お友だち(偽) | ナノ

ナツ、イケメンに囲まれる



芸能人組』のお話に出てくる人がわんさかです。





 右を見ても左を見ても美女イケメンと豪勢な料理の数々。会場にいてもまだ夢見心地。
 とある高級ホテルのパーティフロア、飲み物や料理を片手に歓談しているのは有名人や政財界の人間ばかり。おれも今日は談さんに整えられてそれなりの格好でここにいる。
 こんな状況になったのはその談さんのせい……いや、談さんのおかげ。しかし本人の姿はどこにもない。


「なつくん、おいしい?」


 笑いかけてきたのは蓬莱さん。高い演技力はもちろん端正な顔立ちと健康的な身体つき、悪い評判の一切ないクリーンさで、女性を中心に人気急上昇中の俳優だ。
 きれいな顔に微笑みかけられ、自分でもわかるくらいに頬を赤くして頷く。手渡された新しいお皿には料理がきっちりきれいに盛り付けられていた。蓬莱さんは意外ときちんとした性格のようだ。
 空になったお皿もさりげなく回収するスマートさも持っているなんて、人気俳優はなんでもできるのだな。

 そんな風に思っていたら、その背中を叩いて男の人が肩を組んだ。


「蓬莱さんが男の子たらしてるー! 週刊誌に売っちゃうぞ!」


 ゴシックな服装、派手なお化粧、盛られた髪の毛。ピアスだらけのそのきれいな人を街中の大きな画面で見たことがある。確かビジュアル系バンドの人、だったような気がする。


「たらしてないよ、知り合いの子なの」
「ふーん、なんかかわいいね、ペットにしたい感じだ!」
「……ペット」
「よーちよちよち」


 ハイテンションなお兄さんに髪をぐしゃぐしゃ撫でられる。


「お兄さんのペットにしてあげよっか」


 鳥の巣のようになった髪を普通に撫で、お兄さんが近くで笑う。お化粧していてもわかるようなきれいな肌、もともときっとすごく顔がきれいな人なのだ。
 ぼふっと赤くなる。
 お兄さんの目が三日月になった。これは完全に面白がっている顔だ。そうわかるのに、顔は白くなってはくれない。


「この子めっちゃかわいいじゃーん! なー蓬莱さん、この子ちょうだい!」


 抱きしめられてくらくら。お皿が落ちそうで、近くのテーブルへ置いた。蓬莱さんは苦笑い。


「その子にあんまりべたべたすると、怖いお兄さんが来るからやめたほうがいいよ」
「そっかそりゃ残念。でもお友だちになるくらいはいいだろね。瀬戸城優希っていうんだ。よろしくー」
「……なつ、です」
「なつ? 寂しくなったら言いな。慰めてやるから」


 嵐のように去っていったお兄さん。ぐしゃぐしゃなままの髪を直してくれたのは蓬莱さんの手ではなかった。後ろから伸びてきた手だ。


「蓬莱にこんな若い知り合いがいるとは思わなかったな」
「八重蔵、ありがと」


 振り返ると、穏やかな美形の男性がおれの髪を整えてくれている。その顔は最近しょっちゅう見ている顔だ。テレビや映画によく出ていて、つい先日も蓬莱さんと長編サスペンスドラマに主演していた。
 筒井八重蔵、かわいいクリーミー系男子と呼ばれてもてはやされているが、実物はとんでもない男前。


「ひゃー!」
「なにこの反応。新鮮」
「あはは、なつくんどきどきしてるでしょ」


 おかしそうに笑う蓬莱さんの後ろに隠れる。あんな美形を五秒間も直視していたらきっと灰になってしまう。恐ろしい。


「なんでえこのかえーしー子、蓬莱の後ろにくっついてよお」


 振り返ると新たな美形がそこにいた。八重歯が印象的な、目元の優しい男くさい顔。その隣にはマッシュルームカットの色白男性。強い目がおれを見つめている。
 また近くに美形。


「と、溶ける……」
「なつくん、大丈夫?」


 蓬莱さんのスーツは良い匂い。この人もかっこいいが、この際しょうがない。背中へ顔をうずめて視界をガード。こんなイケメンばかり見ていたら、明日から生きていけない。多分。それは困る。


「この子、知り合いなんだ。普通の子だからあんまりきらきらしないであげて」
「きらきらするなって意味わかんねえだけど、蓬莱。別にんな輝いてねーら。ま、筒井は別だけどよ」
「そう? おれも別にきらきらしてる気はないけど。笑わなきゃいいってことかなー」
「八重蔵は無表情だと違う迫力出ちゃうからやめてあげて」


 背中をちょんちょんと突かれる。振り返るとマッシュルームカットのお兄さんがじっと静かにおれを見ていた。片手に、炭酸っぽい琥珀色の液体が入ったシャンパングラス。


「……ジンジャーエール」
「……ありがとうございます」
「おー、なんでえミン、優しいじゃん」
「たまには」


 そそくさと八重歯のお兄さんの後ろに行ってしまうお兄さん。
 なんだかかわいい。
 美味しいジュースでほんの少し落ち着いたけれど、イケメンに囲まれていることに変わりはない。ああ、鬼島さんや佐々木さん、有澤さん、談さんに囲まれてイケメン慣れしたと思ったのに。それは単にあの人たちに慣れただけだったんだきっと。


「ううう、もう帰りたいです」
「でもまだ料理たくさんあるよ」
「食べたいです」


 蓬莱さんの背中からちょこっと顔を出すと、やはりそこに筒井八重蔵。普通に立っているだけでもかっこいいとは意味がわからない。鬼島さんもそうだけれど、存在がかっこいいってどういうことなのだろう。
 目が合って微笑まれ、爆発するかと思った。


「ばくはつする……」
「こんなかわいい子が爆発しちゃうの? だったらその前に深く知り合わないといけないね」


 甘くて低いその声には、もはや嫌な予感しかしなかった。するりと伸びてきた手が頬を撫でる。その触れ方は優しさしかない。振り返ったら爆発どころか存在さえなかったことにされるかもしれない。
 気配がもう危険だし、周りのこちらへの視線も異常だし、なんていうか色々と。


「……新しい料理を……」
「取りに行ってあげるよ。でも食べた後には君を食べさせてね」


 とても近いところで声がする。耳の真後ろ。
 胸がどきどきどきどき、止まらない。声だけでこんなに。怖くなって蓬莱さんのスーツを掴む。


「……孝明さん、この子、普通の子なんでそういうの慣れてないんですよ」
「だから?」
「あんまりちょっかい出すと、あとあと嫌な事もあるかもしれませんし」
「ああ、鬼島くんの大事な子だってね」
「ご存知なんですね」
「うん。さっき電話で釘刺された。ナツくんに手とか口とか舌とか足とか出さないで、って」
「思いっきり出してるじゃないですか」
「声は何も言われなかったし」
「ほら、あちらでお偉いさんが呼んでるみたいですよ、孝明さん」
「残念。またね、なつくん」


 明らかな気配は去った。


「ささささっきの人はなんですか、蓬莱さん」
「知らない? 早芝孝明さん。俳優さんなんだけど」
「……見てたら間違いなく燃え尽きてましたね」
「いやそれは、さすがに発火はしないんじゃないかな」


 危なかった。
 孝明さんの登場で一気にお腹が空いたおれは、しこたま料理を食べて家へ帰った。帰り際に筒井さんに言われたのは「今度一緒においしい肉食べようね」だった。
 何回も頷いてしまったけれど、鬼島さんにばれたら怒られるだろうか。


「お帰り、ナツくん」


 家で、鬼島さんがくつろいでいた。


「そのスーツ姿も髪型もいいね。かわいい。おいで」


 勝手にお風呂上りの鬼島さんは髪を総て上げて、その顔を剥き出しにしていた。鋭い目がおれを呼ぶ。かっこいい。やっぱり鬼島さんが一番。
 傍らに座るとうなじを大きな手に包まれて引き寄せられた。鼻先が顔の近くにやってくる。


「いろんな男の匂いがする。やっぱりナツくんは誰の目から見てもかわいいから」
「……においって、わかるんですか」
「わかるよ。お風呂入ってきれいにしなきゃね」
「……鬼島さん、なんでついてくるんです? お風呂入ったんですよね」
「入ったよ?」
「じゃあ」
「ナツくんの身体、隅々まできれいにしないと、ね。あの孝明さんのにおいがすっごいから」
「……別ににおい、しなかったですよ」
「鬼島さんにはわかるんだよ。あと若い男の匂いもする」


 鬼島さんは本当に嗅ぎ取っているのか、それとも適当に言っているのか。
 やわらかなお風呂のにおいがする鬼島さんの手でネクタイを外されながら、いつものあのにおいを嗅ぎたくなって首へ顔を寄せた。会場でいろいろなのを嗅いだけれど、こんなに安心するのはなかった。


「……鬼島さんのにおいが一番すきです」
「またそうやってかわいいこと言う」


 鋭い目を緩めて笑い、そっとおれに口付けた。



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