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無題の関係 7−2


 手渡された箱は縦横そこそこの大きさ、そこそこの重さ。A4サイズの厚みある鞄なら縦にも横にも入りそうなサイズと言える。

 丁寧に施された包装紙を剥がして、中身の想像もつかないままに開けてみる。すると、読みたいと思って探していたハードカバーの絶版本が四冊。それと、また箱。本は箱に戻して、サイズの小さくなった次の箱を開けた。中にはシルバーのブレスレットとネックレス、限定デザインの青いZIPPOとアンティークらしき腕時計がそれぞれ個別包装されて入っていた。ライターは鬼島、佐々木の両社長相手に使ったりするので重宝する。時計も買い替えようと思っていたのでちょうどよかった。そしてまた、箱。
 中にはピアススタンドとピアスと、またまた箱。

 最後らしき箱は妙に薄っぺらかった。開けてみると手紙と折り紙の鶴。足が生えているタイプの鶴で、なかなかに気持ちが悪い。祝い事だからか、と思いながら薄いオレンジの封筒を開ける。

 同じ色の便箋には、ただひたすらに感謝と、一緒にいられて嬉しいということ、想い出、ねぎらいの言葉が並んでいた。蓬莱の方がずっと多忙であるのに、いつも忙しくて大変だね、身体大切にね、などなど。大ぶりの字が伸びやかに書き綴っている。捲りながら思わず微笑む談。

 そしてその手紙の最後、北川蓬莱、という名前のあとに、鶴の腹を押せ! と書いてあった。足が恰好よく? 生えた鶴の腹を、親指と人差し指で挟んでぐっと押す。


「談さん! お誕生日おめでとうございますー! いつもお世話になっています! 談さんの優しいところ、とても尊敬しています! たくさんたくさん優しくしてくれて、本当にありがとうございます」


 鶴から聞こえてきたのは、元気なナツの声だった。細い指先で押せと指示された場所を撫でてみると硬い感触。何やら仕込まれているらしい。


「談、いつもありがとね。誕生日当日、お仕事中にこき使ってるかもしれないねー。ごめんねー本当に」


 続いて、のらりくらりと掴みどころのない鬼島の声。


「談、いつもいつも鬼島先輩とカズイチなんていう、人に迷惑をかけるために産まれてきたような人らの面倒見てくれてありがとうな。あと、高牧くんのことも気に掛けてくれて感謝してる。誕生日おめでとう」


 ぱりっとした低い声は、お隣に住む野獣? 有澤。


「談さん、お誕生日おめでとうございます。ナツと談さんとお話しするの、すっごく楽しいです。これからもご迷惑おかけすると思いますが、どうぞよろしくお願いします」


 少年らしい、少し高めの可愛い声は、有澤の恋人の満和。ナツと一緒に遊んでいるところによく様子を見に行って、そのまま話をしたりする。楽しんでもらえているなら良かった、と、いつも淡々とした表情を思い浮かべて思う。


「談、誕生日おめでとう。人の世話ってのは大変だけど、お前はよくやってると思う。たまには自分の心も休ませてやれな」


 鬼島に似た響きを持った、けれど芯の入った男前な声は、有澤のもとにいる北山。顔にぴったりの渋い声。


「誕生日なんだって? おめでとう。お前も大人になったね。かわいかったのに……いや、別に、今が悪いってわけじゃないけど。あ、また一緒に夜を過ごそうね」


 雇い主のひとりである佐々木の美低音には、良く響くシノの「なにそれおじちゃん浮気宣言!?」という声が被さった。かわいい、と、笑う。
 旅行に行ったり食事をしたりするメンバーの声が続いて、これで終わりかと思いきや、声はまだまだ続いた。


「談さん、いつもありがとうございますっ! もうべろんべろんにならないようにがんばってますー!」
「優希の嘘つき。談くん、筒井です。お誕生日おめでとう。蓬莱のお世話、大変だと思うけどがんばってね。また一緒に飲みましょう」


 溌剌とした、いかにも元気な声は蓬莱の酒飲み仲間のギタリスト、優希。初対面からとても懐っこく、一緒にいるととても楽しい。ぐでんぐでんに酔っぱらったのを介抱したのは一度や二度ではない。
 続いた声は蓬莱の親友である筒井。美ボイスと言われているだけあって、声だけでも男前なのが十分にわかる。クリーミー男子と言われて可愛い系、弟系と言われているが、実際に会ってみるととんでもない男前だ。いつも優希と蓬莱という天然ぽやぽやの二人の面倒を見ているイメージ。人がいいのだろう。


 そして、声が途切れた。もう終わりだろう、と、箱に鶴を戻そうとする談。しかし。


「談くんの愛されっぷりに猛烈嫉妬中の北川蓬莱です。改めて誕生日おめでとう。談くんに出会えて本当によかった。見つけてほしくて本名で活動して、談くんに再会して全部見てたよ、って言ってもらえたとき、本当に嬉しかった。談くんにもう一度会えたときには、運命かな、って思うくらい、心臓が止まるくらい嬉しかった。……談くんはいっつも俺を喜ばせてくれるよね。本当にありがとう」

 蓬莱が来たことに驚き、プレゼントに驚き、手紙に驚き、この仕掛けに驚き……今年はどうやら驚き責めらしい。談は苦笑いした。忙しいはずなのに、こんな手の掛かることを。
 そして、まだ続く蓬莱の声に耳を傾ける。


「でも俺はどうだろう。談くんに甘えてばっかりで、ちっとも喜ばせてあげられていないような気がする。でもどうやったら上手に喜ばせてあげられるか全然わからないんだ……ごめんね。これから先は、談くんにたくさんの悦びをあげられるように、もっともっと頑張って良い男になるからね。期待しててね」
「……今でもいい男だろ」


 思わず声に出して呟く。蓬莱はいい男だ、と、談は常々思っている。優しく穏やかで心配性で、純粋できれいで、真っ白。顔も態度もいつだって自分だけを見ていることがわかるから、談は安心していられる。


「談くん、談くん談くん……あの、談くん……その、だんくん」


 壊れたのかと思うくらいの連呼に、わかるはずもないのに思わず持ち上げて裏面などを確認してしまう。故障してはいないか。


「あの、あの……俺、もう、疲れたから」


 それは準備に疲れたということだろうか。これだけのことをしたら、それは疲れるだろう。思わずうんうん頷く談。


「談くんとの関係に、疲れたから」


 ぴたりと、動きが止まる。


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