第三話[1/1]



「委員会、やだなぁ。先輩ってやっぱり怖いのかな。」


ぶつぶつと言いながら、教えられた部屋に足を進める。学級委員長が委員会をする部屋なんだそうだ。
朝からこの調子で、うだうだぐだくだと三郎の心は穏やかではなかった。


「し、失礼します。一年ろ組の鉢屋三郎です。」


襖から少し顔を覗かせて、弱々しく声をかける。


「いらっしゃい。突っ立ってないでこっちおいで。」

「あ、は、はい。」


中から聞こえた女の優しげな声に、安堵した三郎はすぱんと勢い良く開けた。
開けてから、気付いた。気持ち悪いって思われたらどうしよう、そう思って下を向く。
周りから気味悪がれているのは感付いていた。卵といえど忍者として学び始めた身、相手の雰囲気でどう思われているかくらいならなんとなくわかる。


「あ、えっと、ごめんなさい。」


しんと静まっている空気についつい反射的に頭を下げてしまう。


「なに謝ってるの?ほらほら、こっち座ってなよ。もうすぐみんな来るからね。」

「え、え?」

「私、くノ一教室六年の桜崎雅。よろしくね。」

「よろしく、お願いします。」


ふわりと微笑んだ雅に、三郎はおどおどと会釈した。
こっち座ってなよ、と言ったとき、雅が自信のすぐ横をぱたぱたと叩いていたのを思い出す。
座っていいのかな、と不安に思ったがそこに座って良いのですか?なんて三郎が聞けるわけがない。
雅の横に、ほんのちょっと距離を取り、ちょこんと座った。


「三郎くん、だよね。そのお面ってお気に入りかなにか?」

「えっと、その、そういうわけじゃなくて…。」


あう、と言葉に詰まってしまうのはよくあることだった。自然と目に涙が溜まる。
三郎はいつも通りに、手を面の中に突っ込んでごしごしと擦る。


「目、赤くなってしまうよ?」


これ使いなさい、と手拭いを差し出す。
雅の優しさに触れた三郎は照れ臭さからかなにからか、頬に熱が集まるのを感じた。
桜崎雅は優秀で、くのたまの後輩が憧れている先輩の一人である。
穏やかで、優しくて、どこにでもいそうな町娘、初めて雅に会った人は大抵そう評価する。だからこそ、忍術学園は彼女を優秀だと言う。
実際、美しい振る舞いの身のこなしが鮮やかな若い女がいたらどうだろうか。一般的に見れば綺麗な人。忍が見ればくノ一では、と真っ先に疑われるだろう。
雅は、実践では軽々と敵を翻弄し、一気に間を積めるという芸当をすました顔してやってのける。
雰囲気と戦い方のギャップが、後輩に憧れられる原因なのだ。
そんな彼女と、三郎の物語。それはこの日からすでに始まっていた。


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