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佐々木さんの恋人


 見た目は完全に、小柄で可愛い女の子(ちょっとぽっちゃりの)。
 つるつるぷにぷにの若い肌、化粧バッチリの丸い顔、ミルクティー色の肩まで届いたゆるふわ髪、薄くて繊細そうな白のワンピースに黄色のカーディガンを羽織り、茶色のブーツ。

 毎回十分前には待ち合わせ場所にいて律儀に待っている。
 今日は風が強くて寒いからか首周りに緑と紫と白のストールを巻いて、座ったままときどききょろきょろ俺を探しているのかなんなのか。

 あ、声掛けられた。
 困った顔で時計を見て、何やら言って。でも男は図々しくも隣へ座る。積極的な若者だ。あの顔つきなら他のもっと可愛いのを狙えるだろうに、なぜわざわざ。ちょろそうだったからか。

 切り揃った前髪の下で眉をハの字にして困り切った顔でまたきょろきょろ。そろそろ行ってあげようか。

 車を降りて歩いて行く。心なしか先程より寒いし風も強くなった。今日の夕飯は鍋で正解のようだ。
 通りを渡り、数段の階段を上がって、目が合った。途端に輝き明るく笑う可愛い顔。立ち上がって走り寄ってきた。
 手を差し出すと掴んで、胸に顔を埋めてくる。


「走ると転ぶよ、シノちゃん」
「大丈夫だよー今日はヒール低いからっ」


 マシュマロじみた頬が冷たい。ベンチを見るとやや不満げな男の顔。あらら本気だったのかな? ごめんね。この子は俺の。


「今日の夕飯、なんでしょう」
「んー……お鍋?」
「さすが食に関しては鋭いね」
「おじちゃんのお鍋好き! おいしいもん」


 ああ可愛い。
 だけどなんだろうね、ベンチに座ってた男が近寄ってきたんだけど。


「お兄さん、何? この子の保護者かなんか?」
「しつこいですー。今日用事あるって言ったでしょ?」


 むっと睨むシノちゃん。それ、ただ可愛いだけだから。手を繋いだまま男を見下ろした。


「俺と一緒に遊ばせてくれないですかね。危ないことはしないんで」


 本当に保護者だったとして、こう言われて差し出す人がいるんだろうか。いるとは思えないのだが。


「……な、なんだよ」


 ただ見つめる。目を細めて無表情で。
 すると男は勝手に逃げていった。
 なぜわざわざ絡んできたのか、意味不明だ。


「シノちゃん、もうここで待ち合わせはしないようにしようね。面倒くさいのがいるっぽいから」
「うん。次はあったかいとこがいいかな」
「検討します」


 車に乗せて家へ直行……したいところだけれど先にスーパー。最近忙しくて野菜、買ってないから。
 カートを押して、片手は押し手を掴むシノちゃんの手に重ねた。ふらふらどっかに行っちゃいそうだからね。


「おじちゃん、白菜」
「何入れようか、鳥だんご鍋」
「白菜とーきのことー水菜とー春菊とー」
「あ、春菊入れる? えらいね」
「好き」
「大人だね」
「かまぼことマ□ニーちゃんもっ」


 こうやって買い物している俺たちはどう見えるだろうか。まさか親子ということはないだろうが。
 シノちゃんに聞くと照れながら「恋人がいいな」と言った。包み込んだ手が熱い。


「親子かもよ」
「え、うーん、おじちゃんかっこいいから、お父さんでもいいけど。やっぱり恋人がいい、よ」
「おじちゃんおじちゃん言ってる時点でもう恋人の線はないでしょ」
「えっ。そうなの?」
「名前で呼んでみな。恋人っぽくなるから」
「……か、」
「うん」
「……かずいち、さん」
「ほら恋人っぽい」


 音が出そうなくらい真っ赤で、潤んだ目。


「シノちゃんと買い物しながら名前で呼ばれるなんてねー。あー恋人っぽい」
「ほんとにそう思ってる……?」
「思ってる思ってる」
「おじちゃんわかりづらいからなー。鬼島のおじちゃんと同じ」
「俺は鬼島先輩が好きだから、似てきちゃったんだねー」
「……鰹のたたき、買ってもいい?」
「いいよ、俺も食べるから」
「お酒飲む?」
「飲むよ」
「……」


 もじもじ、ワンピースの裾をいじる。
 おやおや。
 お刺身を取ってくれたシノちゃんの耳元で、密やかに囁いた。


「ご飯食べてお酒飲んだら、たくさんえっちしようね。可愛い下着着けてきてくれたんでしょ? ゆっくり見たいな」


 マシュマロがまた真っ赤に。
 ふわふわミルクティー色を撫でてまた手を握る。


「お腹鳴ると笑っちゃうから、いっぱい食べてね」
「う、うん」


 ふわふわひらひらの皮を剥けば、ふわふわの甘い男の子。可愛くてたまらない。

 前回はお酒飲んでそのまま寝てしまって、しかも夜中に呼び出しが来て行かざるを得なかった。早い時間から飲んでいたのがせめてもの救い。その代わりシノちゃんはぷくぷくにむくれていた。

 今日はその穴埋め。
 いつもより甘やかしております。
 夜はもっと頑張らなければ。


 甘々の空間を揺るがすバイブがポケットを震わせる。横目で見て、俺なんかより素早い動きでそれを出した。


「……鬼島のおじちゃん」
「あららー」


 ぷくぷくが始まったシノちゃんの頭を撫でながら、通話を押す。


「お疲れ様です。佐々木です」


 どうなる、今日の夜。
 



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