潮江文次郎[1/1]
「文次ー、ぱっぴーばれんたいーん。」
チョコを手に、文次郎の前に正座してにこにこと馬鹿みたいに笑顔を浮かべる。
「………。」
「気持ち悪いぞ、雅。そんな甘ったるい声を出すな虫酸が走る。」
「別に仙蔵には言ってないし。」
忍たまの友を持ったままこちらを見てぽかんとしている文次郎に、いつになくテンションの高い仙蔵。
「なんだ、そのぱっぴーなんとかっつーのは。」
「そもそも、なんで文次郎とわたしでそんなに反応が違うんだ!?ていうか文次郎に媚売ってるのが丸わかりだぞ。」
「愛を込めてチョコレートを送る日だよー。」
「無視か!?」
「うっさい仙蔵。私は必死なんだ、邪魔しないで。」
未だキーキー喚く仙蔵を一喝して、文次郎に媚を全力で売ることに専念することにする。
「はいっ、これ受け取って?」
「おぉ、すまん。」
なんだろうね。ここまで来るとさすがに自分に引くわ。 あからさますぎる媚の売り方は痛々しいことがわかった。
「文次郎ー、好きだよー。」
「おう。」
「………。あの、意味通じてる?」
「当たり前だろ。」
にしては返事が軽すぎやしないか? 愛のこもった告白の返事が"おう"ってなによ。 普段から好き好き言ってたから、その延長線上だと思われてるのかな。 私はいつになく必死なのに!いや、いつも必死だけどね。
「もーんーじーろーう?私、愛してるって意味で言ってるんだけど。ライクじゃなくてラブなの!返事ちょーだいよ。」
「……。まぁ、それは貰ってやるよ。」
「ほんとっ?え、ていうかそれだけ?」
ぱっ、とひったくるようにチョコを取られ、いやだかっこいい!とか思っていたらいつの間にか文次郎は部屋を出ようとしていた。
え?仙蔵?仙蔵ならもうやだこいつ、とかなんとかほざいて音もなく部屋を出ていったけど。
「へ、ちょ、ちょっと文次郎!?」
「おれは三禁を破る気はねぇ。」
「それ、返事なわけ?」
「……あぁ、素の雅のが好みだな。」
なんというね。うっわぁ、私恥ずかしい。 もうぶりっ子やめよう。素でいこう、素で。
今までの努力はなんだったんだ。あーあ、馬鹿みたい。 こうなったら意地でも文次郎に好きって言ってもらうんだから。
あと数ヶ月、悔いなんて残してたまるもんですか。
「絶対、私のこと好きになってもらうから!」
「落とせるもんなら落としてみろよ。」
「あーもう!なんでそんな余裕なのよ!?」
(このおれを誰だと思ってる)
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