「あ」


 学校帰り、立ち並ぶブランドショップのショーウィンドウで見かけた本革の手袋。落ち着いた茶色がおじさんによく似合う気がして、想像したら簡単にできたから店に入った。
 制服姿のぼくにも、店の人は優しく対応してくれる。手袋を示し、他に色があるか尋ねると幾つか出てきた。ボルドー、ブラック、キャメル……やっぱりあの色が一番いい。


「一番大切な人にプレゼントしたいんです」


 そう言ったら、丁寧にラッピングを施してくれた。お支払いはカードで済ませ、かばんにしまって店を出る。
 どうやって渡そうか。せっかくだから隠してみようか。でも堂々と置いておくのもいいかもしれない。そうしよう。

 家に帰っていつも通り、課題をやってご飯を作ってお風呂に入って、それからプレゼントをセッティング。銀の燭台に赤い蝋燭をたて、クロスを敷いて真っ白なお皿を置く。もちろんカトラリーもきちんと揃え、シャンパングラスを置いてその中に細い便箋をゆるく巻いて入れた。
 そしてお皿の上に、プレゼントを。電気を消す。ゆらゆら揺れる蝋燭に照らされてなんだか綺麗だ。おじさんの反応は?

 玄関で物音がしたから、キッチンの方に隠れてこっそりうかがう。
 ドアが開いた。


「……わぁ……すっごい、何?」


 かさ、と音。見るとシャンパングラスの中の手紙に気づいてくれたらしい。何回も書き直した短い手紙。ただの感謝と愛の言葉。
 おじさんは、ふ、と息を吐いて笑った。
 その顔はとってもとっても可愛くて近くで見たかったけれどもう少し我慢。プレゼントを開けてからの反応が見たい。
 お皿の上のそれに手をかけ、しゅる、とリボンを外す。薄い袋から箱を出して開け、手袋を手に取ってまた笑った。ああ、おじさんの笑顔大好き。可愛い。

 ぼくが違う部屋にいると思ったのか、手袋を手に持ったまま廊下へ。その間に素早くソファへ移動して、何食わぬ顔で座っていたらおじさんが戻ってきて、目をぱちくりさせた。


「お帰り、おじさん」
「……ただいま。ありがとう右京。すごくうれしい」
「似合うかな、って思って」


 細身のスーツにタイトなコートを着た今日のおじさんの服装に、手袋はよく似合った。やっぱり間違いではなかったらしい。
 手袋を外し、箱にきちんと収め直してからかばんを開け、出したのは細い箱。


「これは俺から。サプライズじゃないけど、同じ日にお互いにプレゼント買ってるってすごい偶然だね」


 蝋燭の明かりだけのテーブルで、その箱を開ける。中にはシンプルな革ベルトの腕時計。赤いベルトなのに派手でないのは色味が抑えられているからだろう。


「見たときになんとなく右京っぽいな、って。どうかな」
「ありがとう」


 時計が壊れたと、たった一度話しただけなのに覚えていてくれたのかもしれない。たくさん嬉しくて、困る。


「右京、おいで」


 コートを脱いだおじさんに抱きしめられ、そっとキス。いつもと違う雰囲気だからか、日常生活を送っている部屋なのに新鮮な感じだ。


「本当にありがとう」
「ぼくも、嬉しい」


 少し早いプレゼント交換になってしまったけれど、嬉しくてたまらない。何度か唇を触れ合わせ、お風呂に入るおじさんにくっついて行った。

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