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「……佳人」
「はい」
「そろそろ動けよ」
「嫌です」
「嫌ってなんだ」
「俺、康昊さんの中が好きなんです。こうやってくっついてもいられるし」
康昊は溜息をついて、擦り寄ってくるきれいな身体に触れた。筋肉の溝を撫で、子どもにするように背中を撫でてやる。
「あ、きゅうってなって気持ちいい」
「俺は違和感だらけだがな」
なんでもヨーロッパの貴族が使っていたという天然ローションを使ってたっぷり、念入りに柔らかくされたそこに痛みはない。しかしずっぷり入りきった佳人の太ましく長いそれが違和感満載で居座っている。
ご満悦、といった表情で繋がったまま康昊に擦り寄り、キスをしたりふわふわの髪を押し付けてきたり。傷ついた足を跨ぎ、健康な足だけ開かせた姿勢で股関節に無理が出ないのは、日ごろからストレッチを欠していないおかげだ。
外で食事をして帰ってきて、服を脱がせ合い風呂に入った。それからベッドに来て時間をかけて互いに高め合い、今に至る。愛撫さえもゆっくりだったところを見ると今日の佳人は相当甘えたい心持ちのようだ。
「佳人、なんかあったのか」
「何もないですよ」
ごろごろじゃれつく賢い大型犬。飼い主は顎を撫でてやり、鼻先にちゅっと唇を落とす。
「何もないか、ならいい」
言いたくないなら聞かない。知りたくないとか興味がないのではなく、話させるのは却って負担になることを知っているからだ。少なくとも、佳人の場合は。
「康昊さん」
「ん?」
緩やかな律動がときおり内部を騒がせる。すっかり馴染み、はりついて落ち着いていた内部が急な動きにざわめいては落ち着く。
じわじわ熱を持つそこに軽く息を漏らし、目を細めて佳人の頬をなでた。男ぶりはますます上がり、欲目かもしれないが年々男前さを増しているようにすら感じられてたまらない。
理知的な黒い眼差しが、康昊の顔を見下ろした。
「おれのセックス、つまんないと思う?」
「……あ? なんだいきなり」
「いや、あのね、この前友だちに、セックスのスタイルが変わらないのは男として最低だしパートナーに失礼。相手もつまんないのこらえて付き合ってくれてることに気付け。って言われたんです。おれ、多分この何年もずーっとおんなじようなのばっかしてるから……」
つまんなくてごめんね。
しゅんと項垂れた佳人。しかし康昊の中にいる佳人はがちがちで、なんだか笑えた。ときおり緩やかに腰も動かしているし、反省しているのかそうでないのかよくわからない。
はぁ、と明らかな溜息をついた康昊の手が、いきなり佳人の太腿裏を叩いた。ぱん、と良い音が鳴る。
痛みはさほど無いが、音にびっくりしてつい腰を押し付けてしまった。康昊の奥を急に暴くはめになり、すみませんと肩を撫でて謝る。
「俺は十年近くお前に喘がされているんだが。つまんないセックスだったらとっくにお前のここに俺のぶちこんでると思うぞ」
さらりとやらしく撫でられた腰。康昊はにやりと笑った。
「周りに流されるなよ。お前は俺の声だけ聞いてろ。相手は俺なんだから」
背中を辿って上がってきた手が首筋を包んで引き寄せる。至近距離、耳元で康昊が囁いた。
だから、もっとくれ。はやく。
同時に腰を揺すられた。うねる内部がたまらない。
大好きな胡先生にねだられて、あげないわけにはいかない。従順な大型犬は柔らかな康昊の唇にしゃぶりつくと大きく腰を使いはじめる。
おそらく抑える気のない康昊の、唸り声のような喘ぎがベッドルームの空気を震わせた。派手な声ではないのに、なぜこんなに煽られるのだろう。
興奮しきりの佳人のものは中でより硬度を増し、新たな快感を生み出す。二人の間で揺れる康昊の立派なそれにも奉仕を忘れない。
康昊の腹筋が勇ましく上下し、彫りが深くなるのは達するサイン。見逃さない佳人は、感じるポイントを深く突いて押し上げる。
艶めかしい声と共に溢れた白い液。その締め付けで佳人も追い立てられる。しかしこらえてやりすごした。
達したのを見て、指に絡んだ液を口に運びながら律動はやめない。康昊は戸惑ったように佳人を見たが、すぐに目を閉じて快感に集中し始めた。
ぎゅうぎゅうと佳人を抱きしめる肉に似たハリのある身体を撫でまわしながらひたすら腰を振る。
我慢して我慢して中へ一気にぶちまけたい。そんな気分だ。康昊にはたくさん達してほしくて手淫で攻め立てる。と、中が急に強く締まった。
「やめろ、手ぇ、離せ」
切れ切れに言われてもやめられず、逆にきつく擦り上げてしまった。
瞬間。
叫び声、とまでは行かないが、今までよりも大きな声を上げた。先端から吹き出てきたのは透明な水分。びしゃびしゃ音をたてて腹筋に溜まってゆく。
陸に挙げられた魚のように腰を跳ねさせ、与えられる刺激につい出してしまった。
「……っ、はぁ、っ……はぁっ」
荒い息が重なる。腹をびしょ濡れにし、引き抜かれて空洞となったそこからとろとろ白い液体を流す様は淫らで美しい。
特に後孔は、長く挿入していたせいか閉じ切らないでひくついている。指を這わすとちゅっ、と先端に吸い付くような様子を見せた。
「……よしと」
「はい」
「足りない」
「本当に?」
「ああ。だから、もう一回来いよ」
ふん、と笑う康昊の色気に当てられ、再度元気になったのを中へ。指を絡ませキスをしながら、再び行為に没頭した。
ベッドの揺れが止んだのは、ずっとあとのこと。
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