ある真夜中、目を覚ました
真夜中に目を覚まして、身を起こした。
普段ならば鬼島も起きるのにその気配はない。疲れていたのだろうか、深く眠っているらしかった。
ナツはその顔を覗き込む。すっとした、美しい顔。普段は鋭い目が閉じられている。それだけで雰囲気はガラリと変わり、なんだか大人しそうな人に見えてくる。
実際に、ナツの印象で鬼島は騒がしくない方に入る。
大きい声をあまり出さないし、話す声も静かでゆっくり。たまに有澤をからかったりするときは楽しそうな声を出すが、ナツと落ち着いて話すときは低音がよく響く。それを聞くのが好きだ。一緒に落ち着くことができる。
「ナツくん」
名前を呼ばれるとほっとする。
いつも緊張しているわけではないが、心のどこかが柔らかくなるのだ。ナツくん、と呼ばれると、自分の輪郭がはっきりするような気がする。
急に、夜中に置き去りにされたような気がしてきた。
名前を呼んでほしくなる。起こすのは気が引けて、一生懸命暗闇の中で鬼島の声を頭の中に響かせた。けれど不安は消せなくて。なんだか泣きそうになり、横になって背中を向ける。寂しくなんかない。朝が来ればまた鬼島が嬉しそうに、あの低い声で名前を呼んでくれる。ひとりでいるわけではないのだ。
言い聞かせて、深く息を吸って、吐く。
目を閉じて、眠ろうとした。が、それはできなかった。
鬼島の腕が、ナツを抱きしめたからだ。
「ナツくん、泣いてない……?」
ぼんやりした声。背中に、体温が触れる。
「ナツくん」
今度はしっかりした声だった。求めていた、あの声。泣いてません、と返すと、そっか、と答えた。
「可愛いナツくんが独りでしくしくしてるのかと思っちゃった」
「大丈夫です。鬼島さん、起きてたんですか」
「寝てたけど、ナツくんが不安になってる気がして目が覚めちゃった」
「すみません」
「ってことは、やっぱり不安になってたんだね」
強く抱きしめられ、小さく頷く。
「鬼島さん、ナツくんのこと置いていったりしないよ。安心して」
「……はい」
「大切な子を置き去りにはできないからね」
「ありがとう、ございます」
「うん」
よしよしと低い声が慰める。釣られるように、去った眠気が戻ってきてくれた。
「ナツくん、おやすみ」
「おやすみなさい、鬼島さん」
今度は朝まで、目を覚ますことはなかった。
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