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佐々木さんとデート


 

佐々木 一々(ささき かずいち)
シノ





 夕方の人通り少ない道を、短いスカートの少女がひとりで歩いている。学校の制服らしきそのチェックのスカートはとても短く、ニーハイソックスとの間に覗くむちりとした白い肌がたまらない。
 ぱっちりした目は前を向き、透明感のある肌は化粧せずとも美しい。

 そんな可愛らしい後ろ姿を追うように男が歩いていた。無防備な背中を見つめ、足音を殺して徐々に早足になる。少女の真後ろまで来るとミルクティー色の髪から香る甘い匂いに口元を緩ませた。

 そして――


「お嬢ちゃん可愛いね。おじさんとデートしない?」


 見知らぬ男に言われながらこんな風に後ろから抱きしめられたら間違いなく叫ぶ。
 しかしその腕にも声にも匂いにも覚えがあったので、シノの頬は真っ赤に染まった。
 見上げるとやはり大好きな顔。額にキスが降る。


「お帰り、シノちゃん」
「おじちゃん、なんでここにいるの。なんでこの道通るって分かったの?」


 家へ帰るとき、決まった道は通らない。いつも足の向くまま気分で決める。今日この道を通ったのも偶然だった。
 シノの大きな目がきらきら佐々木を見る。どんな方法を使ったのか聞けるのを期待しているようだ。
 しかし佐々木は不思議そうに白い首を傾げた。ブルーアッシュの髪が揺れる。


「わかったもなにも、学校出たところからずっと後ろにいたんだけど」
「えっ、うそ!」
「ほんと。全然気づかないから逆に心配になったくらい」


 眉を寄せ、気付かなかった、とつぶやくシノの髪を撫でる。つるつるしていて心地良い。


「シノちゃん。このままデートしようか」
「するー!」
「うん、じゃあ学校まで戻ろ。近くに車停めっぱなしだから」


 シノと手を繋いで学校へ戻り、車に乗る。それから向かったのは古い西洋風の街並みをそのまま残して開発された駅前。
 前々から約束していた服と下着を買いに来たのである。

 甘い色合いの店内には色も形も様々な下着がある。顔だけは端正な佐々木が入ると一瞬ざわめいたが、その腕に張り付いたシノを見てすぐ静かになる。


「これすっごいね」


 シノが興味深げに見ているのは、紫の紐のような下着。つけたいというより、単純な興味の目。
 佐々木はまた別に視線をやっている。


「これ、いいと思うけど」
「おじちゃん、かわいい系の下着好きだよね」
「シノちゃんが可愛いから、もっと可愛くなるのがいいかなって思って」


 小さな声で囁き、その手のひらが腰を抱く。
 もちもちの身体に纏うのはセクシー系でももちろん構わないが、フリルだレースだ小花柄だ白だピンクだという、デザインや色が可愛いのも良い。

 二、三の下着のセットを一緒に選んで、シノの頬を手のひらで撫でる。


「今度見るときはどんなのか、楽しみにしてるからね」


 そう、楽しみを残しておかなければ。
 シノひとりを下着店において佐々木は街を歩く。服を探すためだ。
 ふと目に留まった店に入った。古着屋のようで、中には所狭しと服や小物、靴などが並んでいる。


「なにかお探しですか」


 服を畳みながら迎えてくれたのは、くりくりしたパーマヘアが可愛らしい店員さん。なんとなくシノと同じ匂いを感じるが、シノほど可愛い可愛いしていない。
 いろいろだな、と呟いて、恋人にプレゼントを、と告げる。


「そうですか。素敵ですね。ご自由にご覧ください。もしお手伝いできるならさせていただきますが」


 にこにこ、可愛らしい笑み。これでもっと肉付きが良くてシノがいなかったら間違いなく口説いていたと思うくらいの童顔。


「ワンピース、ありますか。あんまり丈が長くない、ひらひら系の」
「ワンピースでしたらこちらですね。サイズなどは……」
「よく触ってるんでわかります」
「すごい、ですね」


 様々な形のワンピースが存在する。あれもこれも似合う、と考えていると決まらない。真剣な顔をしている佐々木の横顔を見て、店員は溜息をついた。


「どうしたの、雨生ちゃん。溜息なんか」
「あ、すみません。誰かが誰かのために選んでる横顔っていいなあ、って」


 実はずっと店の隅にいる店長と、微笑んで見守る店員の目にも気付かず佐々木は真剣に物色を続けた。



「おじちゃん」


 下着店に戻ると、シノが手にしている籠に様々な下着。なるべく見ないようにしつつ、お会計を済ませた。


「ありがとう」


 嬉しそうに笑う顔を見ると次々貢ぎたくなる。今まではどちらかといえば貢がれる側だったので、シノと付き合い始めて変化したひとつだ。


「これも、シノちゃんの」


 大きく、シンプルな紙袋をいくつか渡す。その中には結局迷いに迷って七着も買ってしまった服や違う店で買ったソックス、タイツ、靴などがある。
 あまりに多いので驚いて、戸惑う。その姿まで可愛く見える。


「こんなにたくさん、」
「シノちゃんが着て可愛くなって、俺の隣歩いて笑ってくれたらいいから」


 それから、脱がせてくれたらもっといいかな。
 耳元で囁くとまた真っ赤になった。素直で本当に可愛い。最中はあんなにえろえろなのに、普段はこんなに初心なのもたまらない部分だ。


「おじちゃん、ありがとう。シノも今度おじちゃんになにかあげるね」
「うん。たくさんの笑顔をくれることを期待してる」


 男前で、なおかつこんなことをサラリと言ってみせる佐々木。敵わないと耳まで赤くしてシノはもじもじ。その様子に佐々木は目を細め、再び紙袋を手に持って片手をシノと繋いだ。


「せっかくだから、ご飯も食べて帰ろう。なにがいい?」
「お魚気分!」
「魚かー。海の方まで行ってみようか」


 そんな話をしながら歩く頭上で街灯が灯り始めた。夜はもうすぐ。今晩はどうなるのか、少し考えてひとりそわそわするシノだった。
 



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