えっちします
佐々木の相手はシノだけ
鬼島の相手はナツだけ
攻め同士のがっつりえっちは嫌だ
以上の方はお戻りを。
ちょっと若いときの話です。
*
優志朗先輩はいつも突然来る。いなかったらどうするのかと尋ねたら「帰る」と答えた。帰る場所があるのか、それはあの家なのかともやもや半分考えながら、その辺に置いてある本を手に取って開いている先輩を見る。
出所してきたら前髪を伸ばすようになっていて、いつの間にか眼鏡を掛けるようにもなっていた。明らかに度の入っていない伊達眼鏡。
「先輩」
「あ?」
「その眼鏡、どうしたんですか」
「別にー。気分の変化?」
口調も、いつも子どもに接するようなものになった。柔らかくて穏やかな、表面的には聞きやすい低音で乱暴な言葉づかいをすることは少なくなった。それに、時々料理を作ってくれるようになった。おいしいけれど、あの人から教わったのかと思うとすっきりしない。
先輩がどんどんあの人にとられていく。
面白くない。どんどん遠くなるような気がする。嫌だ。この気持ちが、たぶん寂しいと言うのだと思う。ひとりで置いて行かれるような感じ。
「どうしたー」
後ろに座り、肩に噛みつくように口づける。色っぽいものではけしてなく、子どもが駄々をこねるようなものであると自分でわかっている。こちらも構ってほしい、ただそれだけのキス。けれどおとなになればこんなキスも誘惑に変わる。
先輩は本を置いて頭を撫でてくれた。
「吸うなよ。痕になったら困る」
「困るんですか」
「困る。子どもは何でも気付くから」
「痣とかいえばいいじゃないですか」
「そうすると今度は痛い? って来るから」
「そうですか」
しかたなく軽いキスで我慢する。Tシャツを脱がせて、引き締まった背中に徐々に徐々に範囲を広げる。出所した時には線だった黒龍が完成して、よく似た鋭い眼差しをこちらへ向けている。そこにも唇をつけるともそりと背中が動いて、まるで生きているようにも見えた。
「一々、お前相変わらず遊び歩いてるって聞いたけど」
「先輩が遊んでくれないので」
「ふうん、気をつけなよ。最近性質悪いのいるみたいだから」
「大丈夫です。たぶんそれ、俺なので」
「……あー、そういうこと?」
腕に手を滑らせ、そのまま抱きしめる。温かい。
「後ろから抱きしめられるの、あんまり好きじゃないんだよね」
そういって先輩が俺の手を取り、立ち上がるよう促す。手を引かれてベッドへ。何のためらいもなく脱ぎ捨てた優志朗先輩がごろりとベッドへ寝転がった。その上に馬乗りになる。
「向かい合うほうが、なんかいいよね」
「そうでしょうか」
「お前の顔が好きだから見てたいってのもあるけど」
笑って、眼鏡を外す。剥き出しになった目に惹かれるように顔を近づけ、キス。唇を合わせるだけのものなのに、とても興奮する。他の人間には触ってもあんまり気持ちが揺れたりしないけれど、先輩だけはやっぱり特別だ。
もっと、もっと。そんな風に思ってしまう。こうやって触れるだけいいのに、どんどん奥からどろどろとしたものが溢れる。キスをしているこの間に首を絞めて、そうしたらどこにもいかないんじゃないか、とか、どうしようもない。
「……嫌なこと考えてる顔してるな」
「わかりますか」
「お前のことならなんとなく」
先輩の手が、俺のシャツを脱がせる。胸を手のひらでつかまれて揉むように動かされると感じてしまって、それを楽しそうに見ている先輩の目。
「いつも抱いてる? 抱かれてる?」
「抱いてます……」
「こんな感じやすい癖に?」
「先輩にだけですから、っ……」
ふぅん、と小さくつぶやいて、胸を揉んだりつまんだり。慣れているいやらしい手つきだ。自分ばっかりされるのが嫌で、尻で直接先輩の下腹の辺りを刺激してみる。すると眉が跳ねた。
触って、触られて。いつも気付くと先輩にいかされてしまうのだけど、今日は気持ちよくさせたいと思った俺は、先輩が好きなようにキスをしたり、手を動かしたりしながらさりげなく後ろのほうへ指を滑らせた。
「お、そこ挑む?」
「挑みます」
「いいけど、優しくしてね。処女だから。嘘だけど」
本当かうそかわからない口ぶり、男前に笑う先輩。こうもあっさり許してくれるとは思わなかった。先輩が俺に挿入しようとしたことはなかったけれど、いつも口でやってくれたり手や足でやってくれたり、尻に指を入れて快感を覚えこませたりしてきたからてっきりいれたいのかと思っていたのに。
そう尋ねると、笑う。
「お前を抱くより抱かれたいと思ったんだよね。なんでかわかんないけど」
「俺の愛が伝わったんでしょうか」
「そうかもね」
やっぱり本当か嘘かわからない。でも、先輩は指を動かすと表情を変えた。たぶんこれは本当だと、思う。愛だなんて俺には全然似合わないし、本当に持っているかどうかもわからない。この気持ちが愛かどうかもわからない。でも、そうだといいな、などと、柄にもなく思う。
絶対に手に入らないけれど。
先輩の中は意外なくらい柔らかくて、よく広がる。慣れてそうな感じだけれど、指だけだと言っていたし、誰かにこうやって弄られたのだろうか。忘れていたもやもやが噴き出す。それが興奮とあわさって奇妙な感じだ。一周回って冷静な、そんな感じもある。
「お前、俺の尻弄りながらすげーことになってるね」
「あ、今ちょっと、やめてください。掴まれたら出ちゃいます」
「まじか……でも俺もあんまり余裕ないかも」
いれちゃえよ、と非常に軽い。考えて、一応コンドームをつけた。
「意外」
「たまには」
そんな会話をして、中に押し入れる。先輩の中、と思うとそれだけで十分で出るものが出てしまいそうになる。先を埋めて、息を詰めたり細く吐いたりしてこらえていたら、目を細めた先輩が恐らくわざと、締めた。
「あ、ちょっと、だめです」
「だめなの? かわいいね、お前」
髪を撫でられて、不意打ちの笑顔で、負けた。
「あ、っ……あの、先輩……」
「何お前ちょうかわいいじゃん。出ちゃったんだ」
こんなこと生まれて初めてで、どうしたらいいのかわからない。しかも出たのにまだ興奮が持続している。とりあえず奥へ進めて、身体を倒し上半身を密着させてぎゅっと抱きしめた。背中を撫でる手。
「すみません……」
「いや、なかなかぐっときた」
楽しげな声。それから肩へちゅっとキスをしてくる。舐めて、キスをして、吸って。
「あんまり乱暴にしないでね。奥、未開発だから」
「善処します」
「え、不安」
「先輩に関しては最善を尽くします」
よろしく、と、またキスをしてくれた。ただのキスのはずなのにひどく興奮する。吸われると先輩の痕跡が残ることに気付いて、もっとやってほしいとも思った。
「動きます」
「いいよ」
抱きしめたまま、腰だけを動かす。先輩の息が詰まったり漏れたり、とてもいやらしい。首にキスをしたり、なんだかとてもいちゃいちゃとした行為だったような気がする。
呼べば答えてくれて身体を繋げさせてくれて、でもあの頃が一番幸せだとは思わない。当時はそれなりに幸せを感じていたのに、今思い出すとそうでもないと思う。どうしてだろう。わからないけれど。
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