「買い物行くけど、ウキョウも行く?」
「いく」


 玄関から声をかけたら、いそいそとやってきた。パーカーに黒いデニムのラフな格好。跳ねていた髪を整えてあげると恥ずかしそうな顔をした。可愛い。
 俺の買い物といえばだいたい食材。ゆっくり歩いて片道二十分の店へ歩いて行くのがお決まりで、今日もそうするつもりだ。


「散歩日和だねー」


 外に出ると柔らかな日差しがちょうど良い。ウキョウの手を取り歩き出す。こんなにいい天気なのに誰ともすれ違わない。
 傍らを見ると、気持ち良さそうに歩く恋人の姿。軽やかな足取りがいかにも若者らしい。
 こうして陽の下で見ると、改めてウキョウは十人並み以上の男の子だと思う。きりっとした顔や伸びやかな肢体が瑞々しくきれいだ。


「ウキョウは、どうしてそんなに可愛いの」


 気づいたら口から出ていた。言ってしまった言葉を取り消すことはできない。普段から可愛いかわいいと呪文のように口にしているものの、こう意識せずにぽろりと出てしまうのは少し恥ずかしかった。ウキョウも、首を傾げている。


「どうしたの、おじさん」
「ごめん……なんでもない」
「真っ赤だよ」
「み、見ないで」
「かわいい」


 あとから強烈な感情がやってきた。思わず立ち止まり、手で口元を覆うとウキョウも足を止め、俺の手をなでる。


「おじさん」


 ちらりと視線だけやると、微笑んで指へ口付けた。俺の、口を覆っている手の指へ。なんだかとても恥ずかしい。直接そうされるよりもずっと。
 珍しくウキョウに攻められている。
 が、年下の男の子に可愛いと言われるのも悪くない、と思えるのはどうしてだろう。
 たじろぐ俺が珍しいのか面白いのか、目をきらきらさせて見ている。


「……行こう。ね?」
「うん」


 やり直すように声を掛け、また指を絡めて歩き出す。さっきよりずっと温かい指や手のひら、楽しそうな恋人。
 普段時間がないだけに、こうして明るい時間に一緒に歩くだけでずいぶん幸せ。安い話だ。

 それでもやっぱり、遠出もしたい。


「ウキョウ、旅行はどこ行きたい?」
「んー」
「どこでもいいよ。アフリカでも」
「アフリカ、ぼくが無理だよ」
「そう?」
「国内がいい。温泉とか、神社仏閣巡りとか」
「渋い」
「好きなんだもん」
「帰りに旅行の本でも買っていこうね」


 車通りも人も多い道に出た。
 手を放そうとするのをつかまえ、半ば無理矢理引き寄せる。
 ウキョウがちらりと俺を見た。


「……あれ、出元じゃね?」
「マジだ。手ぇ繋いでんな」
「なに、どういうことなん?」
「わかんね」
 

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