田村三木ヱ門[1/1]



今日はハロウィンという行事がある日らしい。

潮江先輩は立花曰く"とりっくおあとりーと"と言いお菓子を貰えなかったら悪戯をしてもいい日だってよ、と言っていた。

年下にやるのは可哀想だから、雅あたりに悪戯してきたらどうだ?とも言われたな。
それにしても、悪戯ってなにをするんだ?


「お、田村。」

「!潮江先輩。」

「どうだ、うまくいったか?」

「いえ、まだなにも…。」


なにをすればいいのはわからない、と伝えればお前らは付き合ってるよな、と問われた。


「あ、はい。」


改めて聞かれると恥ずかしいものがある、顔が熱い。


「なら、嫌いだって言ってこい。」


目をぱちくりさせる。
そんなことをして嫌われはしないだろうか。


「早く行ってストレス発散させてこい。」

「はぁ。」


委員会の先輩に後押しされてはやるしかない。
なるようになれ!と覚悟を決めて雅を探すと、競合地区の隅に彼女はいた。


「雅先輩!"とりっくおあとりーと"です。」

「三木ちゃん。…て、え? とりっく…なんだって?」


雅先輩は意味がわかってないようだけど、いいだろう。


「せ、先輩…っ。ぼく、先輩のこと嫌いです!!」


早口で捲し立てるように言った。
…あ、れ?反応がない。
雅先輩の顔をちらりと盗み見ると、悲しそうに顔を歪めて涙で瞳を濡らしていた。


「雅先輩!?」

「そ、か。なんかごめんね、いままで。」


だっ、という効果音の似合う走りだし方でぼくから遠ざかった。
どうしよう、どうしよう、傷付けた。
体力的には男と女だし、委員会で鍛練させられているから先輩に追い付くことくらいはできる。だが、二年の差はやはり大きい。
なんとか追い付けた頃には息も絶え絶えだった。
ぼくに腕を掴まれた先輩は涙を溜めてはいたものの呼吸は乱れていなかった。


「離してよ。離して、三木ちゃん。」

「や、いやです!ごめんなさい雅先輩、嘘なんです。」


俯いたままの先輩に潮江先輩とのやりとりを必死に話すと、先輩の肩がふるふると震えだす。


「雅先輩?」

「ぷ、あははっ。三木ちゃんてば必死ー!」

「なっ!?」


さっきまで傷心したような素振りを見せていた雅先輩が声をあげて笑っている。


「三木ちゃんって嘘吐くとき、早口だし私の名前呼ばないの。」


知ってた?と上品に笑顔を浮かべる雅先輩に頬が赤く色づいたのがわかった。


「じゃあ、先程泣いていたのは…、」

「演技よ。上手かったでしょう?」

貴女にはなにがあっても敵わない。

…潮江先輩、すみません。
先輩のお気遣いを無にしてしまいました。


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