第一話[1/1]
「雅先輩!」
「私はもう"先輩"じゃないよ。今は事務員なんだから。」
「いいえ、わたしにとっては"先輩"なんです。」
「そう。で、今日はどんなご用件なの?」
「雅先輩、先輩は今日も素敵ですね。いつにも増して輝いて見えます。」
「そういうのは好きな子にでもいいなさい。いつからこんなんになっちゃったんだろうね、三郎くん。」
今日も今日とて級友不和雷蔵の顔を拝借している鉢屋三郎は、事務員桜崎雅に猛アタック中である。 そもそも、年の差四つに元先輩後輩という関係もあって、三郎は完璧に弟扱いだ。故に、軽くあしらわれてしまう。 自身の気持ちに気付いて早数年、めげずに好意を伝え続ける三郎に、それを毎度受け流す雅を眺めるという行為は五年生の日課となりつつある。
「これがわたしの通常運転です。」
「じゃあ、私が学園に在学していたころの三郎くんはなんなんだろうねぇ。」
「黒歴史です忘れてください。」
「忘れてあげるからそこ退いてくれる?今、掃き掃除してるの。」
「あ、はい。では、わたしはこれで。」
「勉強頑張ってね。」
いつの間にか雅に話をすり替えられて、その場を立ち去るなんてのも日常茶飯事なわけで。
「あ、三郎!今日はどうだった?」
「上手くいったか?」
なんて、級友たちに声掛けられてから話をすり替えられたことに気付くときも多々ある。
「あ。」
「また?」
「ま、またとはなんだ!」
「失敗かー。雷蔵、ちゃんと団子奢れよ?」
「わかってるってば。あーもう、またぼくの一人負け?いい加減に成功してよね。」
「え、え、ちょっ、なに?」
賭けの対象になることもしばしば。 最初のうちこそ成功と失敗で分かれていたが、今となっては雷蔵以外が失敗に賭けるものだから、雷蔵の一人負けも確定している。それでも三郎が成功する方に賭けている雷蔵は、三郎を応援し続けているのだろう。
「賭け?お前ら、そんなにわたしが嫌いか?」
「え、鉢屋そんなことも知らなかったの?」
「勘ちゃん、やめてあげて。」
「しょうがないな。ごめんね、嘘だよー。」
「……あと少しネタバレが遅かったら泣くとこだった。ていうか、わたしは絶対に雅先輩と恋仲になってみせるからな!」
「はいはい、なれるといいなー。」
「なる! なるったらなる!」
むきー、と声を荒げる。 そもそも、三郎がなんでこんなにも雅に好意を寄せ、隣に居ることを望むのかというと、それは四年前に遡る。つまり、雅が学園にいるときに三郎に好かれるほどのなにかをしたということになるのだ。
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