小説 | ナノ

めぐむとひかる 6*


 
熙(ひかる)
めぐむ


R-18というほどでもないですが一応。





 しんとした夜、月が冴え冴えと光を放つ。その部屋は赤々と燃える暖房で温められていて、薄い寝間着でも充分にいられた。二人で眠ることを考え、熙が特注で作らせた大きめの布団に揃って入っている。電気も消され、丸い格子窓の障子から入り込む月明りだけが明るい。
 氷魚は続きの部屋にいて、じっとしているのかすでに眠っているのか。
 なぜだか寝付けないめぐむはころんころんと寝返りをうっていた。


「眠れないのですか」


 静かな、夜の闇に紛れ込むような熙の声がそっと話しかけてきた。


「あ、ごめんなさい。起こしてしまいましたか」
「いいえ、ずっと起きていましたから」


 熙が、身体を横にしてめぐむを見た。
 暗さに慣れた目と目が合う。どちらからともなく、手に触れた。それはとても温かくて安心する体温。すっかり慣れた伴侶の愛しい熱。熙の長い腕が、めぐむを抱きしめる。恐る恐るといった様子で、しかししっかりと。一瞬だけ身を固くしためぐむだったが、熙が悪いことをするわけがない、とすぐ思って力を抜いて身を任せる。
 顔を埋めた熙の寝間着からは、それはそれはいい香りがした。


「ひかるさま」
「はい」
「……温かいです」
「そうですね。安心、しますね」
「はい、とっても」


 こどもらしい声が伝えてくる気持ちに、熙の胸がきゅうっとなる。自分はなんていい伴侶を得たのだろう、と幸せだった。それはめぐむも同じで、だからその行為に及ぶのはとても自然なことのように思えた。
 初めて、唇に触れた。触れるだけの軽いもの。
 離れると、めぐむの唇が追いかけてきて、やはりゆっくり触れてきた。熙の手が、袷へと忍ぶ。大きな手が入り込んできて、肌に触れてきて、くすぐったさにふふと笑う。


「笑うものじゃありませんよ」
「だって、ひかるさまの手、優しいからくすぐったくて」
「強引なほうが?」
「いいえ」


 くすくす、笑う声。熙がめぐむの身体の上に覆いかぶさる。額に口付けても、めぐむは仔猫のように笑うばかり。緊張している様子は全くなく、却って安心した。


「めぐむ」
「はい、ひかるさま」
「幸せですか」
「とっても。ひかるさまはお幸せですか」
「もちろんです」
「よかった」


 お互いに目を見て笑い、再び唇を触れ合わせる。遊びみたいだと思った熙だけれど、めぐむ相手にはちょうどいいのかもしれない、と思う。


「ひかるさまの手は、皮膚が薄くていらっしゃるのですね」
「そうでしょうか」
「はい。だから、くっついてとても、気持ちがいいです」


 帯を解き、現れためぐむの肌に手を添わせたり唇を這わせたり。くすくす、よく笑うめぐむ。けれど気持ちがよくないというわけでもないようで、たまに艶めいた声を漏らす。そういう声を聞くのは新鮮で、熙の胸がどきどきと音を大きくする。一見すると普段と同じような無表情だが、愛しい子どもと行う初めての行為にとても緊張して、とても興奮していた。


「めぐむ」


 ん、と、声が漏れる。普段の声はどこへ行ったのか、とても色っぽい音。


「はい」
「触れられて、気持ち悪くないですか」
「とっても、心地いいです」
「そうですか」


 はぁ、と息を吐いて、やはりふふと笑う。


「今日のめぐむはとてもよく笑いますね」
「ひかるさまに触れていただいて、とてもうれしいからです」
「わたしもめぐむに触れることができて、嬉しいです」
「おんなじですね」
「ええ、おんなじ、ですよ」


 首や、胸や、腹に口付ける。滑らかな肌だ。瑞々しくて若い。耳を胸へ寄せると、同じように早く動く音がした。どきどき、どきどき。同じ音にひとつになってしまうのではないかと思うような。


「ひかるさま」


 触れて、触れて、奥まで。
 暴くように、奥まで進む熙の手。様子を見るように、でもしっかりと。熙の腕へしがみついて名前を呼ぶと、すぐに返事が聞こえる。それだけでよかった。怖くないと思う。


「めぐむ、怖くないですか」
「ひかるさまのなさることですから」


 熙の首に、めぐむの唇が触れる。微笑みの愛らしさに息が止まりそうになった。


「わたしは、いい伴侶を持ちました。偶然の出会いでしたが、あれは運命だったのではないかと今は思います」
「ぼくも、めぐむも、そうです」
「めぐむと出会えてよかったですよ」
「はい」
「愛しています。こんな言葉だけでは伝わらないほど、深く」
「ぼくもです」


 ぐいと、熙が身体の中に侵入してくる。深く、やはり溶け合うようだと思った。密着した部分からそうならないかと思う。でもひとつになってしまったら、熙が優しく笑うところも見られなくなってしまうし、触れてくれることもなくなってしまうから嫌だった。


「痛くありませんか」
「だいじょうぶ、です」
「無理はしないでくださいね」
「わかってます」
「無理なことをしているのはわたしですけれど」
「いいえ」


 ぎゅうと、めぐむの腕が抱く。


「ひかるさまがこんなに近くにいるのに、いやなことなんてありません」
「……なんて可愛いんでしょうか」
「あ、ひかる、さま」
「めぐむはどこまで可愛らしくなるつもりですか……」
「あの、あの」
「わたしはどんどん心配事が増えて心が狭くなってしまいます」


 ふふふ、めぐむが嬉しそうに笑う。


「ひかるさまに心配していただけるのは、ぼくだけですね」
「妻のこと以外に心配なことはありませんよ」
「ふふ、特別」
「ええ。ずっと前から、いつの間にか」


 ゆさ、ゆさ。
 揺さぶられて、はぁとめぐむが息を吐く。ゆっくりゆっくり、差し入れられる熱。布団の中で見えなくていいと思った。見てしまったら頭がわけわからなくなりそうだったから。いずれ、経験を積んでぼくもひかるさまに何かしてあげたいなと思ったけれど、どうやって経験を積んだらいいのかわからないめぐむ。
 あとで氷魚さんに聞いてみよう。
 と、快楽に溺れかけた頭で考えてみるのだった。

 翌日、尋ねられた氷魚は返答に窮して珍しく逃げてしまい、首をかしげるめぐむを熙は笑いながら見ていた。






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