欲しがるナツ
ナツは金曜日の夜から月曜日の朝まで鬼島の家に泊まり、平日は自分の家で過ごすようになった。
アパートへは鬼島が以前のようにやってくるが、突然ではなく前もって連絡をしてくれ、大体は朝まで共にいる。目覚めたら消えていた、ということはなくなった。
火曜日の本日は、夕方からアパート裏手の駐車場に黒いセダンタイプの国産車が停車している。塀の向こうの一○二号室では食事をして風呂を済ませ、置いてある自分の寝間着に着替えた鬼島が布団の中で腹ばいになって本を読んでいた。
警察小説で、前編は敵の組織にて内偵中の警察官主人公の正体が明らかになりそう、というところで終わっていた。後編は昨日発売されたばかり。
うまく隠せたまま任務を終了できそうな雰囲気だったのが中盤で再び怪しくなってきている。果たしてどうなるのか。
ページを捲り、集中して文章を目で追っていたら急に背中へ体重がかかった。
「ナツくん、お風呂終わったの」
「終わりました」
本よりナツ。
ハードボイルドな警察組織の世界から現実へ戻るべく、スピンを挟んで区切りをつけた鬼島は身体をひねって振り返った。
「あらーナツくん大胆ねぇ」
鬼島の背に乗ったナツは白い肌着のTシャツ一枚という非常に美味しそうな格好をしていた。
裾でぎりぎり隠れているものの、すらりとした太ももはすっかり露出している。こんな格好でお風呂から出てきたことなど今までにない。
「どうしたの」
顔を真っ赤にしたナツはもじもじ。その動きで小ぶりの柔らかな尻が鬼島の背中をマッサージする。たまらない感触だ。それをもう少し堪能していたかったが、ナツくん、と名前を呼んで軽く腰を浮かさせた。その隙間で身体を反転させ、身を起こす。
太腿辺りをまたぐ形のナツ。鬼島の首へ腕を回し、軽い口づけをしてきたり甘噛みしてきたり。熱いくらいの唇が、鬼島の中の何かを呼び起こそうと誘っている。
腰を薄い生地の上から撫でると、僅かにそこが持ち上がった。尻を突き上げるような感じだ。
「猫みたい」
発情期の。
喉のあたりを撫でても、さすがにぐるぐるとは言わなかったが。
「何がしたいのかきちんと言ってくれないと鬼島さんわからないなー」
顎へ手を掛け、親指で唇を撫でる。それを白い歯で軽くかじって鬼島を映した。初々しく誘惑してくるのは薄茶色の純粋な目。
「……えっちしたいです」
小さな声。言えたことを褒めるように口付けて抱きしめる。
「本当に珍しいね。春だからかな」
「わかりません……」
一枚だけ身に着けていたTシャツを脱がせるにも、抵抗をしないで協力的。いつ見ても健康的で伸びやかな肢体が目の前に現れる。煌々と点いたままの電気の下で恥ずかしがりながらも、触れられると心地良さそうに目を細めて声を漏らした。
「ナツくん、胸が気持ちいいんだ」
骨っぽい両の親指でくりくりと尖りを押しつぶされ、身体を震わせて甘く鳴く。唇がしどけなく開くから、舌を捩じ込んでみた。噛まれそうになったのですぐ引っ込めるはめになったが、口の中もとても熱い。
「可愛いから弄りすぎたかな。ちょっとおっきくなっちゃったね。色も濃い、かな」
乳輪ごと吸ったり噛んだり摘んだり揉んだり、何をしても歓ぶ。ぷにぷにこりこりした感触も楽しみつつ、可愛らしい、と、鬼島はひたすらに胸を責めた。
痩せているけれどさらさらしていて筋肉が少し感じられるので揉み心地がいいのだろう。
しかしナツは次第にまたもじもじ、太腿に尻を擦り付けるような動きを見せた。気づいていたけれど、相変わらず胸だけを弄る。どうするか見てみたかったからである。
ナツは涙目で、止めるように鬼島の両肩を掴んだ。
「きしまさん、むね、やです」
「嫌なの? 気持ちいいのに?」
「うう……」
それからその手が宙に浮き、少し迷ったあとで鬼島の両手を取り、導いた。
自らの、反り返った性器へと。
恥ずかしさに身体を染めて小さな声で言う。
「……むね、じゃ、できないから……」
「何ができないの」
「……」
「出したい? 鬼島さんの手で擦られていかせてほしい?」
耳に吹き込むように囁かれ、亀頭をさらりと撫でられただけでびくびく腰が跳ねる。
ナツは小さく頷いた。
「……してほしい、です……鬼島さんが、いかせて、」
わざと焦らして布団に押し倒し、そこからはどろどろ溶け合うように身体を触れ合わせた。
ナツがこんなに積極的に誘ってきたのは初めてだったから時間を掛けて満足させるつもりで、満遍なくあちらもこちらもかわいがって内からも外からも。
「明日も学校なのに、大丈夫?」
「……へいきです」
「また友だちにからかわれるよ」
「ふぇ……?」
「前言われたんでしょ? えろい顔してるって」
「いいです、いわれても。だから、もっと」
恐るべし成長期。いつの間にこんな風に人を求める術を身につけたのか。鬼島にしがみついて柔らかく食むそこも泣き顔もまだまだ恥じらいがあるというのに。
清純で淫乱。
一見相反するふたつに煽り立てられた鬼島は、参ったな、と笑いながら可愛い恋人に丁寧なキスをした。
すっきりしたのかすやすや眠るナツの頭を撫で、清めた身体を布団で包む。別に何かを不安に思ったとかそういうことではなさそうだから、単純にセックスがしたかったのだろう。
「今までは俺がしたがるばっかりだったのになあ」
居間で、庭に面したサッシを細く開けてたばこを吸う。
あの騒動以降、確実にナツとの関係が変化している。それはまだまだ不完全で不確かなものだが、おそらくいい方へ、あるいは自分たちの間における恋人というものに近づいてきているのかもしれない。
恋人
くすぐったいようなむず痒いような響き。それを逃がすように鬼島は白い煙を闇に吐き出した。
「恋愛だな」
鬼島優志朗、春夜に初めて恋愛などという甘酸っぱい二文字を噛み締める。
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