「おじさん、ぼくと一緒にいてくれるの」
「当たり前でしょ。もう今更さよならできるわけない」


 膝へ乗せて抱きしめると首筋へがぶり。八重歯が食い込む。おしりを抱えてさり気なく撫でる。若い弾力に満ちたぷりぷりのおしり。
 一緒にいてくれるの、は、俺のセリフだ。





 模試から帰ってきてお風呂に入り、ご飯を食べてからソファで右京が語ったのは、公園に至るまでの話だった。

 実の父親からは肉体的な暴力を受け母親からは性的な暴力を受け、それでも一緒にいてもらいたかったこと。でもどちらもそうしてくれなかったこと。
 お金は腐るほどあるけれど満たされずに、身体を明け渡すことを覚えたこと。そういう方法を教えてくれた相手が権力者と食事するだけでお金をくれるアルバイトを紹介してくれたこと。好きだよ、と言われて一緒に暮らしても相手はすぐにいらないと言い、何度も捨てられたこと。

 そして、求めても求めてもずっと満たされなかったこと。それは息をするのも苦しくなるくらい、辛かったということ。

 淡々と話していたけれど右京の手は俺の手をしっかり掴んで離さなかった。


「でもおじさんと一緒にいると、楽しさと嬉しさでいっぱいになる。ぼく」


 そう言って笑う。


「おじさんをずっと見てたよ。背筋が伸びてて優しそうな目、してて、ああいう目で見つめられたらきっと、毎日……しあわせだろうなって。やっぱり、今、すごくしあわせ」


 そう言って抱きついてきたから、膝へ乗せた。そしておしりを撫で回している。
 右京は歯型をぺろぺろ舐めて、俺の耳元で言った。


「ありがとうおじさん。だいすき」
「俺も。右京が大好きだよ」


 引き締まった腰を引き寄せて、上半身を密着させる。右京の体温はすっかり俺に馴染んで、夜はきっともうこれなしではいられない。


「おじさん。陵司さん」
「なに?」
「おじさんは、どうしてぼくを拾ってくれたの」
「可愛かったから」
「ほんと? それだけ?」
「うん。あんな可愛いこが家にいてくれて一緒に暮らしたら楽しいだろうな、って、それだけ」
「……ぼく、この顔で良かった」


 ふふふと嬉しそうな笑い声。
 見た目以上に中身はもっと可愛くて、おじさんはガッチリ心をつかまれちゃってるんだけど。黒髪ふわふわの後頭部を撫で、甘噛みされる感触を楽しむ。噛み癖だって可愛い。


「右京」
「なに?」
「俺を見つけてくれてありがとう。出会えたことが人生で一番の幸せだよ」


 もし右京が俺を見つけてくれなかったら。気づいてくれなかったら。きっと出会うことはなかった。
 俺の顔を覗き込んできた目は今にも水の奥に沈んでしまいそうなくらい、潤む。


「意外と泣き虫だよね」
「おじさんのせいだよ」


 親指で拭って目尻へキス。可愛い。可愛い。こんなに俺をハマらせてどうするんだろう。
 首筋へキスをして、Tシャツの中へ手をもぐりこませる。細い腰を撫でると身体が震えた。なめらかな若い肌は吸い付くよう。


「……初めてだよ」


 震える息混じりに、右京が呟いた。


「なにが初めて?」
「……恋人? と、セックスするの。すごく緊張する」


 瞳はもう欲情していて、けれどその顔には処女のような緊張感。俺が小さく笑うと、軽く肩を叩いてきた。
 なんだろう、とても嬉しい。
 右京がずっと守ってきた一番純粋なところへ触れるような――特別なものを感じる。


「じゃ、こんなとこじゃダメだね。ベッド行こうか」


 何度だってここでしたのに。
 柔らかなベッドに背中を預けて右京はすごく不安そうだ。


「おじさん、どうしよう。ぼく、すごい、」


 伸ばされた腕を取り、キスをする。息も言葉も全部奪うように深く深く口の中を探って敏感な上顎を舐めると、俺の身体の下で華奢な身体がびくりびくりと揺れた。

 こんな深いキスはあまり好まない。でも今日はしたくなった。不思議だ。

 離れたら甘い吐息が、俺と右京の唇の間の空気を揺らした。頬を染め、見上げてきた目には不安と期待と、それからなにか。
 その目に惹かれるまま、俺はだらしなく若い身体にむしゃぶりついた。
 緊張から固まっているのをほぐすように撫でて囁いてキスをして、服を脱がせる。

 すっかり知っている性感のスイッチを順番に押して、でもいつもみたいに簡単には気持ちよくはしてやらない。少し意地悪な心持ちなのはなぜだろう。
 中年の嫌らしさだろうか俺の性格の悪さかそれとも、征服欲か。

 身体を真っ赤にして泣きながら右京がその言葉を口にしたとき、これまでになく高まるのを感じた。


「……右京」


 片手を繋いでシーツへ縫い止める。空いている手で汗ばんだ額を撫でた。身体を沈めると右京の膝が俺の腰を挟む。


「りょうじ、さん。りょうじさん」


 思いの外弱々しい声で呼び、ふわり、右京の目から涙が溢れてきた。意地悪しすぎたかと慌てたが、ごめんなさいと何度も謝りながら片腕で目を隠す。
 中途半端はきつくて、深い場所まで埋めきって、頭を撫でる。


「痛い? 辛い?」


 はめきっておいてする質問でもない。
 しかし右京は首を横に振った。


「……怖い?」


 ゆっくり首を縦に振る。
 そっと手を解くと首に腕が回り、抱き寄せられた。胸が触れ、か細い泣き声が近くに聞こえる。
 頬へ髪の感触を感じながらしばらくじっとする。
 どういう種類で何が怖いのか、よくわからない。でも右京の怯えが収まるまでは待とう。キスをしたり撫でたり、待つ。
 しくしくと泣いていた声が、やがて止んだ。


「ごめんなさい」
「いいえ」
「……怖くなった」
「なにが?」
「今まで、こんな、誰かに愛されてるって思ったこと、なかったから」


 言いながらまた泣き出す。
 可愛すぎて、下衆なことに、おじさんのおじさんがかなり上機嫌だ。油断すると暴発しそう。
 息を吐いてやりすごし、右京の目を見つめた。


「精一杯、大事にするね。前も言ったけど、俺も俺の物も、なにもかも右京だけのものだよ。
あと、寂しかったり怖くなったら言ってほしい。がんばって気付けるようにするけど、なるべく申告してくれたら嬉しいな」
「うん」
「黙ってひとりで悩んだり苦しまないで。俺がいるから」
「うん。おじさんも、ね。疲れてるときはぼくに構わなくていいから、ぼくも、ひとりでベッドにいられるように、がんばるし」
「はい」


 ゆっくり内側を擦る。漏れる息に混ざる声がまた、下半身直撃。
 若い性器が反り返って震えて可愛い。指を絡ませ扱くと中がにゅくにゅく締まった。ざらざらしたところが気持ちいい、と、膜を一枚通してもわかる。

 何もかもが見える明るい室内で右京を見て、聞いて、話して。とても素直に俺の前にいる。
 精神的にも満たされてゆくのを感じた。


 りょうじさん、と甘い声に呼ばれて年甲斐もなく昂ぶり、普段よりだいぶ多く回数を重ねた。
 おじさん呼びもいいが、名前で呼ばれるのもなかなかいい。


「おじさん」


 後処理を終え、清潔なシーツの上でふたり、うとうと。擦り寄ってきたのを抱きしめる。裸の肌が触れるのは心地よくて好き。
 何度か名前を呼ばれながら噛み付かれ、返事をして噛み付かれて、やがて眠った。
 満たされた眠り。もう何も怖くないような気さえする。

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