平滝夜叉丸[1/1]
「はろー滝ちゃん。お疲れかい?」
「雅先輩、見てわかりませんか?」
「お疲れなんですねわかってますだからそんな目で見ないで。」
いやに冷めた目でじとりと見られたので、一息に言い切ると、ぐったりとした顔が少し緩んだ。
「疲れたときには甘いものが一番なわけよ。」
「…はぁ。」
「そこで、心優しい雅先輩が差し入れに甘いものを持ってきました。大いに感謝なさい。」
おどけて言えば、どこが、と吐き捨てるように言われた。 そんなことをいうのはこの口か、を彼の頬をしばらく引っ張り、唐突にぱんと離した。 あー、痛い痛い、なんて若干赤くなったそれをさすっている。
「わざわざ今日に甘味の話をするってことは、そういう意味ですよね?」
「なんだ、気付いてたの。つまんないのー。」
アイドルたるもの時の流れにのれなくてはうんたらかんたら。 ぐだぐたし始める滝ちゃんに綺麗に包装した甘ったるい物体の入った袋を差し出す。
「薬とかは入れてないから。」
「ありがとうございます。」
「ちょっと待て、なんで貰って当然みたいな顔してんの。」
「え?なぜって、雅先輩はこの滝夜叉丸のことを好いているのでしょう?」
「私が、いつ、どこで、お前に、好きだと言った?」
「おや、違うんですか。」
はぁぁ、とため息をついて頭を抱えている間にも、包装を解いてチョコを取り出す滝ちゃん。
って、今食うんかい!ならせめていただきますくらい言えよ。 もっきゅもっきゅとチョコを食べる滝ちゃんをじーっとガン見する。 ばち、と視線が絡み、ぱちくりする滝ちゃんに美味しいだろ、と得意気に問う。
「雅先輩にしては上出来じゃないですか?」
「滝ちゃんってばいつからそんな子になっちゃったの。」
「先輩も食べます?」
「あ、食べたい。」
見事に話をすり替えられ、しかも食欲に負けるという先輩らしからぬ失態を悔やむ。 が、食べたいものは食べたいんだ。仕方ない、うん、仕方ないよ。
「雅先輩。」
なに?という言葉を飲み込んだ私の耳に入ってきたのは小さなリップ音。 柔らかいなにかが唇に触れ、それはほんのりと甘かった。
「甘いですね、チョコって。……あれ、雅先輩?」
「お前今なにをした。」
「なにって…、接吻ですが。」
しれっと言ってのける滝ちゃんは、ちょっとだけ、ほんのちょっとだけ罪悪感を感じたように目を伏せた。
(口吸いしてほしそうな顔してましたから、つい)
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