肌に食い込む、硬い身体の一部。右京の歯の感触はもう知りすぎるくらいに知っている。
 痛くない、わけはない。噛みつかれているのだから。しかし右京が満足ならば、という思いと、所有されているみたいでどきどきする、という思いがある。だから受け入れられるのだ。

 けれど、ときどきは、こちらからも何かしてみたくなる。


「おじさん?」
「んー?」
「出掛けないの?」


 買い物に行く、と言ったら、ついていく、と右京が部屋着から着替えてきた。コートを片手に持ち、厚手のニットにスリムなパンツ姿。最近髪を切り、前髪も襟足もかなり短くなった。
 顕になった首筋と、ざっくり空いた襟周り。鎖骨も見えている。なめらかなその肌に簡単に欲望を膨らませるほど、右京との接触に飢えていた。

 後ろから抱きしめたあとに肩へ両手を置き、僅かに身を屈めておっさんらしからぬ可愛らしいキスを肌へ。音を起てて軽く触れたあと、強めに吸い付く。掴んでいる肩がひくんと揺れた。
 うなじに何度も繰り返し、朱い跡をつけてゆく。離れた時にはくっきり、いくつもの染み。俺の跡、と思うとひたひた満足する。嬉しい。
 右京の肌は吸うと簡単に跡になる。それに感触がいい。若さだろうか特有のものだろうか、ずっと触れていたいと思うような質感。
 身体を反転させ、セーターをずらして右の肩や鎖骨の終わりのあたりにまた吸い付いた。
 いくつかまた朱。指で辿り、セーターを元に戻す。
 右京の不思議そうな目と目が合った。


「おじさん、急にどうしたの」
「髪が短くなって、キスしやすくなったなって思ったら止まらなくて」
「ふぅん?」


 秀でた額にも口づける。それからコートを着せ、マフラーを巻いてあげて外に出た。


「しばらく襟がない服、着られないね」


 エレベーターの中で右京がつぶやいた。ごめん、と言うと、俺を見上げて猫のように笑う。


「ぼくのきもち、わかった?」


 俺の胸の奥など、右京にはお見通しだったようだ。大人しく頷くと、手を持ち上げ、左手中指の指先をかぷり。


「おじさんは、ぼくの」


 ふふ、と妖艶に笑う右京は確実に大人になっていて、胸が高鳴る。この素敵なこが自分のだと思うとぞくぞく、した。

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