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年上ナツと優志朗くん


 
Switch「年上ナツと優志朗くん
普段通りのふたりがいいという方は引き返していただけた方が幸せです。





 仕事は順調、生活もまあまあ安定していて、友人関係などのお付き合いも問題なし。だけど、困ったことが一つだけ。


「ナツくん」
「また来たの、優志朗くん……学校は? って、聞いても無駄か」
「うん、無駄」


 玄関でにっこり笑う、おれより背が高い高校生。きっちり制服を着こなして、でもネクタイはしていない。苦手なのだそうだ。
 きちんと靴を揃えてアパートの中へ入って来る。そうすると、もともとせまい居間がもう少し狭く感じられるから不思議だった。玄関前にぽつんと置かれたスクールバッグはいつも大体空っぽか、本が入っているか、おれへの貢物という高いお菓子。今日は一番最後のものだった。


「ねえ優志朗くん、どうやってこんな高いお菓子買ってるの?」
「子どもにだって稼げるんだよ」


 くつろいだ様子で座って笑う。その笑いには、制服を着ているのが不思議なくらいの貫禄が漂う。いったいどこから出るんだろう。見つめ合うといつも目をそらすのはおれのほう。今日も、台所でもたもたと立っていたらいつの間に背後に来たのか、身体の両脇からにゅっと腕が出てきて、肩の辺りに顎が置かれた。


「ナツくんさ、最近俺の事怖がってるよね?」
「怖がっては、ない」
「嘘つき。じゃあこの前キスしたの怒ってるの?」
「怒ってないよ」


 つい先週のことだっただろうか、すぐそこにある壁に追い詰められ、覆い被さるようにキスされた。突然のことに驚いていたら、優志朗くんは困ったように笑って言ったのだ。


「ナツくん、大人になったらしてイイって言ったよね」
「言ったけど、きみはまだ大人じゃないよ」
「キスする前に聞いた方が良かった?」
「そういうことじゃなくて」
「……わからないから、やっぱり子どもなのかな」


 それから一週間、何も触れなかったからもう終わったことなのかと思ったけど、そういうことでもなかったようだ。雰囲気から、そんな気がする。中学生の時は無邪気にまとわりついてきて、高校生になったら急に大人びた。それは、おれが、大人になったらキスしても良いよ、と言ったからだろうか。考え過ぎか。


「優志朗くん」
「ナツくん」


 名前を呼ぶタイミングが見事に被さった。
 ちらりと見ると真横にある顔は真剣で、洗い場の古いステンレスに突かれていた腕が身体に絡む。抱きしめるでもなく、ただ、巻きつくように触れた。


「ナツくん、好きだよ」
「うん。何回も、聞いてるよ」
「全部本気だよ。わかってる?」
「……うん」
「絶対わかってないよね。子どものなんかだと思ってるだけでしょ」


 そんなことないから、と言って、迷うように身体の周りにあった腕が、しっかりと動いた。おれの腕を掴み、くるりと後ろを向かせる。見上げるとやっぱり真剣な顔をしていて、噛みつくように、唇が触れる。
 経験がなかったわけではない。
 でも、ぶつけるようなキスに強い思いを感じてしまって動くことができない。子どもだと思っていれば振りほどいて諭すべきなのにおれはそうできない。優志朗くんがどう思っているのか受け止めている、ある意味でその証拠になる。ふるりと震えた腕を一瞬ちらりと見るように視線を動かした優志朗くんだったけれど、唇を僅かに離して、またくっつけてきた。
 長かったのか、短かったのか。
 数回、それが繰り返され、顔が離れる。腕は痛いくらいに掴まれていたのだと、その時に知った。


「ナツくん」
「……はい」
「責任とってね。ナツくんとが初めてのキスなんだから」
「……そうなの?」
「そうだよ。唇だけは、新品だから」


 その言葉に引っ掛かる場所がなかったわけではないけれど、とりあえず聞き流した。


「せきにん」
「大人はそういう言葉に弱いんでしょう? ナツくんは大人だから、責任とってくれるんだよね?」
「えっ……うーん?」
「酷いナツくん、弄んだのね」


 優志朗くんが言う言葉は明らかに偏っていた。でも、なんだか罪悪感。そっと肩に触れ、頬へ手を滑らせる。年相応で、意外と温かな肌。触るとぴくりと肌が震えた。おれの腕と同じ反応。同じように緊張しているのだと思うと、なんだかおかしかった。優志朗くんはいつでもひょうひょうとしているので、緊張とか悲しみとか、あまりないのかな、と思っていたのだ。


「優志朗くん、好きだよ」
「……ナツくんの好きはわかんないから」
「好きだよ」


 キスを、した。
 驚いたように見開かれた目を見て、なんだか可愛らしいと思った。多分、ほとんど初めての想い。


「……ナツくん、ほんとに好き? いいの?」
「まあ、うん。今はね」
「何その返答、ずるい」
「おとなだから」


 大人だから、というのは言い訳に過ぎない。今までもこれからもそうだろう。上手にずるく言っていくんだろう。
 でもそのうちきっと通用しなくなる。優志朗くんが大人になったとき、きっと、おれを翻弄するような人になるはずだ。ちょっと怖い。巨大な渦みたいな子だから。
 でも、少し楽しみ。おれは、優志朗くんに巻き込まれたいのかもしれなかった。



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