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仲直りして、えっちして


 つい先日まで怒っていた満和。ようやく許してもらえて、平和に、ふたりきりで大晦日を迎えた。
 人の気配のない小さな家の中、ベッドルームの大きなベッドの上、珍しく積極的に有澤を誘った満和は目隠しのようにタオルを巻かれ、手首はベッドのヘッド部分に帯で拘束されている。いつもなら手首が擦れないよう工夫してくれるのに、今日の有澤は直に縛った。弱い満和の皮膚はすでに擦れて赤くなっている。しかし、その痛みに気付かないほど、激しく突き上げられ、最も悲鳴を上げているのは腰の辺り。満和との諍いのさなか、食卓でもひとりぼっち気分で食べていた有澤はついつい食べ過ぎてしまっていて、体重がいくらか増えた。おかげで腰回りも少々厚みを増していて、更に禁欲を命じられていたので理性がぶち切れてしまったのか荒い息遣いのみで声を掛けることもなく満和を犯している。
 視界を奪われた満和の耳元で、さながら野獣のような息の音。
 まるで獣に犯されているような気がして、いつにも増して恐怖が襲う。太い指で拡げられたけれど遥かに太い逸物が下腹部を内側から押し上げ、内臓を突き上げられるその感触に合わせて背中がしなる。がっちり押さえつけられた腰骨、尻にぶつかる音が聞こえているのに、すぐに意識からその音が去ってしまうのは、痛みやら違和感やらの中、微かにきらめく快感を拾うからだろう。
 満和が上げる声は、喘ぎ、というほど艶めいてはいない。唸り、のほうが近い。
 けれど有澤はそれを聞いて、毎回興奮する。
 毎回毎回、まるで初めて犯されるように怯える満和の狭いそこ。小さな尻に無理矢理押し入り、開き、突き回して聞こえる声を聞くと、それが快感に染まったものではない苦痛などに満ちたものでも、とても興奮してしまうのだ。

 中に精を吐き出し、けれどまだ萎えない有澤。
 満和の手首の拘束を解いて、膝に乗せた。対面座位である。なおさら奥深くに入りこむその体位が好みらしいことは、満和も気付いている。有澤の身体は目が見えなくて肌だけが触れてもわかるくらい立派だ。普段はとても信頼している。今はそれも凶器に思えてしまうけれど。


「ありさわさん」


 呼ぶと、応えるようにぎゅっと抱きしめてくれる腕。せわしなく上下する胸の少々上に頬をつけてみる。熱い肌。自分も今、同じくらい発熱しているのだろうか。こんなに熱いのだったら触れている場所からどろどろに溶けてしまってひとつになったりしないだろうか、と、ありえないことをぼんやり考える。でもそれならばそれでもいいかもしれない。もしひとつになれたなら、この前のような醜い嫉妬をしなくても済む。嫌な気持ちを知ることもないし、平和かもしれない。


「満和くん」
「はい」


 珍しく、有澤が声を出した。
 こういう行為のときはほとんど最初から最後まで黙っているのに。そして、目を覆っていたものも解かれる。久しぶりに周りを映す目を上げると、有澤の顔が見える。目があった瞬間、なぜだか身体の中で、有澤のそれがぎゅっと硬度を増したように思えた。
 更に鋭い眼差しが、満和を見る。欲情している顔。けれど今日はいつもよりもずっと柔らかな色を持っていた。


「……この前、嫉妬させてすまなかった」
「いえ、それは」
「いや、俺が悪かったんだ。次はああいうことがないようにする」
「……はい」
「でも、嫉妬してもらえて、少し嬉しかった」
「……嬉しかった、んですか……? 怒られてるのに?」
「ああ。満和くんの気持ちが、こっちに向いているのがよくわかって、嬉しかった」


 嫌な男だな、と、有澤が笑う。
 その笑みに、頬が熱くなった。あんなにどろどろとした気持ちを表に出したのに、有澤は嬉しいと言う。そして、こんな風に笑う。自分の嫌な部分も好きだと言う有澤に、なんだかとても、どきどきした。
 どきどきは体内に変化を起こし、有澤に気付かれた。


「……満和くんの、なか、が、きゅってなったな」
「なって、ません」
「そうか」


 軽く押され、首を縮めて「ひゃ」と声を漏らす。有澤はそれを続けた。


「ん、んっ……ありさわさん、やだ、や、です、これ」
「嫌、なのか。そんな風には感じないが」


 ゆらゆら、揺らめく有澤。
 ゆっくりしたセックスは記憶にない。いつだって有澤は激しく求めてくるばかりだったから、こんな風に奥を撫でられると、じんわりした快感だけを突きつけられる。そんなことはろくに経験がないので、快感だけを与えられて戸惑った。けれど内側は喜んで有澤のそれをぎゅうと締めつける。そうすると満和は余計に辛くなって、ただ喘ぐだけになる。
 困ったような泣きそうな顔で自分にしがみつき、淫らな顔と声とを披露する満和をじっと見つめて、たまにはこういうのもいいかもしれないと思った。普段は、ただ欲望に任せて抱くだけだったけれど、満和の様子を見ながらだとこんな風になるのか。
 新たな楽しみを見出した有澤は、ただ快感だけを与えた。満和は追い詰められて、たまにうらみがましく有澤を睨みつけてみたりした。けれど本人はどこ吹く風、目を逸らさず、ゆったりした動きを緩めも早めもしない。
 満和は足を動かしてどうにかならないかともがくが、有澤の大きな手がなだめるようにやんわりと撫で、押さえつける。
 未知の感覚、頭の中が白くなるような気がしてとても怖い。
 混乱してぼろりと涙をこぼす満和。その涙を、目元に口づけ受けとめる。やだ、と言う満和の腰を腕で抱きしめるようにして、がつがつと、腰を振るった。急に早まって、けれど快感を覚えてしまってそればかりが際立つ。声が漏れてしまって止められない。

 何もわからないうちに、身体が跳ねた。びくびくと、何も出さないうちに達したのである。激しく呼吸している満和の身体の中を更に探る有澤の腰は止まらない。
 そのまま、満和はぐったりと目を閉じた。意識のない満和の中に再び精液が中に放たれる。

 艶のある黒髪を撫でてから、ベッドに横たえてやる。中から抜け出すと、きちんと処理をして、布団を掛けた。自身も横になり、腕に抱く。その耳に聞こえた除夜の鐘。
 嫉妬してくれて、仲直りをしてくれて、セックスをして。
 触れ合えないということは辛かった。今度から、あまりたやすく理性が飛ばないようにしようと決意する。そうすれば、あんなに可愛らしい満和を見ることができるのだから。
 少しずつ、満和は自分の事を好きになってくれているような気がする。
 そんなことを、恋人になってから実感した。来年、いや、もう今年だ。今年は、もっと満和に気持ちを開いてもらえるように努力しなければ。
 そんな風に思った有澤は、もう一度満和に口づけをした。長く長く、傍にいてもらえるように努力し続けなければならない。と。




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