小説 | ナノ

青年ひとりとオス三頭 2


 
芳樹(よしき)
清孝(きよたか)
晴万(はるま)
咲々(ささ)





 清孝、晴万、咲々。獣人である彼らは日中、それぞれヒト型で暮らしている。清孝は貿易会社の社員、晴万は服屋の店員、咲々は高校生。芳樹と同じくらいに家を出て、早いか遅いかは日によって変わる。

 だいたい最初に帰ってくるのは晴万。
 荒れ放題だった家の中はすっかり綺麗になった。四人で懸命に掃除した結果だ。
 部屋着に着替え、キッチンに立つ。晴万の料理がいちばん美味しいと芳樹が笑う、あの笑顔が見たくて調理に励むのだ。
 今日は豚肉のにんにく巻きに大根サラダ、ほうれん草のおひたしと山芋の漬け物。それから、と、考え考え野菜を刻む。


「ただいま」


 しばらくして、だいたいの準備が済んだ頃、大好きな声が聞こえた。玄関に飛んで行けば、スーツ姿の芳樹がリビングにいた。ネクタイを解いている横から、抱きつく。


「お帰りなさい」
「ただいま、晴万。おかえり」
「ただいま」


 肩に頬を寄せるとうにゃうにゃごろごろ鳴る。芳樹からはいい匂いがするから心地よく、勝手に喉が鳴ってしまうのだ。
 顎をそらして見上げると、かっこいい芳樹の顔がある。それがとても自然に近づいてきて唇が触れ、舌が絡む。
 途端に何とも言えない感覚が身体を駆け巡る。すっきりするというか、さっぱりするというか、少しずつ重石が取れるような、そんな感覚だ。

 唇へのキスをちゅっちゅ、と軽いもので締め、赤いそこの右上にある銀色のピアスを吸う。また違う感覚で、晴万の身体がぴりぴりする。


「……晴万は、いつも甘い」


 そんなことを言って微笑む。
 かっこいい。胸を高鳴らせていたら芳樹の後ろから手が伸びてきた。スーツを着ていても逞しい腕ですぐわかる。
 強い雄の匂いがいい匂いに混じる。芳樹の頭より更にひとつ上から強烈な視線が降り注いだ。


「なんだ、お前もいたのか」


 銀縁眼鏡をかけた清孝はそれだけ言い、芳樹の肩を抱いて上を向かせ、唇を重ねる。音を鳴らして絡む舌、いかにも見せつけるようなそれが憎い。
 晴万はぷい、と、キッチンへ戻った。憎々しげに大根を刻む音が聞こえる。

 清孝は大きな身体に見合うだけ、芳樹から貰わねばならない。華奢な晴万とは違う。途中で芳樹の腰が砕けてもやすやす支え、番からの体液摂取に励む。
 離れると銀糸が、まだふたりの唇を繋げた。


「……ただいま、ヨシ」
「ん、お帰り」


 体液摂取関係なく、軽いキスを。気持ち良さそうな芳樹の顔に清孝の獣性が騒ぐ。番を組み伏せたい、鳴かせたい。
 しかしそうしたら嫌われる。ぐっとこらえ、芳樹の身体から離れた。ふたりともまだスーツのままだったからだ。

 それぞれの部屋へ行き、着替える。芳樹の部屋は二階、清孝春万咲々の部屋は一階。

 スーツを脱いで下着だけになった芳樹の身体は彫像の如き美しさ。筋肉の線がくっきりして、しかし決して太くはない。腰の締まり具合は絶妙だ。
 下にいるオスたちの大好物を無防備に晒し、Tシャツを探す。そこにすりすり、毛皮の感触が触れた。


「咲々。お帰り」


 虎姿の咲々が丸い耳を腰へ擦りつけていた。
 Tシャツ探しをやめ、抱きしめる。すると首や鎖骨をべろんべろん。汗の残滓にも番の浄化作用は残る。くすぐったさに笑う芳樹を時折上目遣いに見て、脇や腕、腹にいたるまで舐めまくる。ふたりきりだから。


「そこはだめだぞ」


 若いオスが鼻面を押し付けてきたのは、ボクサーパンツの中心部。においをかがれるとさすがに恥ずかしい。ふかふかの額を押すと素直にどいたので、頭を撫でてやる。しかし物足りなさそうな顔だ。
 だから芳樹は自分からキスをしてやった。虎の長い舌が口の中に入る。ざりざりして、ぞくぞく。

 咲々が満足する頃には疲労感が強くなっていた。番に体液を取られた際の疲れは、身体を動かした疲れとはまた異なる。
 ぐったりした芳樹に、人型の咲々が服を着せる。長めの髪がさらさら揺れ、涼し気な目が心配そうに覗き込む。
 芳樹は笑って、虎の時にやっているように頬を撫でた。

 支えられて下に行けば、すっかり食卓は整っていた。くたくたの芳樹を見て、清孝と晴万からこっぴどく叱られる咲々。


「芳樹、大丈夫?」


 晴万が、中性的な美しい顔を歪めて泣きそうになっている。だから笑って、そっと髪を撫でた。


「晴万の美味しいごはん食べたら、すぐ元気になるよ」


 そう言われ、乙女のように頬を染めるのがかわいい。


「清孝さん、ごはん食べたらお風呂手伝って」
「ああ」


 弱っている番には手を出さない。それが獣人の雄だ。

 清孝は芳樹に対してとても親切だし、咲々は寝るときに湯たんぽ代わりになってくれる。晴万は甲斐甲斐しく、料理が美味しい。

 三頭のオスに囲まれ、芳樹は今日も幸せそうに笑った。





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