お友だち(偽) | ナノ

ちょっぴりすけべな満和*


 
正気の有澤とえっちをする満和
積極的?な満和ですが、少々お薬使用です。お気をつけて。





 有澤邸の中で満和が気に入っている部屋がいくつかある。例えば、庭に面した小さな和室。次に、本がたくさん収められた薄暗い洋室、ホームシアターの設備が整えられた洋室。それから有澤の書斎も意外と。体調が良ければ長布団の上へ横になり、書斎に置いてある本を辞書片手に読みふけっていることがある。
 そこへ有澤が帰ってきて、頭を撫でて額にキスをして、他愛もない話。ふわふわと柔らかな時間を過ごして、普段ならそれで終わりなのだけれど。

 今日、書斎の中は様子が違った。主に満和のほうが。

 有澤は、困っていた。
 どうしたものかと、座椅子の上で、長い背凭れに凭れて頭をそらす。その膝の上には満和がいて、それはとても素晴らしいことなのに、手が、意味ありげに有澤の身体をなぞる。着替えたばかりの和服の上から。


「……満和くん、どうした……?」


 膝の上へ馬乗りになった満和。浴衣が開けて弾力に富んだ魅力的な太腿が露出している。随分際どいところまで。
 とろりとした目で、甘ったるく笑って胸に擦り寄る。手が、下半身に触れた。


「……おっきい、けど、もっとおっきくかたくしてくれなきゃやだ……」
「満和くん」
「有澤さん、して?」


 でっかく、かちかちにして。
 甘えた声で囁かれて、撫で回されて形をなぞられて。そんな姿を見せられたら、反応しないわけもなく。
 あっさりと兆したのを嬉しそうに見て、なった、と無邪気に笑う。


「満和くん、本当にどうしたんだ」
「有澤さん、いなかったから……寂しかったんです。ずーっと、どこ行ってたんですか」
「すまない」


 髪を撫でられ、心地良さそうにする。しかし。


「駄目です。だから今日は、ぼくにだけかまってください。誰にも会わないで、ぼくにだけ」


 くりくりした目が、じっと見上げてくる。責めてくるような眼差しに有澤は、うん、と、いやに弱々しく頷いた。


「その前に、満和くん、今日は本当にどうしたんだ」
「どうもしません」
「嘘だ……こういうことには大概、あの人が関わってる」


 机の上の携帯電話を手に取り、着信履歴から選び出して掛ける。すぐに間の抜けた「もしもし」が聞こえた。


「鬼島先輩、満和くんに何かしましたよね?」
「楽しんでる?」
「何したんですか」
「お薬にちょっと仕掛けを」
「何かあったらどうするんですか」
「無害なやつだもん。海外では医療用」
「医療用の」
「媚薬」
「そんなもん」
「あるんだなーこれが。ま、中毒性もないし持続するのは短い時間だし、楽しんだら? 効く効かないは半々だったけどね」


 じゃあね、と脳天気な声とともに通話が切れた。非情な電子音と、目の前でぷるぷるうるうるしているえっちな何かが駄々漏れの仔犬ちゃん。
 はぁ、と息を吐いた有澤。
 満和のぷにぷに頬を両手のひらで包む。


「満和くん、サウナ行くか」
「なんで?」
「薬抜くには一番だ。鬼島先輩のくそや……ばか……うーん、ちょっと性格の捻じり曲がった人でなしが満和くんにいたずらを仕掛けた。身体に害がないとは言え、良くはない」
「……やだ」
「満和くん」
「ぼく、有澤さんとだけ、いたいです。今日は有澤さんといたいんです。だめなんですか」 


 大切な子に、泣く寸前のような顔でお願いされたら、もう何も言えない。再び溜息をついて、額に唇を落とす。


「……薬で覚えてないことを、願う」


 有澤の手が、満和の腰から帯を解いた。指を掛けて前を開いてしまえば、何も身に着けていない肌がある。完全に脱がせてしまうのは躊躇われて、そのまま腰へと両手を伸ばし、掴んだ。


「んっ」


 それだけでも身体が震える。肌を直に触られるだけでも感じるらしかった。腹の中に鬼島への怒りと、若干の性欲、心配とが渦巻く。
 早く楽にさせてあげたいと思うが、性急に進んではならない。頭がクリアなままの有澤は冷静に、少しずつ、満和の身体を高めさせる。
 幼い様子の性器はすでにたらたら、濡れている。先に指を引っ掛けると新たなものが溢れだした。それが垂れて、有澤の生地を汚す。普段の満和ならなにか言いたそうにするが、今日はただ喘ぐばかり。淫らな声でいやらしく。


「ありさわさん」
「ん?」
「もっと、いつもみたいに、して」


 やわやわとした刺激が嫌なのか、腰を動かしながらそんなことを言う。


「だめだ」
「だって、これ、やだ」
「いい子だから、我慢しなさい」


 涙を溜めて、頬がかすかに膨らむ。子どもっぽい様子を初めて見たような気がして、それから、ああ初めて見るんだ、と納得した。
 家に来たときから満和は、身体が辛いときも虐待の心の傷に苦しんでいるときも、そんな素振りは見せなかった。見えているのに、平気ですと言い続けて、まるで、大人が精一杯自分を演じているときのようだった。
 満和が言う、平気です、は大体平気じゃなくて、でも手を出すと満和が支えているものが崩れる気がして、役割は自分ではないのだとどこかで思っていた。最近は北山に頼っているみたいだったから、それは北山の役割なのだと思っていた。多分、間違っていない。
 でも。


「満和くん」


 触れるだけのキスをして、手を一応自分の着物で拭いてから抱き寄せた。腕に収まる小さな身体。どれだけ考えて、心配をかけまいとしてきたのだろうか。
 我儘をいう頭など最初からなくて、そういうのは無意識にしろ押し込めて、周りが気付くまでじっと黙っている。北山が気付くから、と、思っていた自分もいる。


「……満和くん、愛してる」


 寂しい、とか、今見せている表情とか。
 これも、本当は日常に存在してもいいはずの満和だ。満和が愛しくてたまらない有澤なのに、また新たに愛すべき部分を知ってたまらなくなっている。

 そんな有澤の告白を、満和は回らない頭の中で反芻した。もやがかかっているみたいにぼんやりして、今、自分が何を言って何をしているかよくわからない。
 けれど、腕の中はとても心地良くて、数日離れていた有澤がやっと帰ってきてくれたのだと安心した。それから、言葉にも。じわじわと意味を伝えて、気持ちが軽くなる。


「ありさわさん、すき」


 ふわ、と、一瞬だけ晴れたような視界の中で、有澤が少し照れたみたいに微笑んで、優しいキスをくれた。




「やだ」
「うん。すまないが、我慢してくれ」
「や……ん、っ……は、ぁ、やだ……」


 片腕で抱きしめられたまま、もう片手は器用に後ろを解す。太い指は焦れったいほど中を混ぜて、それは満和の身体が覚えている有澤のものとは全く異なる。
 寄せる快感と、覚えのない動きに、頭が回らない満和は半ばパニック状態だ。息が徐々に引きつって、そのたびに有澤は指を抜いて、宥めるように抱いて髪へキスをして、あやした。
 脱げかけて、肩から落ちそうになっている浴衣を直す。ふ、と震える身体を撫で、背を優しく叩く。リズムをつけて、ゆっくりと。


「ありさわさん」
「ん?」
「ありさわ、さん」
「いる。満和くん」


 目が泳いで、ようやく定まる。有澤を見つけると首へ擦りついた。黒髪がさらさら、触れる。
 薬がだいぶ回っているらしい。幾ら安全と言っても、それは健康体の人間の話。満和のように幾つも薬を飲んだり、弱い部分があったりすればどう作用するかわからない。
 行為を続けるのは危ない。辞めよう。
 思うたびに満和が何かを感じるらしく、やだやだと駄々をこねる。尻がぷりぷりと太腿を押し、もやもや。
 息が整ったところで、指を再び差し入れた。
 敏感な部分を押して性器に触れて吐精させ、寝付かせるつもりで。

 指が腕をつかむ。不安げな喘ぎ声が、押し付けられた着物に吸い込まれていく。息が伝わり、熱くなる。


「や、やだ」
「うん」


 片手で性器を、片手で中を。
 様子を見ながら強めに弄る。やだ、やだと繰り返すので若干心が痛い。正気で、性欲に振り回されることなく姿を見ているのは辛かった。


「ありさわさん」
「ん?」
「いれて」
「ん?」
「ありさわさんの、いれて」
「んん?」


 聞こえないふりをしていたら、丸い目がじろり。


「ありさわさんの、おち」


 手のひらで口を塞ぐ。満和の口からそんな言葉を聞いたらどきどきが止まらなくなる。無茶してしまう気がした。
 力ない指が、かりかりと手の甲を引っ掻く。


「なんで」
「普段みたいにがつがつしたら、どうなるかわからない」
「?」
「薬が回っている間のセックスは脳にとんでもない負担になる。特に初回は、キメ慣れてないから一発で廃になることだってあるんだ」
「……いれてくれる?」
「だから……」
「くれないの?」


 仔犬ちゃんが、健気に手のひらへキス。舐めて、指を銜える。赤い小さな舌がちらちら、見えた。


「……」


 有澤は、この部屋に入って最も深い息を吐いた。



 ゆっくり、ゆっくり。
 対面座位のまま受け入れさせる。奥を暴くと痛がるのに、今日は奥の奥まではめられても膝を震わせて喜んでいた。よくない、のに、ぴっちりと締め付けられて、本能のままに腰を振りたくりたくなる。


「普通、薬が入っていれば緩くなるのにな」
「……こわい」
「怖いか」
「ん、わかんない……こわい……」


 ふえ、と、とうとう泣き出してしまった。知らない感覚はふやかされているからなお恐怖なのだろう。


「やだ、こわい」
「気持ちいい?」
「わかんない、こわい」
「大丈夫だ」
「やだ、つっついちゃやだ」
「じゃあ何もしないから」
「やだ、いっぱい、して」
「満和くん」


 落ち着いて、と囁く。頬を撫でて、涙を拭いて。


「今日は何も怖いことをしない。だから安心して、ゆっくり、気持ちいいことだけ拾って、感じて」


 額や、目尻や、頬や、鼻の頭へキス。
 ゆるゆると押し付けると、乱れていた呼吸がつられるように整った。喘いで、困ったように、けれど気持ち良さそうに目を細める。
 ぎ、と、座椅子の背凭れが軋む。有澤の着物もだいぶ乱れていて、無駄のない隆起が美しい胸や腹が剥き出しになっている。用を成さない帯が二本、畳の上で絡み合うように放置されている。それを横目に、満和の様子を見ながら睦み合う。


「ありさわさん」
「ん」
「きもちいい」
「そうか」
「ありさわさん、は?」
「すごく、いい」


 嬉しそうに笑った満和はとても可愛らしかった。



 翌日の早朝、鬼島の元に殴り込んできた有澤から事情を薄っすら聞いたナツが大層怒り「別居させていただきます!」と宣言。一か月ほどを有澤邸で過ごし、満和と仲良くじゃれあう姿に有澤の怒りもすっ飛んだそうな。
 ちなみに満和は、薬が効いているときのことをあまりよく覚えていないようだった。



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