏らす。気持ち良い? と耳元で囁くと小さく首を横に振った。散々いたずらさせてもらったあとだから、これ以上はやめておこう。
 肩に顎を置き、くっついていると体温が心地いい。
 右京は俺の手を取って親指のあたりを甘く噛む。普段とは違って歯型をつけるようなものではなく、軽い噛み方。指を動かすと嫌がるように両手で押さえた。親指が終わったら手首に横から噛みついて、また指に戻って。ときどき歯が強く食いこんで痛むのが気持ち良い。

 やがてほどよく部屋の中が温まってきて、眠たくなってしまった。
 昨日の夜とさきほどと、結構たくさん寝たつもりなのだけど。


「おじさん」
「んー」
「ちょっと寝よ」
「ここで?」
「たまにはいいでしょ」


 右京のタイミングのいい申し出に、そのままふたりしてぱたりと横になってみた。まだまだ厚い灰色の雲が見える。毛布を広げて掛けて、後ろから右京を抱きしめたまま目を閉じる。髪が首に触れるのが、いい。
 いつになくゆったりした休み。
 たまにはこういう日もいいのかもしれない。荒天に感謝だ。

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