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有澤さんと高牧くん 5


 
有澤(ありさわ)
満和(みわ)


女装要素含みます注意。
有澤の趣味が垣間見えます注意。





 いかに着せるか、というのが問題だ。
 有澤は自室で、畳の上に置いた箱の前で胡坐をかいて腕組をして、見るからに悩んでいた。白い箱には灰色の優雅な字体で店名が書かれている。いつも満和の物を買う店で衝動的に購入してしまったそれは、絶対に満和に似合う。なんなら、お隣のナツにも似合うだろう。たとえ似合わなくても、それはそれでまたいい。
 どうやって着させようか。
 届いてからすでに一か月以上経っている。チャンスをうかがっているものの、なかなか果たせない。とりあえず、満和には着てもらいたい。ナツは無理だとしても、満和には。

 そして有澤は、その日の夜、満和が風呂に入ったのを見届けてこそこそ脱衣場に侵入、さらりと手触りのいいパジャマとそれを交換した。そして浴場周辺を持ち場としている若いのを払い、周囲を無人にして、自分は廊下からこっそり伺う。ときどきパジャマをふんふんしてみたりもして。
 風呂から出てきた満和は、かごに入ったそれを見て首を傾げた。
 濡れた黒髪に、ところどころ翳りのある肌、魅力的な直線、ぷりんと丸い尻。それだけでもう有澤の目は幸せだったが、それを着てもらえればもっと幸せだ。しかし満和は困ったような顔で、自分が持ってきたはずのパジャマや下着を探している。
 このままでは湯冷めしてしまう。
 風邪を引かせるのは嫌なので、仕方なくドアを開け、パジャマを手渡した。


「有澤さんの仕業ですね。そうだと思いました。これ、なんですか」


 上を被り、袖を通しながら満和が言う。かごに入った、柔らかく薄い緑の生地。きちんとパジャマを着た満和が両手で持って見てみると、可愛らしいレースや美しいリボンがたくさん使われたスカートのようなキャミソールのようなものだった。その下には同じ素材の下着。極端に面積が狭い。


「……これを、ぼくに着ろと」
「絶対に似合うと思うんだが」
「……」


 見上げると、熊のごとき男が目を輝かせている。絶対に、という部分に力がこもりすぎていて、少し怖い。
 有澤はときどきこういうものを用意する。前はセーラー服、激ミニナース服、クラシカルなメイド服。女装ばかりではなく、学生服や妙に短いズボン、有澤の私物だろうシャツ、薄い薄い浴衣などもあった。けれどここまで露出度が高いものはおそらく初めてだ。


「……着なきゃだめですか」
「だめということはないが」


 しかしその目は、反対のことを語っていて。
 満和は仕方なく、条件を出した。それは自分にとってとても有利とはいえない条件だったが。


 さて場所を移して、いつもの離れ。
 母屋とは異なり、薄暗い灯りのみを備えた和室の大きな布団の上に座っている満和は不満そうに赤い唇を尖らせている。その華奢な身体を包むのは、先ほどまで着ていた空色のパジャマではない。肌触りは確かにいいが、透けているのと頼りないのとで落ち着かない。しかも着てみてわかったのだが、胸のあたりに切れ込みが隠れていて、簡単に出てしまうようになっている。下着も、そうだった。そういう目的で作られたのであろうことが明確だ。

 明るい場所でまじまじ見られるよりはましだと思ったのだが、枕元の灯りにのみ照らされた自分の姿はより淫靡なのではないだろうか、と気付いたときには遅かった。

 着せた本人である有澤はと言えば、無言で写真を撮ったあとはただ満和を見ている。すぐそこで胡坐をかいて、シャツにスラックスの洋服姿のまま。目を合わせられなくてずっと枕の当たりを見ていたが、沈黙に耐えられなくなってそろりそろり、目を上げた。


「……ありさわ、さん」


 名前を呼ぶと、有澤の手が伸びてきて細い満和の腕を掴んで引いた。厚い胸板に倒れこむような形になって、太ももに手をつく。どこも太い厚いという形容が似合うような、しっかりした身体つき。きっと自分は生涯こうはならない。そう思うと、同性として考えるところがある。

 再び唇を尖らせた満和の身体をわずかに抱き上げ、右の膝に座らせ足を左膝のほうへ。右腕は背中を支えてくれているのだが、左手は意味ありげに足を撫でていていやらしい手つき。
 ふくらはぎ、膝ときて、太ももをねっとりと撫でるやや体温低めの手のひら。力加減が絶妙で、さらりと内腿を撫でられるだけで身体が震える。いつの間にか肩に頭を預けて、ぎゅうと有澤のシャツを握っていた。


「やっぱり、よく似合う」


 いつもと少し異なる響きを持った低い声。欲情している、と思うと、恐怖と期待とが半々ずつ湧き上がった。乱暴にされるのは怖い。でも、快感も確かに感じるようになっている。
 有澤の手が、薄い布の上から腹に触れ、ゆっくり上がる。胸の辺りを撫で、薄いそこを揉むように動く。何もないのに、どうして声が漏れるのか自分で自分がわからない。そして、指が秘密の切れ込みを見つけてしまった。そこから入ってきて、先を擽る。背が反り、一際甘ったるいような声が漏れた。暴かれた場所に顔を近付け、舌が舐る。
 どこも乱されていない。下着も穿いたまま、着た時のまま。なのに無防備な胸を弄られる。そんな違和感さえも気持ち良さに変わってしまう。

 身体が浮き上がり、柔らかな布団に背中がついた。
 圧し掛かってきたのは、獣のような目をした男。覆い被さるように満和の頭の脇に肘をつき、窒息するような口付けを。
 果たして、この薄い生地はどうなってしまうのだろう。着ることができるのは今日だけかもしれない。
 そんなことを頭の片隅で思っていたが、いずれその考えも思考も総て、快感の波に攫われた。



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