お風呂に行きたい
鬼島さんの家の庭木にお水を撒く。お昼を食べて軽く動きたかった。談さんは会社に用事があるとかで、夕方には戻りますと言ってさっき出て行ったばかり。
痛いほどの日差し、蝉の声。いかにも夏らしくて、タンクトップにハーフパンツでいても汗が出るほど。今日は一体何度くらいあるんだろう。
「ナツくん、お疲れさま」
お水を止めて振り返ると、着物姿の鬼島さんが立っていた。最近少し短くなった前髪のおかげで目元が少し見えるようになった。大好きな目元が。しかも今日は眼鏡もしていない。じっと見つめられると、勝手にほっぺが熱くなる。
くすっと口元を笑みの形にした鬼島さんが頭を撫でてくれる。
「いっぱい汗かいたね。お風呂入る?」
「入ります」
「そう言うと思って準備しておいたよ」
「ありがとうございます」
そのままお風呂場に向かったら、後ろをとことこ、鬼島さんがついてくる。
入り口で振り返ると意外そうに足を止めた。
「どうしたの」
「鬼島さんも入るんですか」
「だめ?」
用意をしてくれたので、だめとは言えない。うう、と唸ると頭を撫でてくれたけれど、見上げると息が止まった。その目に確かな欲情を感じたから。
「……ナツくん、だめ?」
体温の低い大きな手のひらが、おれの汗を辿るように頬を撫でる。何も言えない。代わりに、首を横に振った。俯こうとするのをやんわり止められ、逆に顎を引き上げられて順番に口付けが降ってきた。ああ。これは。
「お風呂に入ろうね。鬼島さんが、隅々まで綺麗にしてあげるから」
隅々まで、ね。
笑う鬼島さん。
広い、石の洗い場。温泉旅館のようだといつ見ても思う。そしてその向こうにある広い木の湯船。ゆっくり浸かったことがあるのは多分数回。いつも鬼島さんと入ると、それどころじゃなくなってしまうから。
でも今日みたいに、浸かる前から身体に触られるのは初めてだった。
「いや、です、そこばっか……」
椅子に座らされ、背中に鬼島さんが、着物を着たままで密着している。胸の辺りを指や手のひらで遊ばれて、甘い疼きと時折の痛みが、直接下半身に繋がった。下を見ることができない。かといって、前を見てしまうと曇らない素敵な鏡で自分の顔が目に入ってしまう。仕方なくその横に手をついて、つるつるした表面に指を沿わせたりひっかいたりして俯いて目を閉じるしかない。目を閉じると余計に手の動きを感じてしまう。
「ナツくんのお胸は本当に敏感だねぇ」
先を軽く引っかかれただけで、変な声が出る。爪で硬く尖った先を押し込まれると、びくん、と身体が震えた。
「そろそろここだけでいけちゃうかな」
「や、です。こわい」
「大丈夫大丈夫。きもちいいよ……?」
耳をかぷりと噛まれ、裏側を舐めるように。洗う、と言って、まだなにもしてくれていない。身体を撫で回しているだけだ。
散々胸を弄られて、いってしまいそうで、でもいくことができない。
息を荒げ、潤んだ声を止められないおれ。鬼島さんがようやく手を離してくれたときには、額を鏡につけていた。力が抜けてしまい、身体を支えていられない。
「ナツくん、お風呂浸かる? それとも、」
こっちが先?
鬼島さんの大きな手が、おれの硬く勃ちきったそれを緩やかに手で包んで上下に擦る。頷くと、肩に唇が触れた。
「ちょっと待っててね」
「ふぇ……?」
「このままだと鬼島さん、蒸されるかもしれないから」
ばさばさ、音が聞こえた。
鬼島さんが戻ってきておれを立たせ、再び背中から身体を抱いてくれる。触れたのは温かな体温だった。珍しく、脱いだようだ。
「こっち向いてね、ナツくん」
石の上に胡坐をかいた鬼島さんの上に座らせられ、いつの間に用意したのかとろとろした液をまとった指でお尻の辺りを撫でる。それが無遠慮に入り込んで、ぎゅっと首にしがみついた。そのあたりに首を埋め、ぐいぐい拡張する指の感触に感じて声を上げてしまう。
「ナツくんは可愛いね。こっちも、鬼島さんがすきだって」
「んん、ぁ、あぁ」
「いつも狭くて気持ちいい」
粘着質な音が自分の身体から出ていると思うと、脳が茹で上がりそうなほどの羞恥を感じる。しかし鬼島さんの硬いのが、おれのに擦りつくたびに、鬼島さんも興奮しているから、と、許される気がした。
指が抜けて、なんだか妙な感じのするそこ。
息を整えようと顔を上げ、わずかに身体を引き上げてしっかりした肩に顎を乗せる。
そこで、黒い龍が見えた。
向かいの鏡に映っている、鬼島さんの背中。呼吸のたびに動いて生きているみたいだ。鬼島さんの背中を見ることは、意外とあまりなくて、一緒にお風呂に入ってもいつもえっちないたずらをされて翻弄されているうちに鬼島さんの手でお布団に連れて行かれてしまう。ぐちゃぐちゃになったら背中の印象など残らない。
「……きれい」
線の一本一本が脈動しているように動く。目が、鋭いのにどこか優しく見えるのは、これを背負う人間を知っているからだろうか。
「怖くない?」
鬼島さんの手がおれのおしりを両手で揉む。首を横に振ると、そう、と聞こえた。
鬼島さんはきっと、これをおれに見せるのが好きじゃないんだろう。構わないのに。なにか理由があるのかな。
そんなことをぼんやり考えていたら、お尻を支えて上げられ、硬いものが擦り付けられる。
「入れてもいい?」
「……はい」
「ごめんね、ナツくん。急に盛っちゃって」
「いつも、です」
「そっか」
いつもごめんね
あちこちに唇が触れ、ゆっくり、身体の中に入ってくる鬼島さんの肉の一部。慣れた、とは言わないが、すっかり知ったその感触に背中が震える。肩に掴まり、すぐ忘れてしまう呼吸を気をつけて行う。
すっかり中に収めてしまうと、普段は意識しないような場所がじくじくと熱を持つ。こすり付けられる硬い先に、緩やかにでも突いて欲しいと、貪欲に。自分の身体が変わったのだ、と思った。胸も中も、以前はこんなに感じなかった。与えられる快感を受け取り、慣れていく。なんだか怖い。
「……ナツくん?」
鬼島さんがいなくなってしまったら、おれはどうしたらいいのだろう。
そんなことが浮かんで、でもそれを口に出すのは怖くて、ただぎゅうっと身体を寄せる。鬼島さんの腕がおれを縛るみたいに、強く抱きしめてくれた。
「あーかわいいナツくん」
「ん」
「かわいい。一生離せない」
言いながらゆっくり動く。様子を見るように。同時にたくさんキスをされて、なんだか泣きたいような気持ちになる。
「きしま、さ」
「んー?」
「……すきです」
「鬼島さんも、ナツくんが好き」
「すきなんです、たくさん」
「わかってるよ。大丈夫だよ」
何も考えなくていいから、鬼島さんといてね。
たくさん奥を突かれて、気持ちよくて、快感が怖くて、身体が震える。けれど鬼島さんの腕の感触があったから耐えることができた。のは、一回だけ。何度も何度もされているうちに結局思考は総て押し流されて、ただしがみついて声を出すことだけしかできなくなってしまった。
お湯に入るまでに、お布団を経由したことは、うすらぼんやり覚えている。
「もう絶対鬼島さんとお風呂場に来ません……」
「ごめんね」
全然悪いと思っていなさそうな謝罪。むっと唇を尖らせると、油断なくそこにキスされた。
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