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無題の関係 1


 

北川 蓬莱(きたがわ ほうらい)
相羽 談(あいば だん)





 談くんを前にすると、思春期男子みたいにえっちな妄想で頭がいっぱいになる。寝ている時にシャツがちょっとはだけておっぱいが見えちゃったり、シャツがめくれてぱんつ見ちゃったりしたときには痛いくらいがっちがちだ。
 そんなのは嫌だから、何回も何回も注意した。子どもの時と違うんだよって。十年ちょっと会ってなかったことを談くんが理解していないのかもしれないと思ったから、それはもう丁寧に説明した。

 それなのに談くんはいつまで経っても、お風呂上がりに襟ぐりのあいたTシャツワンピースみたいなのと下着でうろうろする。毛のない足はすらりとしていて、丸いお尻は今日も黒いボクサーパンツの向こうに平然と。
 見ないようにするけど、わざわざ目の前に座る。俺に背を向けてストレッチしながらテレビを見ている談くんのおしりに触りたい。意外と柔らかいのを、揉みしだきたい。

 本当は談くんのことを大切に甘やかしたいのに、いつもいつもえっちな目で見てしまって、結局甘やかされる。
 談くんのほうが大人だから?


「お、お前ドラマ出てるじゃん……って、なにはぁはぁしてんだ」
「だって、談くんー」
「情けねぇ顔」


 はは、と笑う男前。膝と手をついて四つん這いでちかづいてきた。おっぱい! 女豹そのもののいやらしさで、談くんは俺の肩へ手を置き、膝立ちになって見下ろしてくる。


「触りたい?」
「うん……っ」
「あーあ、こんな硬くして」


 しなやかに伏せ、がちがちになったそこをぎゅっと握る。下着の中へ手を突っ込んできて、あたたかな手が触れた。


「でけぇな」


 引っ張り出したそれの先へキスする。口の中に入れられただけで爆発しそうになって、ぺろぺろ舐められて発狂しそうだ。速すぎるとかはこの際どうでもいい気がした。談くんを前に我慢できるわけがないのだ。
 気持ちよさに流されかけると、それに歯止めをかけようとする自分もいる。またか、と。こういうことをしたいんじゃないだろ、と。
 やがて射精に至ってしまい、罪悪感と興奮でわけわからなくなっているうちに手際よく後処理をされ、談くんは洗面所へ。

 テレビの画面には俺が映っている。冷徹な顔で人を殺す役。役柄を持てばなんだってできるのに、それを剥がされたらもうただのダメな男。


「泣くなよ、人気俳優がそんな風に」


 ぐずぐずめそめそ、視界がぼやける。談くんは俺の膝の間へ座り、頭をなでてくれる。


「あーあー、顔が台無しだ。なんなのお前。昔からそうだったよな、急に泣き出してさ」
「らって、だんくんが」
「は? オレが悪いの? ……そうかもな。オレが昔からお前のこといじめすぎたのかも。ごめんごめん」


 談くんは大人だから、俺が言ったことを全部飲み込む。昔から悪いのは俺なのに。


「あんま擦んなよ。明日も仕事だろ」


 目尻に柔らかな唇が触れて、それから唇同士がくっつく。手に絡みついてきた指を握りしめ、もう片方は腰へ。折れそうなくらいとはよく言ったもので、とっても薄い。
 キスをしているうちに涙が止まった。談くんは目を細めて俺を見る。
 昔からこの優しさに甘えて甘えて、肝心なことを言わないでただの恋人ごっこを続けてる。


「談くん、」


 好きだよって、言ってしまえばこの罪悪感から逃れられるのかな。いやらしいことばっかりしたいって思っちゃったり、談くんを独り占めしたいって思う気持ちも肯定される?


「なんだよ」


 見つめられると、結局言えない。


「ううん。何でもない……」


 着信音が聞こえた。談くんはすぐに携帯電話を取って、名前を見て嬉しそうに笑う。


「鬼島社長、どうされました?」


 きらきら輝くその顔を見ると、違う意味でやっぱり言っちゃいけないんだって。
 楽しそうな談くんを抱きしめたらびっくりしたみたいに声が跳ねて、でも話を続けながら頭をなでてくれた。

 十何年会ってなくて、同じだけの日々思い続けた相手。
 えっちなことをしたい、抱きしめたい、甘えたい、甘えられたい、伝えたい、聞きたい。

 何をどうするのが、正解なんだろう。



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