欲張り[1/2]
…また、だ。
左近たちと廊下を歩いていたら、雅先輩を見かけた。
「声、掛けないのか?」
「あー、忙しそうだし。」
行こうぜ、と促し横目で先輩を見る。
昨日は竹谷先輩を楽しそうにからかってたじゃないか。 一昨日は一年は組と遊んでた。 その前は次屋先輩と神崎先輩と手を繋いでた。 その前は潮江先輩と組手して、怪我するくらい本気でやってた。 その前は綾部先輩の頭撫でてたし。 その前は、その前は、その前は…っ!
全部、どれもこれも、おれには、おれとは、やってくんなかったくせに!
なんでなんでなんで!?
ずくり。 胸の奥にぐるぐる醜い気持ちが渦巻いて。
「三郎次?」
いつの間にかおれの前に座り込んで、上目におれを見る雅先輩になぜか苛ついた。
あれ、左近と久作は…、先に行ったのか。
周りを見回しても姿の見えない友人二人に今更ながら気付いく。
「先輩、雅先輩は、おれよりも先輩方や一年が好きなんですか。」
べちゃべちゃ、べちゃべちゃ。
自分の中にある汚いもの吐き出すように不満を叫んだ。
勢いに任せて喚き散らしたせいで、興奮からかなにからか生理的な涙が一筋、頬を伝って落ちた。
「三郎次。」
「んだよ。」
泣いたのが急に気恥ずかしくなってそっぽを向いた。
「三郎次、あんた、あんなことやって欲しかったの?」
「あ、あんなことってなんだよ!」
子供ねぇ、と呆れた声を出す雅先輩が大人っぽくて、年の差を実感する。
「あんたにしかしてないこと、たくさんあるじゃない。」
「……え。」
「例えば、そうだなぁ…。」
んー、と普段より低い声で唸ってから、ゆっくり口を開いた。
「くのたま以外で名前呼びなのはあんただけ。 抱き締めんのも、好きって言うのも、夜中に忍び込むのも、」 「は?」
「え? …あ、やべ、口が滑った。 いや、アレよアレ、授業の一環よ。」
「そんな授業があるかっ!」
「くのたまの授業と忍たまの授業を一緒にするんじゃありません。」
雅先輩はぴしゃりと言い放ち、おれの涙で濡れた頬に口付けてまたあとで、と去っていった。
その背中に向かってなにすんだ、と吠えれば、茶目っけのつもりか"これも三郎次限定だから"と返ってくる。
限定、だってさ。 ちょっとだけ嬉しくなった。
でもさ、先輩方にしてたこともしてほしいんですよ。
だって、おれはまだガキだから。 こんくらいの我が儘なら許されますよね、雅先輩。
ねぇ、雅先輩。 貴女を独り占めさせてください。
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