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孝明会で忘年会


「談さん飲んでるー!?」
「飲んでねぇよ運転手だからな」
「飲もうよぉいい雄っぱいちゃん」
「あー優希くん! それ俺のなのに!」
「ちょっとくらいいいじゃんケチー」


 後ろからわしわしと胸を掴まれて揉まれながら談は烏龍茶を一口飲んだ。さり気なく蓬莱が俺の宣言してくれたことが少し嬉しい。

 今日は孝明会の年納めの納会ということで誘われて出席している。
 もういいでしょ! と無理やり引き剥がされた優希が「あー雄っぱいー……」と名残惜しがる中、隣りに座ったのは一色だった。正座して頭を下げる。


「一色さんには今年も蓬莱がお世話になりました。譲理さんの監督作品にも出していただいて」
「あらあれは譲理が勝手にやったことよ。それにあたしのほうが面倒見て貰いっぱなしだったわ。頭を上げてちょうだい」
「いえ、一色さんという先輩がいるからこそ蓬莱も頑張れているんだと思います」
「それはあの人に言ったほうがいいんじゃないの」


 一色が視線を送る先にはゆったりと日本酒を傾ける孝明がいる。苦笑いに変わった談は「あまり近付くな、と言われているものですから」と告げる。


「誰に?」
「上司に。何か孝明さんと関係があるみたいです。頭からばりばり食べられちゃうよって言ってました」
「あー……談くんならあるかもしれないわね」


 俳優集団に混ざっても遜色ない談の美貌。一色も笑って果実酒を口にした。


「まあでも年を越す前に談くんに会えてよかったわ。来年もよろしくね」
「はい。よろしくお願いします」


 深々と頭を下げあって、次に隣りに来たのは挙動不審な若手俳優だった。談の顔を見て真っ赤になったり青くなったり、あーうー言っている。後ろでは優希がにやにやと見ているあたり優希が行けと言ったようだ。


「しょうせいくん、だっけ」
「! はい!」
「この前のドラマ見たよ。ストーカーして一家ばらばらにさせる話。気持ち悪くてすごく良かった」
「ありがとうございます! 談さんに、見てもらえると嬉しいです……」
「アキオは談くんにガチ恋だっけな!」


 明生の肩をがっしと掴んで入り込んできたのは森。ガチ恋? と談が首を傾げるとあわあわしながらそんなことないです、と言って可哀想なくらい真っ赤になる。


「お、だってエロい談くん見て抜いたって」
「あわぉあわぁ!」


 本人の慌てぶりを見ると本当かもしれない。


「本当? だとしたら嬉しいんだけど」
「嬉しい、んですか」
「オレにもまだまだ魅力があるんだって」
「談さんは魅力に溢れています!」
「ありがとな」


 頭を撫でるとふわっとしたうさぎの毛のようだった。柔らかくて思いの外気持ちがいい。


「気持ちいいな」
「談さんのなんかちょっとエロ顔……!」
「いっぺー見とけし。今後のおかずに」
「あわあ! あわあ!」


 森は楽しそうに笑っている。八重歯を光らせて。悪い男だとため息混じりに笑うと「誰が談くんに何してるって?」と筒井がやってきた。


「ほうらーい談くんが浮気してるよー! アキオの髪撫で撫でして喜んでるよー!」


 何ぃ! と遠くから聞こえたが抜け出せない状況のようだ。くすくす笑って筒井が烏龍茶のおかわりを注いでくれる。


「お、ありがとな」
「いえいえ」


 森と明生は離れていき、人妻の魅力はすげぇらと言われてこくこく頷く明生がいた。


「談くんには、今年もお世話になりました。来年もよろしくお願いします」
「こちらこそ蓬莱が世話になって。よろしくな来年も」
「もちろんです」


 かちん、とグラスを合わせる。


「筒井何飲んでんの」
「一色兄さんと同じ果実酒を」
「うめぇの?」
「飲みます?」
「運転手だからなー」
「じゃあ年始に送りますよ」
「お、ありがと」


 今年の思い出話をしたりなどして時間は過ぎていく。特に筒井とは、蓬莱が仲良いおかげで一緒に食事に行ったりした仲だ。積もる話があった。


「そろそろ席を変わってもらってもいいかな?」


 ざらりとした音が混じる低音ボイス。特徴的なそれに来た、と談は思った。素直に席を譲る筒井。代わりに隣りに座ったのは孝明で。


「どうせ鬼島くんからあまり近付かないようにって釘刺されてきたんだろうね」


 男女問わず魅了する国籍不詳の彫りの深い顔立ちに、しなやかに動く指がグラスを持つ談の手に絡んだ。


「ぼくみたいなのは好きじゃないかな? 蓬莱みたいに元気な若者が好き?」
「そんなことないですよ。孝明さんみたいに場馴れしたおじ様も大好きです」
「大好き、か。あしらい慣れてるね。さすが」
「ありがとうございます」


 くす、と笑って離れて行く体温。


「蓬莱がお世話になって、ありがとうございます」
「君は毎年そう言ってくれるけれど、ぼくは何もしていないよ。蓬莱は売れるべくして売れてるんだから」
「定型文の挨拶みたいなものです」
「なるほど」


 ふふっと笑う孝明は確かに魅力にあふれている。先程の笑い方でファンなら失神物だろう。けれど蓬莱の魅力に囚われている談にはなんの効果もない。きれいだな、と思うだけで。


「来年も来てね談くん。良ければ君ともっと語り合いたいからプライベートでも会いたいんだけど」
「大型犬が鳴くから無理です」
「それは残念。君とはもっと深く知り合いたいんだけど」
「ないですね」
「そうか……残念の一言に尽きるよ」


 心底がっかりした様子を見せる早芝孝明もなかなかレアだ。そこに後ろから抱きついてきたものがあった。


「孝明さん、談くんは俺のですからっ手ぇ出さないでくださいねっ」
「残念、もう出しちゃった」
「えっ!」


 本当なの談くんどこに何されたの! と身体中を弄ってくる蓬莱に孝明が笑う。


「蓬莱にも触られたことのない触られ方されて、孝明さんに落ちそう」
「えっ!!」


 くくく、と笑う二人。蓬莱の頭の上にはガーンとでも書いてありそうだ。


「嘘だ! 談くんが俺以外好きになるはずがない! ……よね?」
「さあ、どうだかな」
「談くん!」


 きゅーんと尻尾を丸めて抱きついてくる大型犬。


「こういうふうになるもので」
「なるほど、よーくわかった」


 席は蓬莱に譲るかな、と言って孝明は他のテーブルへ行った。隣りへすかさず座り、


「孝明さんに何されたの何言われたの何囁かれたの!?」


 と、追求してくる。


「何もされてねぇよ」
「本当に!? こんな孝明さんくさいのに!?」
「お前本当に鬼島社長じみてきたな」


 よしよしと頭を撫でる。明生の髪と違って少し硬い黒い髪。こちらのほうがやはりしっくりくる。撫で慣れた愛しい髪。


「談くん、俺孝明さん相手じゃ太刀打ちできないよう」
「だからお前だけだって、蓬莱」
「本当に?」
「本当本当。俺は血統書付きより雑種のでかい犬のほうが好きだから」


 雑種のでかい犬? と?が浮かぶ頭に垂れた耳が見えた。大型犬は素直だ。尻尾をふりふりもっと撫でて! と言ってくる。よしよししてやって、酒を注いでやって、グラスを合わせる。


「来年もよろしくな、蓬莱。また忙しいと思うけど身体大切に」
「うんっ。談くんもね」


 帰り道、どうしてもむらむらした談にホテルに連れ込まれるのはまた別のお話。



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