青年ひとりとオス三頭 2
芳樹(よしき)
清孝(きよたか)
晴万(はるま)
咲々(ささ)
*
清孝、晴万、咲々。獣人である彼らは日中、それぞれヒト型で暮らしている。清孝は貿易会社の社員、晴万は服屋の店員、咲々は高校生。芳樹と同じくらいに家を出て、早いか遅いかは日によって変わる。
だいたい最初に帰ってくるのは晴万。
荒れ放題だった家の中はすっかり綺麗になった。四人で懸命に掃除した結果だ。
部屋着に着替え、キッチンに立つ。晴万の料理がいちばん美味しいと芳樹が笑う、あの笑顔が見たくて調理に励むのだ。
今日は豚肉のにんにく巻きに大根サラダ、ほうれん草のおひたしと山芋の漬け物。それから、と、考え考え野菜を刻む。
「ただいま」
しばらくして、だいたいの準備が済んだ頃、大好きな声が聞こえた。玄関に飛んで行けば、スーツ姿の芳樹がリビングにいた。ネクタイを解いている横から、抱きつく。
「お帰りなさい」
「ただいま、晴万。おかえり」
「ただいま」
肩に頬を寄せるとうにゃうにゃごろごろ鳴る。芳樹からはいい匂いがするから心地よく、勝手に喉が鳴ってしまうのだ。
顎をそらして見上げると、かっこいい芳樹の顔がある。それがとても自然に近づいてきて唇が触れ、舌が絡む。
途端に何とも言えない感覚が身体を駆け巡る。すっきりするというか、さっぱりするというか、少しずつ重石が取れるような、そんな感覚だ。
唇へのキスをちゅっちゅ、と軽いもので締め、赤いそこの右上にある銀色のピアスを吸う。また違う感覚で、晴万の身体がぴりぴりする。
「……晴万は、いつも甘い」
そんなことを言って微笑む。
かっこいい。胸を高鳴らせていたら芳樹の後ろから手が伸びてきた。スーツを着ていても逞しい腕ですぐわかる。
強い雄の匂いがいい匂いに混じる。芳樹の頭より更にひとつ上から強烈な視線が降り注いだ。
「なんだ、お前もいたのか」
銀縁眼鏡をかけた清孝はそれだけ言い、芳樹の肩を抱いて上を向かせ、唇を重ねる。音を鳴らして絡む舌、いかにも見せつけるようなそれが憎い。
晴万はぷい、と、キッチンへ戻った。憎々しげに大根を刻む音が聞こえる。
清孝は大きな身体に見合うだけ、芳樹から貰わねばならない。華奢な晴万とは違う。途中で芳樹の腰が砕けてもやすやす支え、番からの体液摂取に励む。
離れると銀糸が、まだふたりの唇を繋げた。
「……ただいま、ヨシ」
「ん、お帰り」
体液摂取関係なく、軽いキスを。気持ち良さそうな芳樹の顔に清孝の獣性が騒ぐ。番を組み伏せたい、鳴かせたい。
しかしそうしたら嫌われる。ぐっとこらえ、芳樹の身体から離れた。ふたりともまだスーツのままだったからだ。
それぞれの部屋へ行き、着替える。芳樹の部屋は二階、清孝春万咲々の部屋は一階。
スーツを脱いで下着だけになった芳樹の身体は彫像の如き美しさ。筋肉の線がくっきりして、しかし決して太くはない。腰の締まり具合は絶妙だ。
下にいるオスたちの大好物を無防備に晒し、Tシャツを探す。そこにすりすり、毛皮の感触が触れた。
「咲々。お帰り」
虎姿の咲々が丸い耳を腰へ擦りつけていた。
Tシャツ探しをやめ、抱きしめる。すると首や鎖骨をべろんべろん。汗の残滓にも番の浄化作用は残る。くすぐったさに笑う芳樹を時折上目遣いに見て、脇や腕、腹にいたるまで舐めまくる。ふたりきりだから。
「そこはだめだぞ」
若いオスが鼻面を押し付けてきたのは、ボクサーパンツの中心部。においをかがれるとさすがに恥ずかしい。ふかふかの額を押すと素直にどいたので、頭を撫でてやる。しかし物足りなさそうな顔だ。
だから芳樹は自分からキスをしてやった。虎の長い舌が口の中に入る。ざりざりして、ぞくぞく。
咲々が満足する頃には疲労感が強くなっていた。番に体液を取られた際の疲れは、身体を動かした疲れとはまた異なる。
ぐったりした芳樹に、人型の咲々が服を着せる。長めの髪がさらさら揺れ、涼し気な目が心配そうに覗き込む。
芳樹は笑って、虎の時にやっているように頬を撫でた。
支えられて下に行けば、すっかり食卓は整っていた。くたくたの芳樹を見て、清孝と晴万からこっぴどく叱られる咲々。
「芳樹、大丈夫?」
晴万が、中性的な美しい顔を歪めて泣きそうになっている。だから笑って、そっと髪を撫でた。
「晴万の美味しいごはん食べたら、すぐ元気になるよ」
そう言われ、乙女のように頬を染めるのがかわいい。
「清孝さん、ごはん食べたらお風呂手伝って」
「ああ」
弱っている番には手を出さない。それが獣人の雄だ。
清孝は芳樹に対してとても親切だし、咲々は寝るときに湯たんぽ代わりになってくれる。晴万は甲斐甲斐しく、料理が美味しい。
三頭のオスに囲まれ、芳樹は今日も幸せそうに笑った。
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