皆本金吾[1/1]
「戸部新左ヱ門はいるか?」
金吾と剣の練習をしてたら、花房牧之介がやってきた。 私、この人苦手なんだよねぇ。
戸部先生も居ないし、早く帰ってもらおう。
「なんの用かしら。戸部先生は使いに出てらっしゃるの。お引き取りくださいな。」
にこりと笑顔をつくり、笑いかけた。 金吾は横で目をぱちくりさせている。 すごいだろう、これがくのたまだ。
「お引き取りと言われてもな。」
「なにかご不満でも?ありませんわよね。さあさ、お帰りくださいませ。小松田さん、出門票!」
学園の外に放り出して、あとのことを小松田さんに託した。ちょっと不安だけど別にいいや。
「雅先輩ってあんな喋り方できたんですね!」
「どういう意味よ。」
「だって先輩、男っぽいから…いひゃいれす。」
頬をにょーんと引っ張ってやる。
昨日は泣き言言ってたくせに。 金吾は甘えてきたり泣きついてきたり、さっきみたいに減らず口を叩いたりする。
憧れが戸部先生、という共通点を除けば絶対に関わらないような子。
最初こそイライラしていたが、今となっては可愛い弟みたいなそんな感じ。 あと、金吾泣かせると七松が怖いからね。
「それにしても牧之介を追い返せるなんて、雅先輩はすごいですね。」
「そんなもんかねぇ。」
「そんなもんですよ!あ、先輩チョコ食べませんか?」
「いいの?食べる食べるー。」
どこから入手したかは知らないが、好きだから素直に貰うことにした。 木陰に二人ならんで腰掛け、もきゅもきゅと口に広がる甘さを味わう。
「雅先輩、チョコって好きな人に今日あげるものなんですって。」
「そーなんだ。」
「ぼく、雅先輩が好きなんです。」
「へー。ごめんねー、私より強い人が好みなの。」
金吾の好きがどんな意味を持っているのかは知らない。 あ、でも先輩としてだったら私恥ずかしい人になるなぁ。
「そう、なんですか。」
がっくりと項垂れる金吾にどうしたものかと頭を捻る。
「じゃあ、ぼくが大きくなって、先輩より強くなったら付き合ってくれますか?」
「考えとく。」
練習再開しようか、と立ち上がると少し疲れた感じの戸部先生が目にはいる。
「戸部先生!ほら、行くよ金吾。」
「はい!」
戸部先生に向かって駆け出した私は、後ろから聞こえた金吾の声に、不覚にもときめいた。
―もし、本当にぼくが雅先輩に勝てたら、そのときは…、
(拒否権なんてあげませんから)
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