お友だち(偽) | ナノ

無題の関係 8


 

直接的な描写はありません。
でもちょっとやらしい話かもしれません注意。





 ベッドの中で身体を動かす。隣が空いていて、けれど体温はまだ残っているからいなくなってさほど経っていないのだろう。そして聞こえてきたシャワーの音。談くんはどうやら少し早く起きて身体をきれいにしているようだった。
 残っている体温さえ愛しくて、そちらへ身を寄せて談くんの枕に顔を埋めてみる。枕を抱くように、仰向けで。いいにおいがする。すっきりしたミントみたいな、あと、洗剤の匂い。談くん本当にこの枕使ってるの? と思うくらいいい匂い。談くんが好きだからそう感じるだけだろうか。
 真剣にくんくんしていたら、なんとなく視線を感じた。おそるおそるそちらへ顔を向けてみると、談くんがにやにやしていた。


「お前何してんの」
「なんで全裸なの!?」


 シャワーを終えた談くんは、見事な素っ裸でベッドの脇に立っていた。何も着ていないしタオルさえ持っていない。湿った髪はぺたりとしていて、いつもより幼く見えた。白めの肌は適度に筋肉の線が浮かび上がり、どこもかしこもつるつる。ときおりきらりとピアスが光る。へそとか、胸とか、首の辺りとか。そして顔に楽しそうな笑みを浮かべ、四つん這いでベッドに上がって来る。あまりにすけべな光景に、うつ伏せになって下敷きにした枕へ再び顔を押しつけざるをえなかった。朝から血圧急上昇。
 談くんが、のしかかる。


「そんなにオレの匂い、好き?」
「ううう」
「そうかー蓬莱くんは恋人の匂いが大好きかー」


 耳の後ろで談くんが囁いて、そのままかぷりと噛みついてくる。あむあむ甘噛みをされながら、談くんが言った「恋人」という言葉に、どきどききゅんきゅんしてしまう。そうだ、俺と談くんは恋人になったんだ。


「こいびと……っ」
「オレは匂いより生身を抱きしめる方がずっといいけどな」


 重みがなくなる。迅速に身体をひっくり返し、談くんをお布団の中へ引きずり込む。まだ髪が濡れているので、頭の下に腕を通してぎゅっとした。


「おはよう談くん」
「おう。おはよう蓬莱」


 首のあたりにキスをしてくれる。この談くんが! 俺の! 恋人!


「幸せ……」


 かみしめるように言うと、そうだよな、と談くん。


「ようやくゆっくりできたもんな。お疲れ」


 仕事仕事で、結局告白したその次の日からずっと撮影に出ていた。ドラマ、雑誌、バラエティ、談くんはいろいろなところで俺を見ていたと言うし、俺も談くんから送られてくる写真を眺めてでれでれしていたけれど、こうやって触れ合うのはとても久しぶり。
 写真といえば、談くん。


「談くん……」
「ん?」
「もうあんなこと言わないでね」
「オレ、なんか変なこと言ったか?」
「え、えっちな写真送れとか言わないでね」
「あー……」


 撮影終了間近のある日、夜十一時ごろ届いたメッセージ。談くんからだとわかって、休憩中にいそいそと確認したら、とんでもない内容だった。そう、突然の「えっちな写真送れ」という謎の内容。慌てて電話すると「それネタにして一発抜くから」と、実に男前に言い切ったのである。だけどえっちな写真なんか撮ったことないし、わかりそうな友だちに電話をしてなんとかなんとか、控室にてその無茶ぶりに答えたのだけど。
 本当の試練はそのあとだった。
 写真を送って十分後、談くんから電話が掛って来た。


「写真見てたら声聞きたくなった。なんかえろいこと言え」
「えっ」
「何でもいいから」
「……談くんの太股」
「そりゃお前が思うえっちなもんだろ。はい、次」
「えっと、えっと」


 なんとかかんとか絞り出す。なんとも色っぽい喘ぎ声付きの通話がそれからしばらく続いて、でも俺は撮影の合間で、まだ一時間後にシーン撮りがあった。だから談くんの声を聞きながら正座するしかできなかったのだ。何の苦行かと思った。


「談くん……」
「あ?」
「とても口には出せない場所が張ってしまって痛いです……」
「抜けよ」
「だめ、まだ撮影ある……」
「んじゃ、耐えろ」


 楽しそうな響きが混じった声。それから何回か最高に色っぽい声を聞いて、用が済んだのか「おやすみ」と言って電話が切れた。それから足は正座したまま前傾し、畳に額をついて一心不乱にお経を唱えたり聖書の箇所を浮かべたり素数を数えたり孝明さんのありがたいお話を思い浮かべたり、持ちうる限りの知識を総動員して下半身を鎮めた。
 本当に苦しかった。今年一番かもしれない。
 今思い出しても、心なしか下っ腹が苦しくなる。


「二度とあんなことしないで。俺の下半身がおかしくなる」
「電話はだめだってことだろ」
「写真もだめだよ! あんな恰好してるところ、スタッフさんとか共演者の誰かに見られたら俳優生命終わっちゃう」
「そうか、善処する」


 妙に聞きわけがよくて、なんだか不安。
 でも談くんがそうやって俺のことを使ってくれるのは、ちょっと嬉しくもあったり、する。言わないけれど。
 他の誰か、とかではなくて、俺のことを思い浮かべてくれたわけで、嬉しくないわけがない。


「じゃあ今度しばらく会えないときのために、撮りだめしとくか」
「えっ」


 嬉しい気持ちが一転、身を起してこちらを見た、悪魔顔の談くんに嫌な予感しかしない。
 勢いよく布団を剥ぎ取り、いつの間にか自分の豹柄スマートフォンを片手に俺を見る。


「ちょうどいい恰好してるしな」
「えっえっ」


 ちょうどいい恰好ってなに。ただのTシャツにぱんつなんだけど。


「談くん」
「動くな」


 ぺろんと俺のシャツを捲ったりぱんつをずり下ろしたり、抵抗すると鋭い声が飛んで来て反射的に手が止まる。その間に写真を撮って「その顔もいいな」と言って、顔を隠すと「風俗みたい」と言われて、もうにっちもさっちもいかなくなった。


「脱げ」
「ぱんつは勘弁してください!」
「また電話するぞ」
「ヒッ、脅しだ」


 甘い感じの朝を迎えたはずが、どうしてこんなことになっちゃったんだろう。
 めそめそしながら談くんが言うままにして、一通り終えると満足したらしく、スマートフォンをテーブルへ。そして、俺のを手にとって押しつけてきた。


「なぁに……」
「オレのことも撮れよ。なんかに使え」


 まさかの。
 全裸であぐらをかいている談くんは、なんでもいいぞ、と言う。それはなんでも言うことを聞いてくれるということなのだろうか。


「お前が見たいオレ、言ってみろよ。なんでもしてやる」


 そのお言葉に乗っかって、一番最初にしてもらったのは。


「……かっこいい……」


 スーツ姿。細身の三つ揃えがなんとも似合う。その姿で写真を撮って、それから徐々に剥がして乱して、ネクタイで縛って、それから。


「……蓬莱、お前本当にそのアングルが興奮するのか」
「この角度だいすき……」
「そうか……知らなかったわ、お前が、こういう願望あったとは……」


 俺は床に寝ころんで、談くんに片足を上げてもらって踏まれる寸前風味の写真。とてもいい。談くんのちょっとSっぽい顔がこの角度から見るとますます素晴らしい。あと太股を撮らせてもらった。何も身に着けていない太股。


「蓬莱、その電話ぜったい失くすなよ」
「もちろんだよ! 宝物になった!」


 鼻息荒めで言うと、談くんは苦笑いをしながら「そういうことじゃなくて」と言う。どういうことだろう?


「これで離れても大丈夫だな」
「うー……ん、でも、やっぱり生身が良いかな」


 スラックスを脱いでシャツ一枚になってベッドに座っている談くんの隣へ腰を下ろし、膝枕をしてもらう。談くんは笑って、当たり前だろ、と言ってから、俺にキスをしてくれた。


「朝飯食うか」
「うん」
「何食べる?」
「たまご」
「ゆで? 焼き?」


 朝食の話をしながら、でも談くんは立たなくて、俺がしばらくこのままいてもらいたい、と思っているのがわかっているようだった。



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