部屋に入って椅子を譲り、ぼくはベッドに座る。鈴彦はきょろきょろ周りを見渡し、物がねーな、と呟いた。


「てかお前、加賀さんの恋人だったんだ」
「うん。まさか鈴ちゃんとおじさんが繋がるとは思わなかったよ」
「加賀さん初めて見たけどめちゃめちゃかっこいいじゃねーか。あんな人に菓子貰ってたと思うと照れるな」
「十里木さんは、恋人?」
「あー……うー? よくわかんね」
「好きだよって言ったりしないの?」
「……」
「黙秘?」


 ううう難しいよな、と呟く鈴彦。そうか、鈴彦にとってこれは難しいことなのか。恥ずかしがって口にしないという様子にも見えるけれど、もしかしたらもっと深い理由もあるのかもしれないからあまり深く聞くのはやめておくことにした。


「うきょーは、加賀さんが好きなのか」
「好きだよ。おじさん、いっぱい愛してくれるから」


 ぎゅっとしてもらって、好きだと言われたらそれだけでもう幸せだ。我ながら安いと思う。そっか、と言った鈴彦は、なんだか少し寂しそうにも見えた。


「そう言えば、今日十里木さんお仕事だったんじゃないの? なんで鈴ちゃん、一緒に来たの」
「今日は午前だけだから一緒に昼飯外で食おうって言われて、食ってそのまま帰るのかと思ったら部下のとこ寄るよーって」
「そっか。これからは学校の外でも遊ぼうね。ぼく普段ひとりが多いから。鈴ちゃんもでしょ?」
「だな。あのおっさんち忙しすぎ。待ってるこっちは常に心配だっつーんだよ」
「わかる」


 その後、おじさんたちの健康維持に何が良いか、などととても十代の男子高校生とは思えないような話で盛り上がってしまった。鈴彦いわく赤マムシドリンクがいいらしい。おすすめのメーカーまで教えてくれた。

 ひとしきり話して、日が暮れる頃。ノックが聞こえておじさんが顔を見せた。帰るって、と。


「お邪魔しました、またね、右京くん」
「お邪魔しました」
「また」


 おじさんは十里木さんに夕飯を、と言ったのだけれど、また今度来ると断られてしまったらしい。
 ふたりで仲良く作った料理を食べながら、ふと思い出したことを口にしてみた。


「今度おじさんに赤マムシ買ってくるね」
「えっ、何の話? 鈴彦くんとどんな話してたの」
「いろいろ」

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