そんなもんだよ[2/3]
残すところ、あと一日。 明日、私の言葉一つでこの関係が変わるかもしれない。
「雅せんぱーい。」
「なにかな、鉢屋。 邪魔だからまとわりつかないで。」
「えー?」
「可愛い子ぶるんじゃない。」
廊下でたまたますれ違っただけなのにこれだ。
ほら、あんたのお友達呆れてるじゃないの。
後ろからぎゅうと抱き締めてくる鉢屋に、心臓が跳ねた。
気の迷い、今のは気の迷い! ここ二日くらい、自分にそう言い聞かせることが多い。
「桜崎先輩、すみません。」
「えーと、竹谷だよね? 慣れたから平気だよ。」
「あ、ハチずるい! 雅先輩わたしにも笑って!」
「ちょっと三郎、いい加減にしなよ。 次は実習なんだからね。 ほら、行くよ。」
「ちょ、首! 雷蔵、絞まってるやめて!」
ぎゃいぎゃい騒ぎながら不破が鉢屋の襟を掴んで引き摺っていく。
「先輩、明日ですよ!? わたし、一番で戻ってきますから!」
遠くから鉢屋が喚いているので、いってらっしゃいと送り出した。 ちなみに、鉢屋は本当に実習で一番になったらしい。
翌日、つまり告白から七日後、彼が意気揚々と報せてきたから間違いない。
「雅先輩、お返事を貰いたいんですが。」
「今日は真面目なんだね。」
「まぁ、こんなときくらいは。」
夕陽に照らされて紅く染まった五年ろ組の教室。 くノ一教室は男子禁制だから私が出向くしかないわけで、授業終わりにここを訪ねた。
「ね、三郎はまだ私のこと好き?」
「好きに決まって…、え?」
「なによ。」
「今、三郎って…。」
「うん、こんな関係も悪くないかなって。」
そう伝えたら、驚くくらい勢いよく抱きついてきたものだから、支えきれずに尻餅をついてしまった。
「ちょ、三郎落ち着い、うわっ!?」
「撤回は無しですからね。 受け付けませんから。 もう、雅って呼んでもいいんですよね。」
仕方ないなぁ、と肯定したら今までより腕の力が強くなった。
いつも後ろからだったから、なんだろう妙にドキドキする。
「さ、ぶろう。 離して、くれない?」
「やーだ。 雅、大好き。」
こいつ、こんなに意地悪かったっけ。
「雅、雅。 心臓うるさい。 そんなにわたしのこと好き?」
頭上から声が降ってくる。 歳の差を簡単にうめる身長差が憎い。 図々しく呼び捨てるし敬語使わないし、態度が急に変わるし。
なのに、たった七日間でこいつに、三郎にハマっていた自分が信じられない。
信じられないけど、
「好きだよ、バーカ。」
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