第五話[1/1]



一年生たちがきゃっきゃと元気良く遊んでいる場所から少し離れた木の下。そこに三郎が居た。


「三郎くんは、遊びに行かないの?」

「わ、たしは、いいんです。友達なんていませんから。」


頭上から降り注いだ声に体をびくりとさせたが、相手が雅だとわかったのか、いくらか話しやすそうに言葉を紡ぐ。


「そうなの?」


そうです、と告げようとして口を開いた瞬間、それは同輩の声によってかきけされた。


「鉢屋ぁー!桜崎先輩と仲良いのか?」

「え、えっと…。」


三郎は気まずそうに雅をちらりと盗み見た。視線に気付いた雅は頭上に疑問符を浮かべながらきょとんとしている。


「仲は良いつもりなんだけどねぇ。」

「わ、わたしもそのつもりです。」


やだ、両想い?とおどける雅にわたわたする三郎。それを少しつまらなそうに見つめる三郎の同輩。


「あぁ、そうだった。今日の学級委員長委員会お休みよ。」

「……え。」

「学園長がお出掛けらしいの。」


今日は先輩たちに会えないのか、と肩を落とす。
しばらくして鐘が鳴り響き、次実習だった、と駆け出す雅を見送ってから三郎も教室に向かって歩き出した。


「鉢屋さ、委員会楽しい?」

「う、ん。みんな優しいし。えっと、君は?」

「おれ?おれは、生き物好きだし楽しいよ。」


そうじゃなくて名前が聞きたいのに、と密かに思っていたら、三郎の気持ちを察してか、同輩はおれの名前知らねーの?と笑った。


「おれ、竹谷八左ヱ門。はちって呼んでくれ。」

「わかった。」

「隣の席なんだしこれから仲良くしよーぜ、三郎!」


さぶろう!
同い年の子から名前で呼ばれ、三郎は頬を紅潮させた。
嬉しい嬉しい嬉しい。
戸惑いながらも話に華を咲かせていたら、鐘が鳴った。


「うわ、授業始まっちまった!急ぐぞ三郎!」

「わっ!」


手を引っ張られ、走らさせる。廊下を騒がしく駆け抜けて、八左ヱ門はすんません!と教室の扉を開けた。


「竹谷、何度言えば…ん?鉢屋まで…、一体どうしたんだ?」

「すみませ、」

「三郎は悪くないよ。おれが話し込んじゃったから。」

「はち…。」


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