七松小平太[1/1]
あー、チョコうまー。
食堂で特別に貰った板状のチョコをぱきりぱきりと一口大に折りながら食べる。
廊下ですれ違う後輩が羨ましそうに見てきたときはちゃんと与えました。 私ってば超優しい。
「あ。」
「おっ!雅、バレーしよう!」
「ざけんな、お前とバレーなんてやったら体痛めるわ!」
知らない間に鬼ごっこに発展していたようで、私はチョコを片手に全力疾走。さぞかしシュールだろうな。 こんなことばっかりやってるからかなんなのか、気づいた頃にはくのたまで一番足が早くなっていた。
「雅ー!手に持ってるのなんだ?」
「チョコだけど。」
「わたしにもくれ!」
「いいよやるよ!やるから止まれ!」
急ブレーキをかけて止まる小平太を確認してから、私も足を止める。 ぜーはーと肩で息をする私とは正反対にピンピンしている小平太。 こいつ、本当は化け物じゃないのかと何度疑ったことか。
「雅!チョコ!」
「ん。」
自分で割れ、という意味だったんだけどな…。 私の腕を掴んでそのまま自分の口にチョコを運んでいた。 ていうか、そんなに変な方向に腕引っ張られると…。
「いっ!痛い痛い痛い!肩脱臼する!離せ馬鹿っ!」
小平太の手を勢いよく振り払い腕を救出する。 あー、痛かった。
「チョコ旨いな。」
「え?あ、うん。」
それを見てみるとかなりの量が減っていた。
「ねぇ、遠慮って言葉知ってる?」
「当たり前だろう。わたしはもう十五だぞ。」
ああ、なんだ。言葉は知ってたのか。 意味は理解できてない、と。なるほど、把握した。
「雅は本当に面白いな!」
「そーすか。」
「雅はわたしといて楽しいか?」
「まあ、そりゃあね。」
私のチョコが…。 項垂れたままだらだらと音を繋ぐ。
小平太は小平太で腕を組み、そうか、楽しいか、なんてぶつぶつ呟いている。 うん、わたしも雅といると楽しい。 そう言って顔をぱっ、と私に向ける。
よし!と力一杯に私の肩を掴むもんだから、少したじろいた。
それに肩痛いし。小平太は自分の力の強さを再認識すべきだと思う。
なに、と問いかけようとした言葉は、次にこいつの口から出てきた言葉によって、奇声にすり変わってしまった。
(決めた、お前は今日からわたしの彼女な!)
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