時友四郎兵衛[1/1]



「四郎兵衛ぇぇえ!」

「雅先輩?」


勢いよくぼくに抱き付いてくる雅先輩に一緒にいた三郎次と左近がびっくりしてる。久作は図書当番だって。


「もういや!女の子怖い!っていうかくのたま怖い!」


なんであんなに楽しそうなの!?と嘆く雅先輩。
級友たちと顔を見合わせていると、先輩が急にがばりと顔をあげた。


「くのたまからなにか貰ったりしてないでしょうね!?」

「あ、ぼく貰いました。」

「捨てなさい。絶対に食べるんじゃないわよ。」


遠い目をして左近を諭す先輩に、なにがあったのかを聞いてみた。


「くのたまの後輩がね、肢体麻痺させる薬持ってきて"これってどのくらいなら死なないですかー?"って聞いてきたんだよ。しかも即効性じゃなく、じわじわ効いてくるやつ。」


うわぁ…。でも七松先輩なら平気そうだなぁなんて考えてたら、横で三郎次がえげつねぇ…、と顔をしかめてた。


「でね、なにに使うのって聞いたら、チョコに混ぜるって言われた。やめてあげて可哀想じゃないって言ったら、私たちだって忍たまたちに毒耐性つけてもらおうと涙を飲んで、なんて泣き出すんだもん。」


でもよくよく考えたら嘘泣きって私たちの十八番なんだよね。一瞬でも動揺した私を誰が殴って!そう言いながら地べたに手を付き項垂れる雅先輩。


「七松先輩呼んできましょうか?」

「やめて!首が変なふうにねじれる!」


雅先輩は七松先輩を化け物かなにかだと思ってるのかな。


「話戻すけどね、後輩は後輩でも下級生は可愛いもんだったよ。上級生なんて"この毒の致死量ってどのくらいですか?"とか"この虫って即効性の猛毒ありましたよね?"とかさ。え、なに、殺す気?って思ったよ。」


三郎次と左近が顔を真っ青にしてる。
ぼくはどうなんだろ。でも怖いのは確か。


「先輩は作ったんですか?」

「作らされました。大丈夫、毒とか薬とかはいれてない。」


いれられそうになったから死守した、とまたもや遠い目をする雅先輩。


「良かったら食べる?」

「えっと…。」


雅先輩はそんなことするような人じゃないと思うけど、でも。
やっぱり不安でちらりと先輩を見る。


「うん、まぁ、疑うのも大切だよ。」


ぼくの視線に気付いた先輩は、手に持っている袋からチョコを一つ取り出して、自分の口に入れた。


「不味くはないよ。」


ほら、と袋を差し出すから、おずおずと受け取る。


「おいしいです。」


(ぼくと先輩なら幸せになれると思うんですよねぇ)


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