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有澤さんと高牧くん 4


 
有澤 譲一朗(ありさわ じょういちろう)
高牧 満和(たかまき みわ)


夜の有澤です。
あんまり甘くありません注意。





 有澤の家の裏手にひっそり建つ小さな離れ。母屋と比較するとずいぶん粗末に見える。中は土間、手前の間と奥の間の二間にトイレと小さな風呂場。以前はなんの用事も果たしていなかったが、満和が来てからたびたび使われるようになった。

 真夜中、襖も窓の障子も閉め切られた奥の間に切ない声がひっきりなしに響いている。

 剥かれて露わになった華奢な肩へ浴衣を引っ掛け、細い腕を有澤の太い首に回してしがみつく満和。若く、幼さすらある丸い尻に太い指が食い込むほど強く掴まれ揺さぶられ、厚みのある下腹部が打ちつけられるたびにこらえきれない声が喉から押し出される。
 涙がこぼれるのは羞恥と快感と、違和感。

 有澤の太い熱が奥を抉る感覚に少しも慣れない小さく狭いそこ。限界まで拡げられている出入り口もまだ未成熟な奥も、何度となく挑まれ悲鳴を上げている。突かれるたびにぐじゅぐじゅと音を鳴らしているのは、潤滑油ではなく有澤の出した精液。どのくらい抱かれているのかわからなかった。
 抵抗したところで有澤は聞く耳を持たない。普段は紳士的で優しいのに、このような行為に没頭するときにはまるで別人だ。

 布団へ背中を押し付けられ、足を引っ張られてほぼ真上から圧し掛かられた。それで再び奥を蹂躙される。座位よりも動きやすいからか、背中が軋むほどの大胆な律動。奥をより突かれて痛みに唇をかみしめると親指が撫で、歯列をこじ開けて入りこむ。舌を押さえつけられた反射で歯を食いこませると、その上から口づけられた。
 食われてしまいそうな、削られるようなキス。
 有澤の息も荒い。暗いから満和にはわからないがいつもの理性的な光りなど消え失せ、獲物を前にした獣のように鋭い目をしている。

 満和が苦しいのはわかるし、痛がっているのもわかる。
 けれど止められない。満和の香りや感触などを感じると何かが飛んでしまう。頭が真っ白になり真っ赤になり、ただ溺れていたくなる。満和が泣くと興奮する。可愛くて愛しくて大切にしたいけれど、ときどき猛烈に支配したくなる。泣かせて痛がらせて、自分だけにしがみついてほしいと思う。

 くったりと力の抜けきっている身体をひっくり返し、腰だけを上げさせて再度貫く。掠れた声がして太股や腰にかろうじて力が入った。いや、と言っているのが聞こえる。それが一層、有澤を興奮させた。厚い身体が背中を覆うように覆い被さり、首を抱くように右腕を回して押さえつけ、腰を振りたくる。
 肉がぶつかる音が激しく鳴る。
 満和はわりとむっちりしていて、尻が柔らかいから心地良い。
 もうやだ、という趣旨のことを途切れ途切れに言っている口を左手が塞ぐ。厚い掌は呼吸さえも奪い、本能的に危機を感じて剥がそうと引っ掻く細い指。しかしその強さは仔猫にすら劣る。
 新鮮な酸素の供給を減らすと締まりが更に良くなって、高みを目指す有澤が動きを一層力強く早いものにし、鋭さを増した音が空気を切り裂く。

 やがて、低い唸り声がした。
 苦しさに顔を歪める満和の、小さな耳の裏側で。


「っ、」


 数回、一際強く奥を小突かれた。

 酸素不足で意識が朦朧としている中、ようやく掌が離れる。痺れている下半身からずるりと太い肉が抜けて行く感触に身を震わせた。あられもない場所がひりひりじんじん、普通に生活していればおそらくありえないような感覚になっている。奥もびりびり痛い。散々太い物を出し入れされ扱かされてひくひくして、閉じきらずに蠢くから精液が流れ出す。

 胸を上下させて荒い呼吸を繰り返している満和を抱き上げ、ほぼ脱げていた浴衣を優しい手つきで直してやる。それは身体を貪っていたときとは別人のよう。肩へ頭を凭れさせ、膝の上で横抱きにして背中を撫でた。
 好きな人の皮膚と身体とこうして触れているだけの時間。これもまた心地良い。
 頭を撫でられ、満和はうとうと眠くなってくる。

 腕の中で眠った満和を風呂場へ連れて行った。べとべとの浴衣を脱がせ、シャワーで身体を流す。受け入れていた場所からは次から次へと白濁が流れ出し、指を入れるとなおも締めつけてきた。縁が赤くなり腫れ始め、熱もあって痛そうだ。あとで薬を塗ってやろう。目が覚める前に。

 満和も何度となく達しているようではあるが、最中のときは気に留めることができない。自分の事だけ考えている。最低だと思うが、直らない。

 この行為に何を感じているのか、有澤が満和に尋ねたことはない。行為を初めて行ったのは二年ほど前、満和が高校に上がる少し前のこと。
 一方的に、ただひたすら食われるだけの行為は苦痛以外の何物でもないはずだ。それでも受け入れてくれるのは、満和が自分の事を好きだからなのか、断ることができないだけなのか。

 丁寧に流した身体を木の洗い場へ横たわらせ、そこらじゅうに口づけた。髪、顔、首、肩、腕、手、胸、腹、下腹部、太股、ふくらはぎ、足、つま先。ひっくり返して項から掌、足の裏まで。
 好きだ、愛している。
 自分だけで埋め尽くしたい。
 だから、壊す。
 苦しく痛く、嫌なことをしている間はその嫌なことをさせている相手の事だけ考える。満和の頭が、自分だけになる。そう思うと快感が増す。薄暗い考え方で満和を飲み込む。

 清潔な浴衣で身体を包み直し、自分もきれいな浴衣に着替えて母屋の寝室へ運んだ。布団へ寝かせ、隣へ収まる。抱きしめて体温を感じると、今度は穏やかに満たされた。



 まだ夜明け前に目を覚ました。
 隣で、有澤が眠っている。その頬を撫で、胸に擦り寄ってみた。温かくていい匂いがする。
 有澤は何を怖がっているのだろう。
 いつも思う。満和はいつだって有澤が好きだし傍にいたいし、もう少し穏やかにしてくれれば性行為だってきっと好きになる。なのに、有澤は喰らい尽くすか埋め尽くそうとでもするかのように、必死だ。
 それが満和の目には怯えに映った。
 有澤の傍を離れて生きることなど考えたことは一度もない。これからも、きっとない。
 もう少し心の中のことを話してくれば、お互いに楽になると思うのだけど。

 満和は再び、目を閉じた。



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