そんなもんだよ[1/3]



―好きです。

そう言われてから三日がたった。

ぶっちゃけた話、私は彼を知らなかった。
鉢屋三郎は変装名人。
それ以外の情報を知らなかったし、知る気もなかった。

そのことを理由に彼からの好意を拒否した。
しかし、鉢屋は試しに付き合ってみればわかるでしょう?と半ば強引に話を進めた。
そうして断るタイミングを完璧に失った私は、鉢屋の彼女という位置に落ち着いたわけだ。

あと、五日間か。
ふいに鉢屋の顔が浮かぶ。
七日間でわたしのことを好いてもらいますから、と言ったときの余裕たっぷりの笑みを思い出した。


「雅先輩!」

「鉢屋…?」


なんでここにいるんだ。
疑問に思ったがよくよく考えたら今は夕食時、私がここに居るように鉢屋が食堂に居てもなんら不思議は無い。


「ご一緒しても良いですか?」

「はぁ、どうぞ。」


誰だ、鉢屋くんって飄々としてるよねー、とかきゃっきゃしながら騒いでたやつ。
どこが飄々としてるんだ、私には犬の尻尾が見えるぞ。


「………。」

「……なに。」

「雅、って呼んじゃ駄目ですか?」

「阿呆か。」


じぃ、と無言で見つめられてるなと思ったら、今度はなに馬鹿なことを…。

たかが一歳差、一学年差でも学んできた内容や見てきた世界の差は大きい。
だからこそ歳上は敬うものなのだ。
それをこいつはわかっているのだろうか。


「だって、雅先輩はわたしの恋人じゃないですか。
呼び捨てで呼ぶことになんの問題があるんです?」

「大有りよ。
そもそもあと五日で私が鉢屋を好きにならなかったら、この関係はそこで終わりなんだから。」

「う、それはそうかもしれませんけど、」
「ごちそうさまー。
またねー、鉢屋。」


話が長くなるな、と予想しご飯を飲み物やら味噌汁やらで無理矢理胃の中に流し込んだ。

膳をおばちゃんに渡して、さっさと食堂から出る。

後ろから先輩!?と慌てたような声が聞こえたがこんなときは無視するに限る。

……あれ?
私、食堂を出るとき鉢屋になんて言った?

またね、だよね。

これじゃまるで、また会いたいって思ってるみたい。

え、なにこれ。
私の本心だって言いたいの?
ないないない、絶対無い。

だって私、鉢屋のこと好きじゃないし。
うん、好きじゃない…はず。

その日から鉢屋の私に対するスキンシップの量が増えたのは言うまでもないだろう。

あいつも"またね"をまた会いたい的な意味でとらえたんだ、と容易に想像がついた。


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