神崎左門[1/1]
「こんばんはー。お手伝いに来ました、桜崎です。」
「おー、入れ。」
突然聞こえた声にどきりとした。 音をたてずに中に入ってくる雅先輩は真っ先に潮江先輩に近付いた。
「潮江、お前私がなに委員会か知ってる?学級委員長なめんなよ。」
「予算で菓子食ってるだけだろうが。お前計算得意なんだからいいだろ。」
「よくねーし。私の睡眠時間が削られんだよ。」
「あぁ?忍なんて徹夜してなんぼだろ。」
「は?お前なに言ってんの、馬鹿じゃない?」
一言で言う。雅先輩は血の気が多い。
「ちょっと、先輩方!喧嘩してないで計算してください。」
「ごめんね田村。」
「す、すまん。」
「ごめんついでに、私と潮江の間に入ってくんない?じゃないとまた喧嘩しそう。」
「はぁ、わかりました。左門、先輩に迷惑掛けるなよ。」
苦笑いをする雅先輩に、ため息をつく田村先輩。 本来なら、雅先輩が潮江先輩の横に座ればいいのだが、隣に並ぶと必ず喧嘩が勃発する。
そうなると、ぼくらの内の誰かが潮江先輩の横に行くハメになる。 そんなことになったらプレッシャーで計算どころじゃない。 必然的に田村先輩が"ならわたしが。"と名乗りをあげる。
それを繰り返すこと十数回。 今となっては雅先輩が来ると、田村先輩は潮江先輩の横に、雅先輩は田村先輩の定位置につくようになった。
―パチン、パチン、…パチパチ
算盤を弾く音だけが部屋に響く。
パチパチ、パチン。 あ、間違えた。
パチン。 あれ?
パチン、パチ、パチパチ。 おっかしいな。普段はこんなに間違えないのに。
無意識に背筋を伸ばしていたら、今日は寝ないんだな、と田村先輩に言われた。
「ぼくはいつも寝てなどいません!」
「…そうか。潮江先輩、わたしへばった一年を部屋まで運んできます。」
「おう。」
一年を抱えて部屋を出ていく田村先輩をぼーっと見てると、頭上から声が聞こえた。
「神崎、頭回らない?」
「いえ、そういうわけじゃ…。」
「ふーん。別にどうでもいいや、口開けて。」
言われた通りにして待っていると、口の中に固くて甘いものが放り込まれた。
「それ、疲れの吹っ飛ぶ魔法の薬。」
こんな渡し方しかできなくてごめんね、と呟く雅先輩。
パチ、パチパチ。 また間違った。
(先輩と一緒だとなんか調子狂うんですよね)
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