お友だち(偽) | ナノ

ぱられるぱられる。*


 

満和が男娼、有澤がお客の商人。
ちょっとえっちです。





 世間の変化が著しく、ゆるやかに流れていた時の流れが急激なものに変化しつつあることを、商人である有澤譲一朗はひときわ感じていた。前時代の末から新時代にかけ、海の向こうの全く違う、妖怪のような者がうじゃうじゃしている大陸へ出ていたので尚更だ。
 窓の外に照る、幾つかの街灯。道を照らすその下を歩く人間は洋装和装が入り混じる。
 ふぅ、と息を吐くと、膝に乗せている子が敏感に反応した。さきほどまで有澤が土産に渡した木組みの難解な箱を開けるのに苦心していたのに。


「どうかなさったんですか」


 幼さの残る声が問いかけてくる。
 返事の代わりに頭を撫で、抱きしめた。腰に巻きつけても余る腕。やせているわけではないが小さくて、柔らかい。腹周りを抱き、首に口付ける。はもはも唇を動かせばくすぐったさにくすくすと声をあげて笑うのに、一方で緊張している様子も見せる。妓楼にいても誰彼構わず傍に侍るというわけではないし、特にこの子どもは、有澤にのみ買われているから触れ合いに慣れないようだ。


「満和くん」
「はい、旦那さま」
「その呼び方は好かないな」
「……有澤、さん」


 有澤は、旦那さま、と呼ばれるのが嫌だった。なんだか「買っている」という現実で線を引かれてしまうような気がしてしまう……のもあるのだが、満和が「有澤さん」と呼ぶときの声が少し恥ずかしそうでとても可愛らしい。というほうが、今は大きく。
 赤くなった頬に両手のひらを当てている満和の丸っこい頭の真後ろで、凛々しい顔を綻ばせる。

 満和との出会いは、ごくありがちな見世での出会いだった。朱塗りのけばけばしい格子の向こう、犇めく下級の娼妓たちのなかに満和がいた。まだ旦那もおらず、愛想も無いからといって一番後ろにぽつんといたのが、外の国から戻ったばかりで物見に歩いていた有澤の目に留まった。
 以来贔屓にし、長く店を留守にしなければならないときは奉公人によくよく言いつけ、金を定期的に楼へ届けさせて誰の手にも触れさせないようにしている。

 何事もなければ通いつめている有澤。今日も、いつものように一晩買った。
 有澤の財力のみで部屋を貰うまでになった満和と二人きりで時間を過ごす。

 敷かれた布団、横になって寄り添う。まだ最後までするに至ってはいないが、有澤の大きな手は布団の中でよく働く。体温がわかるくらいに薄い長襦袢の上から丸くてむちりとした尻をなでたり、太腿をなでたり。


「有澤さん」
「ん?」


 耳のすぐ後ろで響く有澤の低い声。


「手が」
「触り心地のいい身体だから、つい」
「ぼくが、有澤さんにご奉仕しなければ」
「気にするな。十分……楽しい」


 触られて兆した、満和の幼い形に触れる。指で玩ばれると、身体が硬くなったり柔らかくなったり変化を繰り返す。堪えきれないのか、噛み締められて平べったくなったような喘ぎ声。


「ありさわ、さん」


 不安そうに、有澤の手の甲に重なる手のひら。温かいそれに笑って、そっと裾を割る。濡れた襦袢が剥がれる感触に腰を引く満和。すると、有澤のものに尻が触れた。


「……あ、ありさわさん……」
「ん?」
「あの、凶器が」
「無理矢理いれるような真似はしない。痛がらせたくはないし、苦しめたくもないから」


 でも、準備はしような。
 優しげな声に、耳を赤くして、とても小さく、微かに、頷く。

 震える吐息の中に、声が混ざる。仔犬が甘えるような音。うつ伏せにさせた満和の下半身、自分でも触らないような場所に有澤の指が入り込んでいる。
 このような場所にはお決まりの、備え付けられている潤滑液。卑猥な音が鳴り、満和自身が追い詰められる。 
 ぎゅう、と締まり、食い締められる指。
 有澤はひく、ひく、と動く丸い尻をもう片方の手のひらで撫で回していた。薄い布の上から、だ。指を差し入れているのみで、実際には見ない。見たら、理性が振り切れてはち切れてしまいそうだからだ。
 指が、柔らかなそこを探った。何かを探しているみたいに気まぐれに動き回る。まだ達するほどの快感は得られないが、有澤にだけ知られているそこはすっかり懐いている。本人はそれを解っているかどうかはわからないが、慣れた動きで吸い付いてきていた。


「満和くんは素直だな、どこもかしこも」


 悶えている満和には有澤の声がとても遠く聞こえる。反応しかけ、ぴく、と震えた。顎が上がる。身体が反り、一際の声が漏れた。


「すごく素直だ」


 ふ、と笑う。
 入っていた指を抜き、ごろりと仰向けにさせる。すかさず上掛けを被せて隠しながら、張り詰めてぱんぱんになった下半身を柔らかく撫で撫で、揉みほぐすようにする。すると、あっという間に手が汚れた。滴る液よりもう少し粘着質な液体で。

 緩む、小さな身体。
 有澤は献身的に、身体を拭いた。なるべく見ないように気をつけながら。


「満和くん、寝るか」


 ふわふわした感覚らしい満和は目を細め、しかし首を横に振る。


「有澤さんと、もっと」
「俺はここにいるぞ」
「もっと、くっついていたいです」
「……わかった」


 満和が寝たら一度離れよう。
 そう思いつつ、腰を引き気味に横へ寝そべる。
 くっつかれて、抱きしめて。なかなか腰が痛い姿勢。満和の頭を撫でつつ、額へ口付け。


「……有澤さん」
「ん?」
「有澤さんと、一緒にいたい、です。たくさん、もっと、いっぱい。有澤さんがいないの、いやなんです、最近。ぼく、へん、で」
「……そうか」
「有澤さんはどう、ですか」


 丸い目が見上げてくる。もちろん同じ気持ちだと伝えたかったが、こういう場所ではどんな言葉も嘘に聞こえてしまいそうな気がして、代わりに抱きしめた。
 まもなく眠った満和の寝顔を見つめる。
 長い睫毛も豊富な髪も黒黒していて艶がある。肌は、ところどころ破れやすいようだが、あちこちから薬を取り寄せて比較的良くなった。身に着けているものも細かく気を遣い選んで、その効果もあるようだ。
 寝ても覚めても、商売をしていても満和を思う。きっと似合う、きっと喜ぶ、きっと効く。そんな具合に。

 夜が明ければ、満和と離れなければならない。ここから出したいと考えているのだが、楼主が一筋縄ではいかない。身請けするなら財産を全額持っていかれるはずだ。それだけでなく腕一本まで、持っていかれるかもしれない。
 得体の知れない笑み。
 得体の知れない、存在。
 有澤は息を吐く。
 腕くらいは構わないし金は稼げばいい。が、楼主と関わり合いたくはない。嫌な予感しかしないからだ。

 さて、どうやって満和を一生傍に置いておくか。
 そっと布団を抜け出した有澤、静かに窓の傍へ座る。下ではきらびやかな声が舞い、夢のかけらがたくさんある。
 その中にひとり、黒いわだかまり。ひっそりと客が夢といるのを見守っている。上から下まで、足袋まで黒。しかし帯だけが白い。
 されたことを考えただけで、折られた肩が痛む。あの人と見えたのは昔々のこと、なのだが、いいことはひとつもなかった。
 おかげでいきり立っていた下半身がすっかり静寂を取り戻した。


「ありさわさん……?」


 傍らが寒かったのか、不安そうな声。
 窓を閉めて戻り、改めて抱き直す。


「どっかいっちゃったか、と」
「そんなもったいないこと、できない」
「いてくださいね」
「ああ」


 腕の中へ収まり、たくましい胸へくっついて、安心したようにまたすぅすぅと眠る。

 夢ではなく、現実でもいつだって傍にいてほしい。さて、一番いい方法は。考えていたせいか、有澤は一睡もすることができなかった。



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