第四話[1/1]
三郎は、雅の言っていた"みんな"をじっと待つ。雅は雅で、みんな遅いね、とときどき三郎に声をかけている。
「私、この狐のお面けっこー好きかも。」
そう言って雅が三郎に手を伸ばしたとき、ぱあん!と音を響かせて開いた襖から青紫と紫が見えた。
「雅せんぱーい!お久しぶりっすねぇ。」
「すみません、遅れてしまいました。」
「清次郎くん、うるさい。太一くん、気にしないで。」
清次郎くんと呼ばれたのは明るい口調の紫。太一くんと呼ばれたのは線の細い青紫。
「おー、こいつ新入りっすか?よーしよしよし、こっちこーい。」
「清次郎、怯えているでしょう。ぼくは五年い組の木本太一といいます。」
「おれ、四年は組の村田清次郎!よろしくな。」
品のある太一、がさつな清次郎。ほぼ対局に位置しているであろう二人に、三郎はお互い相容れない存在なのだろうかと思った。
「怯えてねーって。口うるせーんだよなぁ、木本先輩って。」
「名字呼びですか?それは嫌味ですか、清次郎。それから敬語を使いなさい。」
「違いまーす!おれ、太一先輩のことも雅先輩のことも同じくらい好きっすよ。」
「本当に清次郎は調子がいいんですから…。」
仲良さげに冗談を言い合う先輩二人に、三郎は首を傾げる。雅はゆるい微笑を浮かべ、微笑ましそうに眺めている。
「一年生、君の名前はなんですか?」
「あ、あああの、はち、はち、」
「鉢屋三郎くんよ。」
ふいに太一に名前を聞かれ、口をぱくぱくとさせ、もたつかせた。そんな三郎の変わりに、雅は横からひょいと三郎の名を伝える。
「雅先輩ずるーい!なんで先に仲良くしてるんですか?」
「いいでしょ。二人が遅かったから、ね。」
「あの、鉢屋くんはなぜ面を被っているのですか?」
「ぅえ、えっと…。」
太一の問いにどうしよう、と黙りこんでしまった三郎に、清次郎がんな細かいこと気にすんなよ先輩、と助け船を出した。
「そうよ、太一くん。三郎くんはお面被ってようが被ってなかろうが、三郎くんなんだから。」
ねー、と雅に笑いかけられ、必死に首を縦に振る。 こくこくこくこく。
「おいおい三郎。そんなに振ってっと面取れちまうぞ?」
清次郎の言葉に素早く面を手で押さえる。そんな三郎の姿を見て、部屋に高らかな笑い声がどっ、と響いた。 笑ってごめんねー、と目尻に涙を浮かべた雅が三郎の頭を軽く二回、ぽんぽんと撫でた。 この委員会、楽しいかも。三郎は撫でられたところに触れながら、そう思った。
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