お友だち(偽) | ナノ

暴力、ダメ、ゼッタイ


 

鬼島さんがいろいろやらかしてます。
ある種暴力行為を含むので、閲覧はお気をつけて。

ほのぼの?な鬼島さんがお好きな方や他の人にはぁはぁされているナツくんを見たくない方は見ないほうがよろしいですし、見なくても問題ないです。

こんな感じの18禁なので、鬼ナツのえろはないです。





 ナツはスポーツが好きだ。よく食べてよく動くから、それなりに引き締まった体型を維持できている。
 体育も大好きで、体操着に着替えるのも気が逸ってかなり思い切りである。が、その背中や首筋についたキスマークに気づいてしまうクラスメイトも少々。思春期男子の妄想を煽っているとは気付かないナツ、明るく健全な笑顔で今日も体育館へ。

 跳び箱とマット運動、サッカーの選択内容だが、外の寒さに耐えかねてほとんどがマット運動を選択した。マットとはいえ、ただ転がっていればいいようなものだ。
 跳び箱もただ飛んでいればいいのだが、男子生徒のひとりが体育倉庫で十五段まである跳び箱を見つけたのをきっかけに挑戦が始まった。

 その様子を離れて見ている男性体育教師。独身で筋骨隆々とした、いかにも体育教師然とした男。その目が貪るように見つめているのはナツ。高さのある跳び箱も軽々跳んでみせ、爽やかに笑うその顔から、濃い緑の体操着を着た上半身、同じ色の膝丈ハーフパンツから伸びる足などを舐めるように見ている。上着はサイズが大きくてゆるゆると余っているのもまた可愛らしい。

 この男性体育教師は高校生くらいの男子生徒が大好物。前の学校でもこっそり手を出していた。それは同意の場合もあればそうでない場合も、ある。

 授業終了後、彼はナツに声をかけた。


「すまんが、倉庫で探し物を手伝ってくれないか」


 純粋かついい子のナツは、次は昼休みだからと簡単に了承した。満和に先に行くよう告げ、体育倉庫に連れられて入る。


「先生、探し物ってなんですか」
「ああ……床に、落ちてると思うんだが」


 埃っぽい、独特の匂いが充満する倉庫内。ごちゃごちゃ物がある倉庫内に四つん這いになって床を見る。その小さな尻のラインに、まさか後ろにいる男性体育教師が興奮しているなど知りもしない。
 細く開いていた扉が閉められ、そこでようやく異変を感じた。


「……せんせ?」


 振り向く前に、腰を鷲掴みにされて尻の狭間になにやら硬いものが擦りつけられた。なんなのか、一拍遅れて理解する。荒い息遣い、使われる腰、硬い感触。あまりに強く押し付けられ、体勢を崩してマットに倒れ込む。


「たま、たまらないな、そんなえろい格好して……!」


 下半身だけを高く上げるような姿勢になってしまい、ますます鼻息荒く腰が速まった。


 汚れてしまったハーフパンツを男性体育教師が回収し、代わりに新しいのを渡された。もちろん履き替えるのも見られている。
 ほろほろと泣くナツの顎を掴み、囁いた。


「誰にも言うなよ。言ったら……わかるよな?」


 その手にはスマートフォン。なにをされたかなどすぐわかる。
 緩やかに頷くナツを見て、征服欲が満たされるのを恍惚とともに感じた。

 しかしナツが言わなくても些細な変化に気付く男がいる。ナツの骨の髄まで溺愛している鬼島である。


「……ナツくん、なんかおかしいんだよね」


 しかし鬼島は聞き出すことはしなかった。そのくせ行動は迅速で、談に耳打ちし、ナツの周りのものをこっそり見させた。
 その結果ハーフパンツが新しいこと、携帯電話に先生と書かれた連絡先が増えていること、有澤ルートで昼休みの終わりに帰ってきたナツの顔色が悪かったことやその前の体育までは元気だったことを知った。昼休みに呼び出したのは、体育教師。
 明らかに昼休みになにかがあった。

 学校関係者である「お友だち」に連絡して、体育教師の名前から身元からすべてを調べるように言った。高校の名前がわかれば教員の名など簡単に手に入る。



「ナツくんがねえ、可愛くって触りたくなる気持ちはわかるよ。でも触ったらそれ犯罪。ナツくんに気持ちがなければ重罪。ね? わかるよね、せ・ん・せ?」


 屈強な体育教師も、縛られてしまえば何もできない。目も口も覆われ、息苦しい暗闇の中で冷ややかな低音だけを聞いている。


「ナツくん、嫌がってたでしょう。その顔も可愛かった? うんうんわかるーナツくんの泣き顔ってそそるもん」


 首筋に、冷たい何かが当てられた。身体が跳ねる。


「ところが残念ながらナツくんの笑顔も泣き顔もえろ顔もなにもかも、髪一本から爪のかけら、爪先の肉片までぜーんぶ俺のなんだよね。ナツくんって可愛いから変態ホイホイなんだけど、触っちゃったそいつらがどうなったか、知りたい?」


 恐怖のあまり声も出せない体育教師。首に触れているこれはもしかして、と、想像したのは鋭い刃。
 夜に家から拉致された、その鮮やかな手口を考えればプロに違いない。簡単に人も殺す、奴ら。


「最初にバスで触った痴漢は口聞けないようにして、次に抱きついて触ったのは指カット、電車でやらしーいことしたおっさんはちょっと日本から出てもらって、道で下半身見せてきた人にはご自慢のそれにもう二度と会えないようにして、ほかにはなんだったかな」


 たくさんいたんだよね、と、そこまではまだよかった。


「でもね、みんなナツくんに射精まではしなかったし、あんなに塞ぎ込ませなかったし、俺に対して嘘もつかせなかったよ……酷い人」


 ぞく、と背筋が戦慄いた。その声自体に刺されたような、奇妙な感覚。およそ聞いたことのない刃物のような囁き。
 続けて、つ、と首に触れていたものが引かれる。首筋を何か液体が滑り落ちた。これは、いや、痛くない。だが極度の緊張状態なら、脳内物質のせいで痛みを感じないこともある。


「あーあ、すっごい出てきてる。いつまで意識がもつかな? 見ててあげるね」


 たらたら、たらたら
 なんだか鉄の臭いがする。出血は勢いを増したり衰えたり、脈動に沿っているらしい。
 こんなやつのものに手を出した。あんな純粋そうで明るい子がどうしてこんなやつと知り合いなんだ? ここで死ぬのか。


「Tシャツが真っ赤だ」


 出血量は相当なはずだ。助けてくれ、と言いたくても噛まされたものが邪魔でもやもやした声しか出ない。
 嫌だ、死にたくない。
 不意に腕へ、ちくりとした感触。


「しぶといから、抗血液凝固剤を注射させてもらったよ。もう止まらないから、覚悟してね」
「はっ……ハァッ、んん、んん」
「誰かが大事にしてるものに手を出すってこういうことだよ? それ相応の代価が要って当たり前。無事で済むわけがない」


 くく、と笑い声。こいつは俺が死ぬのを楽しんでいる。
 頭がくらくらしてきた。意識が遠のく。






 ナツを寝かしつけ、障子を閉めてすぐの縁側にあぐらをかいた鬼島。浴衣姿のままでたばこをふかす。
 細く開けたサッシから、煙が空に散っていくのを目で追った。平和な星空。
 柄にもなく目を奪われていたら裏木戸のあたりから物音がし、抑えた足音が近づいてきた。この音には馴染みがある。


「鬼島さん」


 スーツ姿、髪も乱れていない。暗がりで抑えられた低い声は後輩の。


「こんな夜に来るなんて珍しいね。しかも庭から。どうしたの? 有澤」
「ナツさん、は」
「寝てる。用事?」


 聞かずともわかる。咥えていたたばこを隙間から外に出せば、すかさず携帯灰皿が差し出された。その中に入れ、そのまま先ほどより見やすくなった後輩の顔を見下ろした。
 高いスーツが汚れるのも構わず地面に片膝をつき、きりっとした目で見上げてくる有澤。責めているわけではない、ようだ。


「鬼島さん、あの先生に何かしましたね」
「別に? ただ囁いて定規を首に押し付けて、首筋に温い水垂らしただけ」


 前髪を上げて黒縁眼鏡を掛けていない鬼島の、剥き出しの目がすうと細くなる。それだけでびりびりと震えるような緊張感。これは怒りだと、長い付き合いの有澤にはわかる。


「ナツくんを怖がらせて泣かせた、俺に嘘をつかせた、きったねぇ体液と欲で汚した、これ以上の理由なんかないでしょ」


 その声は抑えられていたが、感情が高ぶっていることが、長い付き合いの有澤にはよく伝わる。


「それはわかりますが、その事態が起きてすぐに失踪したとあっては余計なものが動きますよ。ナツさんが疑われるかも」
「もうすぐ見つかる。だから心配しなくていいよ」


 鬼島の喉が震える。それは独占欲より凶悪な愛情だ、と、言ったところで意味はない。有澤はふ、と息を吐き、後は任せてください、と言った。


「期待してるよ、あーりん」


 いつもの口調だが、にやりと歪んだ唇はあの人と会うずっと前の鬼島と重なる。ばかなことばかりして人を弄んでいた、あの時期の。

 言いたい言葉があったはずなのに頭を下げて立ち去った有澤のことはわかっている。こんな狂気じみた愛情、ナツは喜ばない。知っているが、何もせずにいられない。なんだかんだ言って有澤も同じだから黙っているのだ。


「……きしま、さん?」


 寝ているのか起きているのか、あやふやな細い声がした。


「……なーに、ナツくん」


 呼ばれる限りは何度だって答えよう。呼ばれなくなったら今度はこちらが呼び続けてやる。
 神様に引き離されるその時まで。



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