小説 | ナノ

王子と坊主 3*


 

一梗(いっきょう)
真沙美(まさみ)

えっちいことしてます注意。





 真沙美は中学生のときから一梗の家へよく遊びに行く。泊まることも多い。夏休みになってからは、両親がいない一梗の家に時折泊まりに行っている。


「一梗のお父さんお母さん、最近帰って来た?」
「全然会っていない。忙しいらしいな」


 麦茶を注ぎながら肩をすくめる一梗。涼しげな白いシャツに、ゆったりした黒の長パンツ姿。最近切ることをさぼっているのか、濡れたような黒髪が伸びて項を覆うくらいになっている。美しい面の冷たいとも見える目は熱心に真沙美だけを見つめていて、しかし見つめられているほうの真沙美はごくごく麦茶を飲んで課題をやっていて気付いていない。


「まさは数学が得意だな」
「一応工業系だからねー」


 間を詰めてきた一梗。その目がぎらぎらしていることにまだ気付かない。つるっとしたスキンヘッド、太目の黒縁眼鏡の奥の明らかに鋭い切れ長の二重、鼻が高く、唇が薄い。黒地で背中に血を吐くうさぎがポップに描かれたポロシャツに、薄い青のハーフパンツ。筋が綺麗に浮かぶ日焼けした腕や足、ごつい手に鉛筆を持って課題を埋めていく。
今日は耳にきらきら光るピアスが幾つもあり、大小さまざまなそれらのどれもが自分がプレゼントしたものであると一梗は満足そうに笑う。


「まさ、腕や指には装飾品を着けないんだろう?」
「うん、危ないから」


 工業科は様々な工業実習があり、安全面に配慮して基本的に総てのアクセサリーが禁止となっている。それを破って様々な目に遭った先輩や同級生の話には事欠かないので、特に真面目な真沙美は休みの日に耳に着けるぐらいだ。
 一梗が更に間を詰めてきた。
 もはや隣にぴったりとくっついている。そこでようやく、真沙美が気付いた。


「……近くない?」
「まさ、課題はもういいだろう」
「もうって、今始めたばっかりなんだけど」
「いやらしいことをしようじゃないか」
「……はい?」


 にっこり笑って、一梗は厚めの肩を抱く。眉をひそめ、その手をぺしっと払う真沙美。


「だめ。今日はこれ終らせるって決めてるの」
「夜に手伝ってやる」
「……そういうことしてからだと、絶対やりたくなくなるもん」


 一梗が肩に擦り寄ってくる。上目遣いに見られると、美しい顔が可愛らしく見え、うっと声を出した。きれいな顔が大好きな真沙美は甘えられると弱い。
 手から鉛筆を取り去り、そのまま右手で右手をぎゅうっと握る。真沙美の目がうろたえたのを見て、ちょろい、と、内なる一梗が悪そうに笑った。下から唇を合わせると今日もミントの味がした。濡れた音がして、真沙美の顔や耳が赤く染まる。


「……まさの唇は、薄いのに柔らかい」
「……っ、そういう感想、いいから……」


 眼鏡の奥の目が潤んでいる。さきほどまでは一梗の右手に握り締められるばかりだった真沙美の右手も、いつの間にか握り返していて。指に絡む指の感触が、一梗を幸せにさせる。


「真沙美」


 ちゅっと、頬に軽い口付け。真沙美が困ったような顔をする。


「まだ、明るいし」
「すぐ暗くなる」
「誰か来るかも」
「まさがいるときには誰も来ないように言ってある」


 それはそれで恥ずかしい事実である。目をうろうろさせ、最後に俯いた真沙美は小さい声で言った。


「……ちょっとだけ、なら」
「ちょっとだけ? ちょっとだけって、なんだ」


 耳に口付けられ、右手がするりと真沙美の手から離れた。そしてそのまま、ポロシャツの上からそっと腹を辿り、筋肉がほどよくむっくりした胸へ。


「こういうのは、ちょっとって言うのか」
「いっ、きょ、」
「これは……?」


 耳朶を甘く噛んで、いい声が囁く。その妙に優しい声と同じように、柔らかく胸筋を揉まれる。


「こういうのは、いいのか」
「んっ」
「真沙美、教えてくれないとわからないぞ?」


 一梗が、いつの間にか、後ろにいる。そして両手で遠慮なく胸を弄り回してきた。服の上から、乳首を探り当てて指でぐりぐり。真沙美の身体が敏感に跳ねたり声を漏らしたり。けれど極力出すまいとしているのか、手の甲を口に当てて小さくちいさく喘ぐだけ。
 すっかり意地の悪い顔の一梗。微笑しつつ、片手を下へ。


「こういうのはいいのか」


 通気性の良さそうな綿のハーフパンツ。薄い素材のおかげで触るとすぐそこにある熱に触れられた。硬く勃ち上がりかけている。太く、大きさもそこそこ。白く美しい、明らかに労働を知らない手に撫でられ優しくされ、どんどん硬度を増していく。
 そんな中途半端なときに、一梗はぱっと手を離した。胸からも、下からも。


「……いっきょ、う」
「ちょっと、がわからないからな。こんなものだろう。違うのか」


 腰に腕を回し、ぎゅっと抱きしめる。背中に頬を寄せると熱くなっているのを感じた。


「いっきょう」


 甘えた声を出して、下半身をもじもじさせている真沙美。大きな身体を縮こまらせ、戸惑ったように振り返る。


「一梗」
「少し、って言ったのはまさだろう」
「……そう、だけど」


 そうだけど、と、もう一度呟き、もじもじもじもじ。


「お願いは、きちんと言わないとな。そうだろう? まさ?」


 真沙美の手が、腰を抱いている腕を掴む。そして、たどたどしく、口にした。


「……一梗、えっち、して?」


 しよう、ではなく、して。
 そういうところに興奮してしまう。喜んで、と笑った一梗は手を引き立ち上がって、続きの部屋の襖を開ける。そちらは寝室。普段ならば寝る前に布団を敷くが、今日はもう真沙美が来る前に準備しておいた。もちろん下心から。


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