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いたずらする鬼島


 

鬼島(きしま)
ナツ





 台所に立って肉を相手に格闘しているナツくんに抱き着く。危ないからと注意される。お尻を触る。真っ赤な顔で振り返る。隙を見ておっぱいをわしづかみにする。あっち行ってください、と今日一番の声で怒られる。
 でも、髪や首筋、肩にちゅっちゅとキスを落とすのはいいらしい。一瞬手を止めて、でもうなじや耳を赤くしながらも怒らないし振り返ったりもしない。腰のあたりに腕を回してうなじにいくつもキスマークをつけてみる。やっぱり、何も言わなかった。


「ナツくん、キス、好きだよね」


 無言は肯定。
 生え際にも口づけ。ぺろりと舐めたら怒られた。なるほど、唇で触るのはいいが、舌はだめか。
 そういえばいつもキスをすると心地よさそうな顔でうっとりしていたっけ。これも、いつも丁寧にゆっくりしたおかげかな。ナツくんの身体には気持ちいいもの、好きなものとして刻み込まれたようだ。

 一通りキスをしてやや満足。抱きしめるとちょうど頬のあたりに来る、ナツくんの耳。形がよくて薄くて、小ぶりな耳たぶだけはやや厚め。指で触るとひんやりしていて気持ちよくて、両手でふにふにしていたらぷうと頬が膨らんだ。


「……鬼島さん、座ってていいんですよ」
「だってナツくん、夜ご飯食べてからずっと台所にいるじゃない。つまんない」
「今日中にこのお肉の味付けをしておきたいんです」
「じゃあナツくんはお肉に構えばいいよ。鬼島さんはナツくんに構うからお気遣いなく」


 言いながらちゅっと耳にキス。わざと音をたてて何度も何度もすると手で耳のあたりを払うようにした。それを避け、今度は反対側に。払われると反対側、そしてさらに反対側。


「鬼島さん!」


 真っ赤な顔で睨まれても怖くない。
 ぱくりと耳に噛みつくと「ひゃう!」と、裏返った声。


「かわいい」
「いい加減にしてくださいっ」
「やだ」


 身体をくるりと反転させ、正面から、ぎっ、とこちらを見るナツくん。手は汚れているので宙に浮いている。はっきり抵抗できないのに身体を向けたのは、ナツくんの失敗。にやりと笑うとおびえた顔をした。逃げる前に耳を両手で塞いでキス。音がすべて耳に反響することに気付いて目を見開いた。でももう遅い。舌を入れてあちこち舐めまわす。その音もすべて、いつもよりはっきりとナツくんの中に響いているはずだ。


「ん、んん」


 なんとかしたいようだけど、触れば俺の服が汚れる。ふらふらふわふわ、身体の間で揺れる手。唇を開放して耳から手を外して、また耳へキスをした。


「きしまさ、やだ、って……っ」
「やだったら鬼島さんのこと、どんってしたらいいよ」


 囁いて、ぺろぺろちゅっちゅ。できないことをわかっていてそう言う俺の性格の悪さ。しばらくして、ふるりと強めに頭を振った。


「あっち、いって、くださいっ!」
「怒られたー」
「さっきから! ずっと! 何回も! 怒ってます!」


 もうっ、と、また背を向ける。これ以上やると口をきいてもらえなくなるかもしれないので引き下がることにした。
 居間の座布団に腰を下ろして天気予報を見る。明日から台風か。そういえば風が強いようで、音が聞こえる。四つん這いでそちらへ行ってサッシを細く開け、風の音を聞いた。甲高い音、低い音。さまざまな音が重なり合って吹き付けていた。たばこを吸ったら全部部屋に入っちゃうから、今は無理だな。真っ暗な空には星もなかった。


「ナツくん、明日は台風だって」
「知ってます」


 あ、よかった。返事してくれた。


「明日お休みだから、嵐の中で一日一緒にだらだらしようね」
「……そのために、今、料理してるんです。明日、鬼島さんとのんびりしたい、から」


 台所に行ったら今度は怒られるに違いないから、顔を見たいのを我慢してひとりで悶えた。ナツくんかわいすぎる。どうしてこんなにかわいいんだろう。


「ナツくんかわゆい……鬼島さんの心臓がおかしなことに」
「そこに薬箱ありますよ」
「そうじゃない……うう、ナツくんかわいい……」


 明日は一日、布団の中でいちゃいちゃも悪くないかもしれない。
 自分の口から漏れ出した声は、とても悪そうだった。



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