お友だち(偽) | ナノ

出会い



 シノちゃんと出掛けた先は花鳥園。名前の通り様々な鳥や花が大きな大きな温室の中に生息している。


「シノちゃん、ひまわり好きなの?」


 気温を保っている室内では今の時期、とても見られないような花も咲いている。シノが足を止めて見つめているひまわりもそうだった。
 佐々木の問い掛けに頬を染め、特別だから、と言ってもじもじ。ひまわりひまわり、と二度唱えると案外簡単に思い出せた。


「そっか。ひまわり、ね」


 シノちゃんと出会ったとき、シノちゃんの後ろには大輪のひまわりが咲いていた。
 青空に良く似合う透き通った眼差し、透き通った肌。花でいっぱいのシークレットガーデンにいたのは純白の子。


「お兄ちゃん、誰?」


 優志朗先輩のお付でやってきたお屋敷の庭を散策していたら、ばらの花で隠された木戸をたまたま発見。
 秘密の裏庭に出たりして、と、我ながら笑えることを考えていたら本当だった。
 しかもそこに、妖精さんまで。
 問い掛けてきた声まできれいで、やっぱり妖精さんなのかもしれない、と思った。そう思うくらいにどこにも陰りがなかったからだ。


「俺は佐々木。鬼島優志朗の運転手」
「鬼島のおじちゃんの?」


 じ、と俺を見つめ、目が合うと頬を赤らめた。俯いてしまうと大きな帽子のつばが邪魔で顔が見えない。それが嫌で近づいて手のひらを頬に添え、優しく優しく上を向かせる。
 丸くて柔らかな頬は熱く、耳まで赤い。長いまつげを備えたアーモンド型の目がぱちぱち、瞬き。


「お名前は? 妖精ちゃん」
「……シノ」
「シノちゃん? 顔だけじゃなくて名前も可愛いんだ」


 火が出そうなくらいの顔色。こんなに可愛いのに褒められ慣れていないようだ。なんて勿体無いんだろう。可愛い子は可愛い可愛いと大事にされてこそ本当に輝くのに。俺なら毎日毎日囁いて大切にして、手のひらの中だけでぴかぴかに光らせる。
 ビビっときたら即行動。


「シノちゃん、おじさんは嫌い?」
「おじちゃん……お兄ちゃんじゃないの?」


 きょとんとした顔が可愛らしい。抱きしめたいのと撫で回したいのを我慢し、うん、と頷く。


「シノちゃんからしたらおじさんだよ。まもなく三十路だもん」
「かっこいいし、素敵だから……」
「大丈夫?」


 こく、と小さく頷く。いちいち可愛くて大変だ。こんな子がそばにいてくれたらどれだけ幸せだろう。


「じゃあシノちゃん、俺のお姫様になってくれない?」
「え?」
「可愛いから好きになっちゃった」


 するとシノちゃんは切り揃えられた前髪の下、眉を寄せて悲しそうな顔をした。


「……こまる」
「どうして?」
「だって……」


 クリーム色にパステルカラーの星模様がある膝丈のワンピースの裾を捻ってもじもじ。また俯いてしまった。地面に膝を突き、下から覗き込む。
 大きな目に涙を溜め、泣きそうな顔で目を合わせた。


「ごめんね、困らせたかな。いきなり言われても嫌だよね」
「ううん、そうじゃなくて」
「どうかしたの」
「……シノ、かわいい?」
「とっても可愛いよ。世界で一番。だから俺のお姫様になってほしいんだけど」
「……でもシノ、女の子じゃないから……お姫様にはなれないよ」


 ほろほろ、丸い頬を涙が滑る。
 掴んだ腕のふわふわ具合やワンピースから伸びるむっちりした足がたまらなく好みなシノちゃんが男の子だなんて、最初からわかっていた。連戦連勝の勘というやつだ。
 ハンカチで涙を拭ってやり、左手を取る。


「可愛いシノちゃんが好きなんだ。今は女の子だからお姫様になってほしいって言ったけど、男の子だったら王子様になってほしいって言うよ。でも、男の子でも女の子でも、望んだら王子様お姫様のどっちにもなれるんじゃない?」
「……男の子のかっこうでも、好きって言ってくれる?」
「もちろん」


 ちゅ、と、左手の甲に口付ける。
 シノちゃんのふわふわの手が、そっと俺の手を握った。見上げるとゆっくり笑ってくれる。ああやっぱり笑顔も可愛い。これはかつてないハマり方をするだろう。
 見た目からして柔らかもちもちの身体、可愛い仕草、恥ずかしがり、たぶん健気。こちらの要求は何でも聞いてくれそうな雰囲気。たまらない。現在キープしている子が全て束になってかかったところでシノちゃんひとりに敵わない。これでえろえろになったら俺はシノちゃんなしではいられなくなる。
 この可愛らしい子の虜になる。
 考えただけでぞくぞくした。喜びの震えだ。

 俺は素晴らしい妖精さんをつかまえた。

 連絡先を交換し、車に戻ってとりあえずキープ用携帯電話を叩き壊した。破片ごとお屋敷外のゴミ箱へポイ。
 蓋を閉めた時、若衆に見送られて優志朗先輩が出てきた。ごみ捨て場にいる俺を見て怪訝そうな顔をする。


「楽しそうねえ、佐々木」
「はい、とっても」


 車を発進させてしばらく無言だった先輩が「あのさ」と話しかけてきた。


「さっき虎谷の末っ子ちゃんが『王子様ができた!』って嬉しそーに虎谷に話してたんだけど、お前まさか虎谷家の蝶々ちゃんに手ぇ出してないよね?」


 東道会総長虎谷上弦が蝶よ花よと溺愛する末息子の存在は、佐々木も前々から聞いていた。そんなに可愛ければ一度お相手願いたいと思っていたが。
 携帯電話の電話帳、鬼島や有澤と同じカテゴリに入ったお姫様のフルネームは「虎谷 忍」


「蝶には出していませんが、妖精には出しました」
「……おま……やばいとは思ったが、まさか本当にやるとは……」
「大丈夫です。あの子に対してはかなり本気ですから」
「海に浮かんでも助けねぇからな」
「望むところですよ」


「……二年になるけど生きてるなあ」
「え? 何が?」
「ううん、なんでもない」


 シノちゃんは相変わらず妖精さんでふわふわ、あの時と変わらない純白さ。


「シノちゃん、俺のお姫様になってみた感想は?」


 囁きかけると頬を染め、柔らかな手に力が入る。いつも隣にいてくれる、この日々が答えなのだろう。


「花鳥園限定の鳥まんだって。食べる?」
「食べるー!」


 きらきら可愛い妖精さんは俺だけのお姫様。今年の夏にはひまわりを送ることにしよう。それかまたあの秘密の庭で会うのもいいかもしれない。
 俺はシノちゃんの虜になって正解だったよ。前よりずっと、日々が楽しい。


「シノちゃん、可愛いね」


 頭を撫でたら嬉しそうに笑った。



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